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10.異世界生活七十六日目(アーテル視点)

十一話目。

アーテル視点の一人称小説です。

 コノハを召喚してから七十六日目。

 アタシが(バカ)に連れられて自分の体にまた逆戻りしてそこそこの日数が経った。

 アタシの体には前よりも強力な封印スキルが使われていて、これじゃあまた抜け出すなんて夢のまた夢って感じだね。


 ……コノハ、どうしてるだろう。


 まだ傷だらけなんだろうか。


 ……それと、今日もまたあの六人の誰かと一緒に寝るのかしら?

 いやまあ、別に? 人は殺せないって言ってたコノハが、アタシの為に、血まみれになってるんだから、それくらいのことは許そうと思ってはいるわよ?


 でも離ればなれになってるってのに、コノハが誰かと一緒に寝てるってのは精神的にクるものがあるのよ。


 おまけに一緒に眠ってる相手はコノハのことを好きって言うね?

 あの馬鹿(いもうと)に盗られるよりは全然いいし、あの六人なら許せるけど、でもやっぱり悲しいものは悲しいのよ。


 え? 何でアタシが離れた後のコノハを知ってるのかって?


 うちの馬鹿妹が見せてくるのよ。「姉様にプレゼントですよぉ」って言いながら、みんなと仲良く眠ってるコノハばっかり見せてくるってわけ。

 本当にどうしてあんな頭お花畑なドSに育ったのかしら、うちの妹は。


 ……そう言えば、今日はあの馬鹿見てないな。

 どうしたんだろう。


 あいつも無理矢理だけどコノハとパスを繋いでいたから、コノハに何かあったってことかしら。

 まさかもうここまで来たとか?

 だとしたら、どうしよう。


 すごくすごく嬉しいと同時に苦しくなってきた。


 可愛い可愛いアタシのコノハ。

 アタシの唯一の希望として、無理矢理この世界に連れて来られた可哀想な子。

 アタシの勇者様で悪神の生け贄。


 最初は打算と寂しさがなかったって言ったら嘘になるけど、今はコノハには愛しさしかない。

 だってコノハってば女の子なのにあんな傷だらけの姿のまま、アタシに会いに来てくれるのよ?

 無理矢理召喚したって言うのに、アタシのワガママも嫉妬も全部受け止めてくれるのよ?

 女神だって好きにならないわけがないわ。


 そうね、人族が勝手に作ったおとぎ話でたとえるなら、コノハは太陽ってところかしら?

「ガラじゃない」ってあの子なら苦笑しそうだけど。

 まあ、アタシも(アタシ)から逃げてばかりの太陽にさせるつもりはないけどね。


 ああ、早く会いたい。

 でもそれと同じくらい来て欲しくない。

 あの子を血まみれになんてさせたくない。

 あの子の心がひび割れるところなんて、傷つくところなんて見たくない。


 でもアタシは確信していた。

 コノハは絶対来るって。

 だってアタシが川に流されていたあの子を捕まえてしまったんだもの。




 だから、ほら―――




「―――……アーテル!」


 ほら、やっぱり。

 コノハは来ちゃうのよね。


 息を荒げながらアタシへ向かって走ってくるコノハが涙で歪んで見える。

 両手も体も他人の血で赤く染まったコノハはそれでもアタシにはとても綺麗に思えた。


「……コノ、ハぁ」

「大丈夫? 今、封印解くから! もう大丈夫だからね?」


 この世界で最高峰の封印スキルはコノハが触っただけで幻のように消えてしまう。

 やっぱりアタシの恋人は最高で最強ね。


「会いたかった、アーテル。やっと、やっと会えた」

「ん、アタシも。会いたかった」


 ぎゅうっと抱きしめられて、久しぶりのコノハの匂いと感触に涙腺がどんどん弛んでいく。

 本当はアタシのことなんて放って地球へ帰れるだけの力を持ってるはずなのにとか、言いたいことはあったけど。

 でも、今は「嬉しい」で胸がいっぱいで。またコノハに触れたのが幸せすぎて。


「好き、コノハ、好きぃ」


 もうアタシは好きしか言えなかった。


「うん、私も。アンタが大好きだよ」


 少し低めの甘い声で囁かれて、アタシの鼓膜が溶けそうなくらい熱くなる。


「ねえ、アーテル。またパス繋ぎ直してくれる?」


 ルフスに無理矢理外されたアタシ達を繋ぐピアスは、コノハの分はネックレスに変わっていた。

 アタシのは砕かれてしまって、もう存在しない。


 だから求められた「やり直し」。

 でもそんなもの方便でしかない。


 アタシも、きっとコノハも、もっとお互いを確かめたいだけだ。


「うん、もちろん」


 にこりとアタシは笑う。

 コノハは恥ずかしがり屋だから、方便が必要なのはわかってるもの。


 ―――でも、その前に。




「……なんで君の腰に(バカ)がまとわりついてるのかなぁ?」

「こっ、これは! なんか知らないけどフルボッコしたら懐かれちゃって!」

「はぁん、コノハ様のお仕置きは最高ですぅ。あたし、もっとコノハ様のお仕置きが欲しいですよぉ」

「アンタは黙ってろ!」


 どうやら妹はドSだけでなくドM属性もあったらしい。

 それを嫌がりながらも完全に拒絶しないアタシの恋人は本ッ当にお人好しの流され人間だと思う。

 ……そこが可愛いんだけどね?


「あ、あとみんなとのこのパスは何かな? この強固さはあれかな? 結婚的なあれなのかな?」

「ちっ、ちがっ! これは従者契約で……って、みんな何しょんぼりしてるの!」


 この世界で最強になった上に女神を二人も落としたアタシの恋人は、そんなすごさを全く感じさせない慌てふためき方をする。

 アタシは思わず笑ってしまって、それでしょんぼりしてしまった彼女を慰める為に軽く頬へキスを落とした。

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