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恋をした相手は、同級生のAV監督でした。  作者: 香坂 蓮
ハンサムは健気で女々しい
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2-5 初デートはベタがお好みですか?

 高校生、デート……うらやましい(笑)


 そういえば今日は8/9……ハグの日だそうですね!誰か私にハグをしてくれる、優しい方はいらっしゃらないでしょうか(´・ω・`)


 というわけで、どうぞ!

 楽しい時間はあっという間に過ぎるというが、デートまでのおよそ一週間の時間は、笑麻にとって本当に一瞬のように感じられた。ご機嫌な笑麻は毎朝デートの話を悠斗に持ち掛けた。


「東京タワーが見たいなぁ。でも雷門も行ってみたいし……お台場もいいよね!」


「さすがに全部は無理だからね?」


 ちなみに前日は他の観光名所を上げていた笑麻である。呆れたようにたしなめられることすらも、笑麻にとっては幸せなことだった。まだお付き合いにはいたってないことは分かっている。そこに至るまでにはまだ悠斗の心の壁がいくつかあることもなんとなく感じている。それでも、まるでカップルのようなこの時間がたまらなく嬉しかった。

 

 そして迎えたデート当日。以前に悠斗が選んでくれた服に身を包み、笑麻は待ち合わせ場所である駅に向かった。待ち合わせ時間にはまだ十五分近くある。しかし笑麻は自分を待っているであろう悠斗の姿を探す。そして……


「悠斗くん!」


 当然のように立っている悠斗に笑麻の顔がほころぶ。悠斗が待ち合わせの際に三十分近く前から待っていることは翔太から聞かされていた。なにが原因なのかは知らないが、何度言っても頑なに早く来るらしい。悠斗らしい偏屈な一面である。


「……。おはよ。じゃあ行こうか」


 笑麻を一瞥すると悠斗は改札の方へと向かう。しかし少し歩くと立ち止まり笑麻の方を振り返る。


「これ。今日一日貸しとくから」


 手渡されたのは電車用のICカードであった。


「そんな、悪いよ!自分の分は自分で払うから」


 慌てて笑麻はカードを返そうとする。


「……『初デートくらいは男がもちなさい!』ってお金を押し付けられたんだよ」


 疲れたような悠斗の口ぶりに笑麻は香織からのメールを思い出す。

 

 おそらくはデートのことを翔太から知らされたのだろう。文面からでも興奮が伝わるようなメールが送られてきたのだ。たしか一通のメールの中だけで「ありがとう」という言葉が四回も入っていた。


「……あとで香織さんにお礼のメールしとくね」


 親からお金を貰ったことを言ってしまうところがなんとも悠斗らしい。


 そんなことを思いつつ笑麻はカードを受け入れる。それを確認した悠斗は再び前を向いて歩き始めた。笑麻はその半歩後ろを歩く。最近はいつもこの位置で悠斗の横顔を盗み見ている笑麻だが、デートの日の悠斗は不思議といつもと違った表情に見えた。


………

……


 笑麻にとって人生で二度目のスカイツリーは、やはり高かった。週末で観光客が多く展望台に上ることは出来なかったが、下から見るだけでもその迫力は十二分に味わうことが出来た。

 

 ソラマチで高校生らしくウインドウショッピングを楽しんだ後は浅草へと向かう。テレビで何度も観た、しかし実際には初めて見る雷門に笑麻は大興奮だった。写真に写ることを嫌がる悠斗をなんとか説き伏せ、一枚だけだがツーショットを撮れたこともあり、気分は最高潮である。

 

 その次に向かったのはお台場であった。時刻は昼を少し回った頃、遅めの昼食となる。レストランはまだどこも混んでいたこともあり、二人は海が見える展望デッキで軽食を取ることにした。冬の海風は冷たいが、それでもデッキには多くの人がいる。二人はテイクアウトしたコーヒーで身を暖めながら東京湾のパノラマを楽しんだ。

 

 その後は二人でお台場を探索である。クリスマスが近づく街並みはいつも以上に賑やかで華やかだ。お台場は比較的若者向けの商品も売っているため、ウインドウショッピングだけではなく買い物も少し楽しんだ。またランドマークとなっている実寸大のガンダムは、作品を観たことがない笑麻ですら思わず声をあげてしまうほどの迫力であった。

 

