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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

水絆創膏の冒険(※冒険しません)

作者: 幕霧穂

 やあ!僕は水絆創膏!名前が言いづらいから皆にはミズって呼ばれてるよ!


 チューブの頭の先っぽから水絆創膏を出せるんだ。水絆創膏は普通の絆創膏に比べると影が薄いけど、良いところもあるんだよ!水が沁みないし、傷が空気に触れないから治りが早いんだ!(※効果には個人差があります)


 え?僕の姿が知りたいって?そうだなぁ。まずチューブを思い浮かべて。(※店頭でご確認下さい)そこに手足と顔をつければ完成だよ!(※手足と顔は付属しておりません)


 僕は水絆創膏のミズ!よろしくね!(※喋りません)



 僕はね。世界の色々な人の怪我を治したくて旅しているんだ。大きな傷は治せないけれども、少しでも傷で悲しむ人を減らせたらって思ってね…。


 え?中身は減らないのかって?大丈夫さ!僕はいつでも元気満々。中身満々だよ!(※実物は減ります)


 おや?あんなところに村がある!怪我人がいないか聞いてこよう!



ーーミコトン村


「こんにちは!水絆創膏のミズと言います。怪我人はいませんか?」


 村に入ってすぐ近くに居た村人に声をかけてみたよ。ここの村は豚さんの村みたいだね。


「こんにちは。旅のお方。申し訳ないのですが、今来た道を帰っていただけませんか。」


「ええっ!ど、どういうことですか!?」


「簡潔に過ぎましたね。すみません。今この村は1匹の狼に襲われているのです。生き残ったのは私を入れて3匹だけです。あの狡猾で用心深い狼なら生き残りがいないか見に戻ってくるでしょう。狼が来る前に急いで逃げてください」


「狼ですって!?それは危ない。豚さんも一緒に逃げましょう!」


「それは出来ません。この村は私達の故郷であり、墓場です。先祖からの誇りを継いで私達は最期まで戦います。ですから貴方だけでも逃げてください」


「そうですか…」


 いきなり出て行けって言われてびっくりしたけど…そういうことか…よし!ここは僕の出番だ!


「豚さん!任せてください!悪い狼は僕がやっつけます!」


「ええっ!そ、そんな…私達の問題に旅人の貴方を巻き込むわけには…」


「いいえ!僕は人の役に立ちたくて旅をしているのです!(※豚です)僕に任せてください!」


「おお…。なんという…。……本当は恐ろしかったのです。死にたくなどありません。ですが2匹の弟を置いて行くわけにもいかず…。お願いです!私達を助けて下さい!」


「狼を倒すなんてささくれを治すより簡単さ!被膜に覆われた気分でいて下さい!!」


 僕は、豚さんを励ますように胸を叩いた。少し凹んだ。




ー翌日、豚兄弟の家


「な、なあ。兄さん。本当に大丈夫なのか?俺たちのせいで関係ない人が死ぬなんて…」(※水絆創膏です)


「そ、そうだよ。あの人には今からでも逃げてもらおう。ねえ一郎兄ちゃん」(※水絆創膏です)


「いや。あの人を、ミズさんを信じよう…。あんな真っ直ぐな目をした人は見たことがない。きっと大丈夫だ」(※水絆創膏です)


「でも… ドゴオオオオォ


「ひっ!き、きたっ…!」


「ミズさんっ…!」



ー村の広場



 よし!豚さん達には家に隠れてもらっている。これで心置きなく戦えるぞ!


ドゴオオオオォ


 来たかっ!!

 態々門を吹き飛ばしながらこちらに向かってくる影が見えた。


「行き残りはいねーかー!げっははは!どうせどっかに隠れているんだろう!早く出てくれば恐怖は最小限で済むぞ!!ぎゃはは!」


「…っまてい!」


 大声で喚き散らす狼の前にでて声をかけた。


「んぅっ!?何だお前は!この村のやつじゃないな!」


「僕は水絆創膏のミズだ!お前の悪行は許せん!豚さんたちは僕が守る!!」


「…ほう。やはり生き残りが居たか!情報ありがとよ。俄然やる気が湧いてきたぜ!」


「くっ!狡猾なっ…!誘導尋問かっ!(※誘導していません)」


 くそう。この狼、思っていたより頭が良いみたいだ…。油断しないようにしないと…。


「ふん…。それで、お前は俺の邪魔をするということで良いんだな?」


「ああ!この先には行かせない!」


 両手を広げて通せんぼのポーズをした。


「この先にいるのか…。手間が省けたな」


 何だと…この狼本当に賢いぞ!(※誘導していません)僕の頬に冷や汗が流れた。(※汗腺はありません)


