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8.異世界生活三十八日目(後編)

九話目。

ちょこっと残酷描写あり。

 私はリビングで造血と鎮痛作用のある薬草を混ぜたお茶を飲みながら異空間の窓から“アーテルフス”の空を見上げる。

 外はもうとっぷりと藍色に暮れて金に煌めく黒と銀に煌めく赤の月が出ていた。

 手を伸ばしても届かない黒の月に、ずきりと胸が痛む。


「コノハ様、終わりましたわ」

「おねーさん、できたよ」

「ありがとう」


 私は治療をしてくれたマジョルタさんと取れてしまったピアスをネックレスに加工してくれたポポンにお礼を言う。


 ちなみに右耳につけられた赤いピアスはどうやっても取れなかった。

 耳を削ごうかと思ったけど、「だめです!」と全員に止められたので実行していない。

 でも多分そうまでしても取れないだろうな、って予感はあった。

 あのドS(ルフス)ならそれくらいしそうだと思う。


「それで、これからのことなんだけど」


 私は薬草茶を飲み干し、みんなを見回す。

 部屋の空気が少しばかり引き締まる。


「話す前に普通のお茶をもらってもいいですか?」


 が、一気に空気は弛緩した。


 でも仕方ないじゃないか。薬草茶は思わず「もう一杯!」と言いたくなるほどのまずさなのだ。

 大人組だけじゃなくてウットとサットまでずっこけたのは少し意外だったけど。






「ふぅ、じゃあこれからを話そうか」


 お茶を一息に飲み干し、私は人心地ついてから言った。

 体の痛みも落ち着き、決心も着いた。みんなからも不必要なほどの緊張が取れている。


「私はアーテルを取り返しにいく。ついでにルフスにもこの傷を倍返ししてくる」


 私がそう言うと、すぐさまリエフさんが「私ももちろんついていきます!」と勇んで宣言する。

 だが、私はまだ話し終わっていない。


「待って、リエフさん。まだ続きがあるから」

「続き、ですか?」

「うん」


 私は一度息を深く吸う。


「今まではしなかったけど、これからは向かってくる人間は殺すから。人族も獣人族も関係なく、私の邪魔をする人間は消すよ。

 ……それはアンタ達も例外じゃないから」


 大人組も年少組も、人組も獣人組も例外なく宣言する。

 ロートの裏切りを思い出し、部屋の空気が凍っていく。


「疑ってるわけじゃないけど、たとえアンタ達に今その気がなくてもこれからどうなるかなんてわからないし、操られる可能性だってある。

 でも私はどんな状況でももう躊躇わない。

 第一優先はアーテル。それだけは変えないし間違えない。

 だからアンタ達には二つ選択肢をあげる」


 私は初めて彼女達の主人らしいことをしてる気がする。

 うん、理不尽な実際選択肢のない命令をしてるだけなんだけどね。


「私から解放されて奴隷をやめるか、私の魔力で作った新たな契約で絶対裏切れない奴隷となってアーテルを取り戻す為に人族の敵となるか。選びなさい」


 この世界では一度奴隷に落ちれば、解放されようが這い上がれない。

 それをわかっていて私は聞いた。

 結局私は独りでいたくないのにみんなから裏切られる不安を持った矮小な人間で、不安を取り除く為にみんなを理不尽で縛る卑怯な人間だ。

 父親の言った通り、正に人間味のない人間だろう。




 ……それなのに。




「コノハ様、その契約は今すぐ行いますか」

「治療したわたくしとしてはコノハ様のお体に負担のない程度でやって頂きたいですわ」


 全部わかってるだろう大人組は笑顔で了承。

 葛藤も何もあったもんじゃない。

 いいのか、それで。


「コノハ様、私達はあなたに命を拾われたんですよ? だからお好きにお使いください」

「そうそう、奴隷なのに王族以上の生活させてもらってるんだし、おねーさんに少しでも恩返ししなきゃ」


 まだ中学生くらいなのにリーチェは大人びた笑みを作る。

 ポポンはいつものニヒルな笑顔だけど、その目は真剣だ。憎まれ口がまだ十年くらいしか生きてないはずなのにかっこよすぎる。


「あのね、ウットもサットもね、コノちゃんが好きなのよ?」

「それでね、サットとウットはね、アーテルさまも好きなのよ?」


 五歳くらいのウットとサットも一生懸命言葉を選んで話してくる。


「だからね、コノちゃんがね、アーテルさまに会いにいくの手伝うのよ?」

「コノちゃんはね、アーテルさまの勇者さまだもの。だからね、サットとウットはね、勇者さまの従者なのよ?」


 目をうるうるさせたウサギっこ達にそんなこと言われちゃもう頑張るしかない。

 私はぎゅうっとウットとサットを抱きしめて頬ずりする。

 もちろん「ありがとう」と言いながら残りの四人もハグアンドすりすり攻撃を食らわした。

 リエフさんとリーチェは茹で蛸みたいでノックアウト寸前になってるけど、チョロインすなぁ。




 その後、早速強制属性の魔力を作り上げて従者契約(ウサ耳双子に合わせて呼び方を変えてみた)をしました。

 みんなの胸元に私の持っているアーテルのピアスと同じ形のシルエットが浮かび上がる。

 ちなみに私のはそれにプラスして黒い三日月が浮かび上がった。

 主人は少し模様が違うらしい。


 私が自分の胸元を確認した時にリエフさんとリーチェが鼻血を出したのはご愛嬌だろうか。

 ……従者契約に「襲うの禁止」って入れといた方がいいかしら。

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