 そして二人は本日最後の目的地へと移動する。東京のシンボル、東京タワーである。時刻は六時まであと少しといったところか。真っ暗な夜空に向かって突きあがる東京タワーは美しく圧巻であった。


「真下から見るとすごいね!」


 東京タワーは何度も見たことがある笑麻であったが、真下まで来たのは初めてであった。東京タワーにのぼってしまうと、そこから見える夜景に東京タワーが存在しないため夜景としての価値が下がる、などと時々言われることがある。しかしそれを補って余りあるほどの価値が、真下から見る夜の東京タワーにはある。


「さて……上に行こうか」


 しばらく見上げた後、悠斗が声を掛ける。なんとなくだが写真は撮らなかった。少しでも目に焼き付けて置きたい景色だったのかもしれない。

 

 エレベーターで空へと昇る。展望台はまるで宇宙船のようであった。東京の近未来的な夜景を邪魔することのない空間の演出である。


「きれい……」


 東京の夜景ならば何度か見たことがある。夜を彩るビル街の明かりはいつでも美しかったが、今日の夜景は格別であった。隣にはオレンジ色に染まる悠斗の横顔がある。


「……楽しかったよ」


 ボソッと、独り言のような声。その横顔を見ていた笑麻が聞き逃すことはなかった。


「また来たいね」


 自分でも初めて聞いたような優しい声が出る。

 

 悠斗からの返事はない。二人の間に流れる静寂が笑麻には心地よかった。


「さて、そろそろ帰ろうか」


「そうだね」


 二人は下りのエレベーターへと向かう。展望台はあれだけ人が多かったのに、上りの時と違い下りのエレベーターには他の人が乗っていなかった。


「今日はありがとう!悠斗くんのデートプラン……すごく楽しかった」


「だから……」


「ううん!デートだよ」


 悠斗に続きの言葉を言わせず笑麻が引き取る。ジッと目を見てそらさない笑麻に、「じゃあそれでいい」とボヤキながら悠斗は目をそらす。笑麻はイタズラっぽく、にっこりとエクボを作った。


「クリスマスも……デートしたいなぁ」


 わざと聞こえるような独り言を、笑麻が呟く。

 

 悠斗が無反応なのを見ると、さらに大きな声でもう一度呟いた。


「バカバカしい。なんでわざわざ人が一番多い日に外にでなきゃいけないのさ」


「クリスマスは恋人達の日だよ!?楽しみたいじゃない」


「クリスマスはキリストの誕生日だ。一人で教会にでも行ってバースデーソングでも歌うことだね。そもそも、僕たちは恋人じゃあない」


 その言葉に頬を膨らませる笑麻。

 

 しかし内心では全く怒っておらず、「これは長期戦になるな」と腕まくりをしているのだが、それは悠斗には言わない。


 エレベーターのドアが開く。ラウンジにはこれから展望台へと向かう人々が待っていた。外国人観光客が多いように感じるが、日本人のカップルも数組待っている。


「帰ったら綾ちゃんと黒木くんにメールしなきゃ。『すっごく楽しかった』って」


 悠斗の隣で笑麻が言う。


「……その必要はないと思うけどね」


 そのつぶやきはラウンジに響く賑やかな声にかき消され、笑麻まで届くことは無かった。



 東京タワーのエレベーターエントランス。多くの観光客が吐き出されてくる中に翔太と綾香の姿があった。


「やばい……見失った」


「まさか帰りのエレベーターに乗る人があんなに少ないなんて」


 タイミングの問題であろうか、翔太達二人が乗ったエレベーターには、団体客が一緒になったこともありそれなりの人数が同乗していた。悠斗達が乗ったエレベーターにはなぜ一人も乗らなかったのか。謎である。