「俺に逆らって後悔するなよ!」


 狼は一声叫ぶと僕に向かって突進してきた。


「食らうか!」


 その突進を右に横っ飛びすることで避けた。じゃり!と言う音を聞き、左を見ると、背後から衝撃が僕を襲った。


「ぐはっ!」


 無防備な背中を攻撃されて2mほど吹っ飛んだが、なんとか両手をつくことで前転することが出来、体制を立て直せた。


「こんなものじゃないだろ?ほら!こいよ!」


 狼の方に向き直ると、やつはこちらを向いて右手を挑発的に曲げていた。

 足元には左足を中心に少し抉れた跡があった。恐らく、突進の勢いを回転に変えて回し蹴りを放ったのだろう。


「ああ。もちろんさ」


 僕はニヤリと口元を上げて、痛みで歪む顔を隠す。頭のキャップに両手をかけ、勢いよく回す。

 ギュルッと回りきったキャップは僕の頭から離れて、空を舞い、僕の手に吸い込まれた。

 キャップは空中でトゲか伸び。(※伸びません)内側に取っ手が生え。(※生えません)さながら真っ白な槍の様になった。(※なりません)


「これが僕の武器(ウェポン)勇気と(カーレッジ・)共に進む(アドバンス・)僧侶の槍(プリースト)!」


 僕の相棒さ!長いから略してC・A・P。CAPって呼んでるよ!


「やっと本気になったようだな…。楽しませてくれよっ!」


 狼が迫り、拳を振り上げて襲い掛かってきた。

 僕はそれをバックステップで躱しながら、CAPで斬りつける。


「軽いっ!軽いなあ!そんなんじゃ骨まで届きゃあしねえぜ!」


 確かにCAPは殆ど肉に食い込まず、皮1枚裂くだけで終わっている。

 だが、それでも僕は構わず斬りつけ続ける。


 狼の攻撃を避けて、斬りつける。避けて、斬りつける。狼の全身には辛うじて血が出るレベルの切り傷が増えていく。

 安定した繰り返しだが、長引くにつれて隙も生まれる。


「おらぁ!」


 狼の攻撃を躱した。しかし足元に拳大の石が絶妙な位置にあることに気づかず、僕はよろけてしまった。

 狼はその隙を見逃さない。


「ぐほぉっ!」


 もろにお腹にパンチを食らってしまった。


「貰ったあ!」


 狼はこれ幸いと続け様に拳を放つ。


「ぐっ!がっ!」


 何度も殴られ、僕の全身はぼこぼこになった。


「うぅ…ぐぅぅっ…」


 身体中が痛い。真っ直ぐだったボディは原型を留めていない。


「苦しいか?クハッ!今楽にしてやるよ!!」


 狼は僕にトドメを刺そうと右拳を大きく振りかぶった。

 その時。


「「「待ってくれ!」」」


 村の奥の方から声が3つ聞こえた。

 狼が僕を警戒しつつも振り向くと、そこには家に隠れた筈の豚さんたちが居た。


「そ、その方はこの村に関係ない。お前の狙いは私たちだろう?!その方にはもう手を出さないでくれ!」


 震えながら声を発する豚さん。兄弟共とても怖いだろうことが一目で分かる。


「な、何で…どうして…?あ、危ないから…隠れて…」


 僕が何とか言葉を発すると、豚さんたちは無理矢理作った笑みで言った。


「いいえ。ミズさん。私たちはもう逃げも隠れもしません。貴方は初めて会った私たちの為に闘ってくれました。そんな貴方を見殺しになど出来ません。どうか、貴方は生きてください」


 豚さん…。そんな…僕は…。


 狼はその言葉を聞くと、とても醜く顔を歪めた。


「クハハ。いいぜえ。お前らの健気さに免じて、この生意気な水絆創膏の命は助けてやる!……無様だなあ、ヒーロー。」


 ニヤニヤと笑う狼はそう言うと、豚さんたちの方へ足を進めた。


「や、やめろぉ…!」


 何とかその足を止めたかったが、手は届かなかった。


「…ミズさん…ありがとうございました。お元気で…」


 豚さんはまた微笑む。僕にお礼を言う。

 そんな…そんなことは……


「…させないっ!!」


 叫びながら、僕は立ち上がった。足も手もぷるぷるしているが、まだ立てる!

 狼は足を止め、こちらを振り返った。


「せっかく拾った命を捨てるとはな。全く罰当たりなやつだぜ」


「…ミズさんっ!」


「僕の攻撃はまだ終わっていない!」


 言いながら、CAPを手放し、キャップの外れた頭に手をかける。


「ハッ!武器を捨てたか!本当にトチ狂ったのか!?」


 狼は僕に向かって、初めのように突進してきた。

 それでも僕は慌てず、機を計る。


「僕は水絆創膏だ…水絆創膏は液状…」


「それがっ…どうした!」


 僕は狼が射程距離に入った時、指に力を込めた!


