幼き真相報道(750文字)
青年はいつもより少し遅い時間に目を覚ますと、休日の穏やかな朝を迎えた。
何気無くテレビをつけ、朝食の準備をしようとキッチンへ立つと、テレビではちょうど朝のニュース番組が始まったところだった。
青年は目玉焼きを作ろうと、温めたフライパンに片手で器用に卵を落としていると、ニュース番組ではある出来事の話題でもちきりになっていた。
その出来事というのは、先日借金を苦に自殺を図った父親に宛てた作文を、息子が授業参観で読み、それがとても切なくて感動的な内容であるということだった。
青年は思わず心の中で、それを報道することがいかに残酷で、偽善的な行為であるかマスコミに対して非難したが、番組内ではそんな青年の思いなど露知らず、ナレーターがその時読まれた作文の原文を淡々と紹介し始めた。
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『おとうさんへ』
まいにち
まいにち
がんばっていたおとうさん
おそくまではたらいて
とってもつかれてても
うちへかえってくると
さいしょにあたまをなでてくれた
んーと、いっぱい
おとうさん、ありがとう
これからはママとこうた
ろうとふたりで
しあわせにくらしていくからね
たのしかったよ、おとうさん。
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ナレーションが終わると、画面は再びスタジオに切り替わり、テレビの中では司会者やアナウンサーなどがハンカチで目頭を押さえている様子が映し出された。
本当にやり切れないですね、とコメントする司会者と神妙な面持ちのコメンテーターをよそに、青年はフライパンで焦げ付く目玉焼きのことなど気にも留めず、この幼い報道者が伝えんとする真相の恐ろしさにただただ身体を震わせていた。