「とりあえず中を探してみよっか」


「そうだな」


 そう言って一歩踏み出した途端に、翔太のスマホが振動する。歩き始めた綾香を引き留め翔太はスマホを開く。


『一階のフードコートでご飯食べたら帰るから』


「……げっ!?」


「どうした?」


 画面を見たまま硬直した翔太に綾香がキョトンとした顔で問いかける。そんな綾香に翔太が無言でスマホの画面を見せると綾香も固まってしまった。


『悠斗さんや……いつから気付いてたんだい?』


 もはや笑うしかない、というような表情を浮かべながら翔太は返事を送る。するとほんの一拍もしないうちに返事が送られてくる。


『待ち合わせ場所の時点。最初から居ると思って探せば誰だって分かる』


「笑麻ちゃんも知ってたりする?」


『言ってないし言うつもりもない』


 ひとまず笑麻は尾行の事を知らないということで、特に綾香は一安心する。基本穏やかな性格をしている笑麻だが、怒ると怖いのだ。悠斗から連続してメールが届く。


『どうせ宮本さんを送って帰るんでしょ?適当なとこでご飯食べて帰ったら?』


『返事いらないから』


 その内容に翔太はふとあることに気付く。そういえば悠斗は、自分といる時も目の前でスマホをいじることはほとんどしなかったなと。本人は認めないだろうが、おそらく目の前にいる笑麻に配慮しているのだろう。偏屈だが変なところで律儀な男である。

 

 悠斗から来たメールを綾香に見せると翔太は提案する。


「まぁあいつのことだ……ちゃんと笑麻ちゃんのことを送って帰るでしょ。お言葉に甘えて俺たちも帰ろう」


「分かった……。ただ翔太の家って結構うちから遠いでしょ?いいよ、一人で帰るし」


「いやいや。そこは男の義務ってやつでしょ」


 しばらくの言い争いの後、結局は「悠斗にバレたらかっこ悪い」という翔太の言い分が通り、綾香は家まで送られることとなる。ファミリーレストランで食事を終える頃には時刻は八時を過ぎていた。

 

 高校生らしく、綾香の門限は十時である。ドリンクバーを楽しみながらおしゃべりをする、というわけにはいかず二人は家路についた。


「いやぁ……悠斗のやつ、なんだかんだでちゃんとデートしてたね」


「ほんと。笑麻も楽しそうでよかった」


 綾香から見ても笑麻は楽しそうであった。念願の初デートだったということを差し引いても、デートプランそのものを楽しんでいたように思う。


「まぁそのおかげで俺たちも楽しかったじゃない」


「……そうだね」


 そう、楽しかったのだ。

 

 思えば綾香にとってはこれが人生で初めてのデートだったのかもしれない。尾行がデートと言えるかは定かではないが、少なくとも男性と二人で出掛けていることは間違いない。なんの気兼ねもなく二人で時間を過ごせた事実に綾香は驚いていた。

 

 少し、綾香の歴史を振り返ってみる。


 中学生になって最初の二週間で、綾香は五人の男子から告白された。それも全員が告白の時に初めて顔を見た人からである。入学と同時に「かわいい子が一年にいる」と噂になったため、上級生が早い者勝ちだとばかりに殺到したのだが、それが綾香にとっての男性不信の始まりであった。


(なんで会ったこともない人に「好き」だなんて言えるんだろう)


 少なくとも綾香にその感覚はない。


 校内で名の知れたイケメンであるらしい三年生から告白された際も、こみあげてくるのは不信感だけだった。ちなみにそのイケメンの先輩からの告白を断って以降は、顔につられてホイホイと付き合ってしまうタイプではないと認識されたのか見知らぬ上級生からの告白は一段落することになる。


 しかし、それ以降告白してくる男子も綾香にとっては不快感を覚えるような男子ばかりであった。なんというか、軽薄なのだ。少なくとも自分のことを好きでという感情が伝わってこない。友人に言われた、「『綾香と付き合ってる俺かっけー』って思いたいのよ」という言葉が心からしっくりきてしまったのだ。

 

 綾香自身は、自分と付き合うことがステータスになどなるわけがないと思っているし、そんなことを望んでもいない。自らを不細工だと卑下することはないが、一方で飛びぬけた美人だとも思っていない。にも関わらずそんな勘違いの元に寄って来る男子が不快で仕方なかった。肩まであった綺麗な髪をばっさりと切ったのもちょうどこの頃である。


 中学三年生になる頃にはそういったことも少なくなった。


 時々顔も知らない下級生が告白をしてくることはあったが、上級生に告白された時と違って緊張が全身からにじみ出ていたので、少しかわいらしく感じられたほどである。


 また同級生の間ではその気さくでサバサバした性格から慕われ、「みんなの綾香」というポジションに収まっていた。これは高校に入ってからも変わっていない。

 