「液状の物が入ったチューブに圧力をかければ…更にそのチューブの口が閉じていたら…行き場の無くなった中身に逃げ道を作ってやれば…!」


「なっ!まさか…!」


「うおおおおおお!大きめの傷に水(ウィップ)絆創膏は超沁みる(オブラブ)


 殴られたことで限界寸前まで押し上げられた水絆創膏は出口を開いたことで、我先にと飛び出した。こちらに駆けていた狼に向かって。


ブシャアアアア


「うわっ!」


 まともにウィップオブラブを食らった狼は腕で顔を庇い立ち止まった。


「…ん?何だ大したこ…っいっってええええ!いたたたたた!うわっ!くそっ!…っいてええ!」


 狼は全身にCAPによって付けられた傷がある。擦り傷程度なら一瞬沁みるだけで済むが、腐っても切り傷である。その痛みは耐え難いだろう。

 更に狼は薬を取ろうと自分の爪で傷を増やしてしまっている。


「どうだ!僕の奥義ウィップオブラブは!その痛みは傷を治す試練!ただし!大きい傷には効果は薄いがな!(※小刀傷・すりきず・あかぎれなどにお使いください)」


「ぐっぐぐ。この…やろうお!」


 まだずきずきと痛むのだろう、涙目になりなっている。だがそれでも狼は向かってきた。

 怒りを込めた一撃が僕の胸に突き刺さる。


「「「ミズさん!!」」」


「かはっ!……そこで…逃げ…帰って…いれば…死なずに…済んだのにな…!」


「何だと!?」


 豚さんたちと狼の声が聞こえる。

 僕は胸の衝撃によって曲がった身体を利用して、頭を狼の口に突っ込む。


「がっ!」


「さよならだ。君は中々強かったよ。狼」


 僕の視界からは頭の様子は見えないが、口の中にしっかり入ったことは感覚で分かる。

 そして、僕は狼の顎に強烈なアッパーを叩き込んだ。


「うっぐわ!ぷわあっ!たすけ……」


 無理矢理閉じさせた狼の口は、狼の意思と関係なく僕の頭を潰した。頭の方に残っていた薬は濁流の如く狼の口に流れ込み、喉を、食道を、胃を蹂躙した。(※液状の水絆創膏を口にしてしまった時は直ぐに医師にご相談してください)

 やがて、僕のすぐ近くにいた生き物から力が抜け、その場に音を立てて横たわった。口の奥には透明の液体で溢れていた。口の端の薬は少し乾き始めていた。

 狼の身体はもうピクリとも動かない。


 闘いが終わったことを理解すると、僕も狼と同じように倒れこんだ。


「ミズさん!」


 先程まで、闘いに割って入るタイミングを計っていた豚さんたちが、倒れた僕に駆け寄ってきた。


「ミズさん!ミズさん!ああ、そんな頭が破けてしまっている!こんな…こんなことって…!」


「…けほっ!…良いんです。僕は豚さんたちが無事ならそれで…。これからも…兄弟…仲良く……こほっ!かはっ!………」


「ミズさん?…ミズさん!?ミズさあああああん!!」



 その日、ミコトン村では1人の勇敢なる水絆創膏を囲み、もう動かない彼を呼ぶ3匹の声が響いた。




-20年後


「--と言うわけで、ミズさん、いやミズ様は私たちと村を守ってくださったんじゃ。それで、村を復興した後、村の中央にミズ様の像を立てたのじゃ。勇敢で心優しい彼を忘れないようにのう」


 村の中央にて、年老いた豚が、孫らしき子豚と並んで話をしていた。2人の目線の先には、武器を構え敵に立ち向かっているミズの銅像が立っていた。足元には《村を救った英雄の像》と書かれている。


「そうなんだ…。じゃあ私がここにいるのもミズ様のお陰なんだね。…ミズ様!お爺ちゃんを救ってくださってありがとうございました!」


 手を合わせて頭を下げる子豚の様子を嬉しそうに、微笑ましそうに見た年老いた豚は、えらいえらいと言うように孫の頭を撫でて言った。


「素晴らしい方じゃった。とても優しい、人の事を想える…な…。正直、死んだという実感は未だに湧かないんじゃよ。何だかあの方なら、今も…何処かで…誰かを救っているのでは無いかと。そう思ってしまってな…」



 ミコトン村は、狼に襲われる前の様な活気が戻った。

 以前からミコトン村と交流のあった村より狼討伐の噂が広がったのだ。

 そうして住処を求めた者や、お金の流れを嗅ぎつけた行商人が集まり、3兄弟を中心とした村復興が何年もかけて実を結んだのだった。


 豚長男は村長として。次男・三男はそのサポートを。村の救世主の遺言通り仲良く助け合って暮らしてきた。そんな3匹には復興する時に支え合ってきた伴侶も出来、長男に至っては孫にも恵まれ、3兄弟共幸せそうであった。(※リア獣爆発しろ)

 しかし、いくら時が経とうと、子供が生まれようと、3兄弟が英雄の事を忘れる事は無かった。あの気高く優しい水絆創膏の事はいつまでも3匹の胸を切なく暖かくしてくれた。


 村ではお店の呼び込みの声や、子供の笑い声が爽やかな青い空の下風に乗り、どこまでも、どこまでも広がっていった。

 それはまるで遠く離れた地にいる人に、ありがとうの声を届けるかの様に…。



           fin(※中身が無くなりましたらお近くのスーパー・薬局でお買い求め下さい)

15/12/13 加筆修正しました。

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[良い点] どういうことなの……?! 作者様の頭が心配になりました。(※良い意味で) とりあえず、タイトルと出だしだけで吹きました。負けました。 [気になる点] 三兄弟しか残ってなかったはずなのに、ど…
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