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始.異世界生活初日

書き上がっているので、見直ししながら時間の許す限り投稿したいと思います。

 さあ、今日も元気にお給金稼ぐぞー。と、私が社畜根性丸だしにアパートのドアを開けるとそこはびっくりするほど、おふぁんたじぃな森でした。

 紫色の毒々しい木々の隙間からは赤と黒の満月が二つチラリズム。遥か彼方で、ぎゃあぎゃあとわめきながら飛んでいるのはドラゴンとやらかしら?


「間に合ってますんで」


 即座にドアをそっ閉じ。


「って、部屋がない!」


 だが回り込まれてしまった!

 足下の黒い草に驚いて背後を振り向けばこれまたファンタジー溢れる森の中。だからそういうの間に合ってますから!


『あはは、君っていい年なのに落ち着きないねー』

「に、二十八はまだ花盛りだよ、バーロー!」


 少女の声にさらりとディスられたので震え声で反論したが……んん?

 今の声、誰?


『こんにちはー。ニホンゴってこれで合ってる? それともハローだっけ? ぐーてんだーく?』

「こんにちはで合ってる……って、誰?」


 無邪気な顔で笑う不審者に丁寧に答えてあげる私、超聖人。

 女子高生くらいの不審者は『おーけーおーけー、はあくした』って頷くが私の警戒心はマックスオーバー振り切れている。

 だって彼女の容姿もラノベっぽいんだもの。


 髪タレもびっくりなさらさら黒髪ロングストレートや雪のように白い肌の美少女なんかはまだ探せば地球にいるかもしれないけど、こんな黒目の人間がいるわけない。闇みたいに黒いのにたまに金色に煌めくとか正にファンタジーしてる。

 そして何より彼女、半分透けてます。

 え、幽霊?


『ああ、うん? アタシ? 悪神だよ。気軽にアーテルって呼んでね』


 気軽くない。

 きんきんとガラスの中から話しているような反響を伴う少女もといアーテルの言い方は軽いけど、内容は全然軽くないよ。

 悪の神様って、悪霊よりタチ悪い存在じゃないですか、やだー。


「マジでか」

『マジで』


 そうか、神か。


「で、私をここに呼んだのはアンタでファイナルアンサー?」

『って、順応早っ』


 アーテルは驚くが馬鹿言っちゃいけない。

 私の名前は川流(かわながれ)木の葉(このは)

 名前は体を表しまくったお陰で、見事な流され人間なのだ。

 アラサーOLと言え、昨今の異世界もの主人公のごとく順応してやろうではないか!


 ……と、言うようなことを腰に手を当てそこそこの胸を張りどや顔で説明するとアーテルは疲れたような顔で『ま、話が早く済むならそれが一番だけど』と大きく一回ため息を吐いて言った。

 むぅ、相手としてはやりやすかろうにこの反応。解せぬ。


『で、アタシがコノハを呼んだ理由だけど、ぶっちゃけ助けて欲しいから。透けてるからわかってるかもしれないけど、コノハをこの世界“アーテルフス”に呼んだだけで精一杯なのよ。あとはナビゲーションくらいしかできないわ』

「ナビゲーションって、何をナビするのよ」

『アタシが封印されてる場所へのナビとこの“アーテルフス”での生き方とか。コノハはステータス見れないでしょ?』


 なぬ、まさかのステータス制おファンタジーだと?

 心の中で「ステータス!」と唱えてみるがダメだった。「ステータス閲覧」も違うらしい。

 恥ずかしいけど、声に出すべきか否か。


『だから見れないって。声に出しても無理だよ。君とこの世界の住人じゃ“目”が違うんだから』


 女子高生ほどの幽霊に呆れた目をされるこの屈辱。

 ぐぬぬ。


「だ、大体ね! 何で私なのよ! しかも助けるって……悪神なんだから悪いことしたから封印されてるんじゃないの!」

『わー、潔いほどの逆ギレだー』


 うっさいわ!

 実際巻き込まれたのは事実だから八つ当たりではないわ!

 私がそう主張すると『まあ、そうだね』とあっさりアーテルは頷いた。

 ううう、あっさり肯定されると振りあげた拳の下ろし先がなくなるじゃないか。


『こっちも必死だったとはいえ悪いとは思ってる。“アーテルフス(この世界)”に適正のある人間を探したらたまたま君だった。それ以上でも以下でもない。巻き込んでごめん』


 見た目年下に神妙な顔で頭を下げられちゃうと何だか怒った自分が悪い気がしてくる。

 ええ、私、押しに弱くて流されやすくてお人好しなんですよ!