 そんな綾香だが、これまで何人か好きになった人が存在する。しかしその全てが既に彼女がいる男子であった。


 彼女がいるゆえに余裕があり紳士な対応がとれるし、女子の扱いにも慣れている。軽薄な男子に言い寄られることにうんざりしていた綾香にとってそういう男子はとても魅力的に映った。


 とはいえ綾香は「彼女から奪ってやろう」というタイプではない。むしろ彼女との幸せを願うタイプである。片思いを全て心の内にしまい込み続けた結果、モテるにも関わらずこれまで誰ともお付き合いをしたことが無いという結果になったのである。


 改めて目の前に立つ翔太を見る。


 白のニットにグリーンのジャケット。まるで雑誌の中からそのまま出てきたかのように見えるのは、着こなす翔太のルックスのためだろう。


 これだけかっこいいうえに気遣いも出来る。それは今日一日で痛いほど思い知らされた。行動の随所に、綾香へのさりげない思いやりが感じられたのだ。


(なんでこれで彼女がいないんだろう)


 翔太に長く彼女がいないことは本人から聞いている。


 確か『対策委員会』とは別の、悠斗も含めた四人でのグループチャットで話していたときのことである。あれから数か月が経ったが、いまだ彼女が出来たという話は聞かない。そういえば、「なぜ翔太には彼女が出来ないと思うか」と問われた悠斗はこう答えていた。


『女々しいからじゃない?……まぁ僕は悪くないと思うけど』


 あれはどういう意味だったのだろう。あの時は翔太が冗談っぽく流したためにそのまま終わってしまったが何か意味があったのだろうか。


 グルグルと思考は巡る。


 ある意味、笑麻と綾香の性格は真逆といえるかもしれない。おとなしくかわいらしい性格をしているが、一度決めると頑固にその道を突き進む笑麻。対して綾香は男勝りでサバサバしているが、いざ重要なことがあると色々なことを考えてしまい、思い悩む。


「……っ!綾香ちゃん!」


「……えっ!?」


「どうした?ボーっとしてたけど?」


 翔太の声に我に返る綾香。


 満員電車とは言わないまでも、帰宅する人たちで込み合った車内。心配そうな顔をしてこちらをのぞき込んでいる翔太に思わず綾香は赤面する。


「結構移動したもんなー。帰ったらゆっくり休みな」


 こういう心遣いが綾香にとって嬉しいのだ。


 見た目も中身もボーイッシュな綾香の体調面を心配してくれる男子は実は少ない。いくら剣道で鍛えているとはいえ、綾香だって女の子なのである。


「翔太はさ……なんで彼女作らないの?」


 言った直後に綾香は後悔する。なんの脈略もなく自分は何を言っているんだと。絶対不審に思われていると内心でビクビクしている綾香に翔太の優しい声が届く。


「……好きな人がいるんだ。小さい頃からずっと。憧れてるんだよ」


「そう……なんだ」


 思った以上にショックを受けている自分に綾香は驚く。


 予想していなかったわけではない。今までと一緒のことだ。相手に彼女がいると思って、心に蓋をすればいいだけのことである。


「大丈夫だよ。翔太……いい男だもん」


 それは掛値なしの本音であった。


「……マジで?あざーす!」


 冗談めいた口調で返す翔太。


 しかしその笑顔はどこか寂し気で、何か影があるように見えた。そこに踏み込めるほどの強い光を綾香は持たない。


 沈黙の中、ガタンゴトンと電車は進む。もう十分もすれば降りるべき駅へとたどり着くだろう。それまでに気持ちの整理をつけることはどうやら出来そうになかった。


 スカイツリーの近未来的なフォルムも好きですが、やはり東京タワーが好きです。


 オレンジに輝くあの姿を見ると、「東京だなぁ」と感じます。


 どうも。たまに東京に行くと、いまだにドキドキしてしまう、香坂です。


 完全な余談なのですが、悠斗がお台場でのデートの中で観覧車に乗らなかったのには理由があります。


 それは、直前に観た人妻モノのAVで、最初のデートシーンにその観覧車が使われていたから。


 観覧車の中でディープキスをしている映像が頭に残ってしまっていたため、観覧車には乗らなかったという裏設定があります。


 皆さん!観覧車は景色を楽しむ乗り物であって、決してイチャつくためのものではありませんよ!?


 意外と外から見えてますからね!?


 それでは次話もお楽しみください。


 香坂蓮でしたー。


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