『でもこれだけは言わせて。アタシは悪いことしたから封印されたんじゃない。“アーテルフス”の正神と言われているアタシの妹のルフスが唯一神になるために無理矢理封印されたんだ』


 アーテルの話は長かったので、三行にまとめると、


 アーテルが世界を、ルフスがスキルシステムを作ってできたのがこの世界アーテルフス。

 だがシステム周りのデバッグがちゃんとできてなかったせいで、世界に魔物(バグ)が現れるようになる。

 そんな事情を知らない人族(他にも種族があるらしい、ファンタジーだね)は便利なスキルを作ったルフスを正神、魔物のいる世界を作ったアーテルを悪神と定め、アーテルを封じてルフス唯一神計画を実行。

 宗教改革による世界の掌握も視野に入れた人族の思惑に調子に乗って協力したのが頭お花畑妹神ルフスで、姉神であるアーテルはマジピンチで私召喚←今ココ。


 って、感じらしい。四行になっちゃった。


『だから、アタシ側の人間であるコノハには(あのばか)の作ったものを見せたくないってのもあるんだよね』

「なるほど、把握。まあ、嘘か本当かは置いとくわ。で、私はアンタを解放したら帰れるの?」


 一番聞きたいのはそこだ。

 もっと細かく言うなら、本日の出社に間に合うように帰してくれるのかって所。

 社畜なめんな!


『帰れるよ。こればっかりは信じてもらうしかないな。今は呼び出した分で魔力を使い切っちゃったから無理だけど、封印を解いてくれればこの精神が魔力たっぷりの体と融合できるからね。軽い軽い』

「わかった、ならばやろう」

『わー、頼んどいてなんだけど軽ぅい』


 だから流され体質だって言ってんだろ!

 座右の銘は「なるようになる」だ!

 魔物だろうとなんだろうとヤったらぁ!

 ……あ、でも人は勘弁。流石に無理だわ。


『うん、アタシもそこまでは言わないよ』


 アーテルが苦笑する。


「人族を恨んでないの?」

『正直めっちゃ根に持ってるけど、だからってコノハにその恨みの肩代わりをさせるつもりはないよ……それに、あんな馬鹿に作ってしまったのはアタシの失態だから』


 悪神って言われてるのに意外とまともだなぁ。

 ぷくぅってほっぺた膨らませて話す内容は見た目の可愛らしさと反対にえぐいんですがね。


『とりあえず契約決定ということでいいかな?』

「オッケーっす」

『……一応、ある程度力をつけるまでは衣食住や命の安全なんかは保証するつもりだけど……本当にそんなに軽くていいの?』


 聞けばこの森は封印前に全力で加護を注ぎ込んだ秘密の場所らしく、人族やルフスにはバレていない上に魔物も出ない、栄養満点の果物いっぱいという安心設計な森らしい。


「いいのいいの。なるようになれ、よ」

『そういうなら……これからアタシが君のナビになるためのパスを繋ぐよ。少ししゃがんで?』

「え、うん」


 私より少し背の低い彼女に合わせ、気持ち腰を屈める。


『ん』

「えっ」


 すると彼女は私の唇へちゅっと音が鳴るキスをしたのだった。


『よし、パス開通』

「んなななな、なにすんの!」


 これには流石の私も頭真っ白。

 いくら何でもキスは流せないよ!


『え? よくある設定でしょ? 魔力パスを繋ぐのに体液というか唾液の接種が必要って』

「きょとんとすんなし! アンタ悪神じゃなくて百合神か……って、熱ぅううう!」


 小さく首を傾げるアーテルかわいってここは流されてたまるかぁ!

 つーか、左の耳たぶが痛熱い! 何故!


『パス開通の証に。ほら、お揃いのピアス』

「あ、可愛いデザイン……って、ちっがう! 何で今触れたのよ、透けてんのに!」

『えっ、そこ?』


 アーテルは右耳に現れた金に縁取られた黒い葉っぱの形をしたピアスを嬉しそうに見せてくる。水滴を模した透明な石が月明かりを反射してキラリと光る。

 痛みと熱の治まった自分の左耳に触れると固い感触がある。私にも同じピアスがついているんだろう。

 片耳ずつってますますカップルっぽくて何だかなぁ。


「まあ、いいか。済んだことだし……あれ、もう触れないの?」

『立ち直りも早いのね。今は魔力を通してないから無理よ』


 仕方ない、しょうがないを覚えないと流され人間なんてやってらんない。

 ちくしょう、初めてが。


『えっ、まさか二十八で……』

「やめろ、言うな! これ以上喪女の心を削るな!」


 ライフポイントなんて元からなかった。




 ……と、言うようなぐだぐだなやりとりから、私、川流木の葉と悪神アーテルの異世界ライフは始まったのだった。

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