表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

容疑者述べ数百人(1400文字)

 ある日、不可思議な"呟き"が多くのSNSにて拡散された。



『【拡散希望】7月31日午後3時、○○市△△区公園へ集まった方の中から抽選で100万円を贈呈します。但し、参加される方は当日必ず麦わら帽子と赤いTシャツを着用して下さい』



 一体誰が、果たして何の目的で広げられたのか全くわからないこの呟きは、ネット上で様々な物議をかもした。


 しかし当日、蓋を開けてみれば呟きを信じた各SNSユーザーやそれを見物しに来た野次馬、更にはそれを取材するマスコミ関係者など、総勢千人以上もの人間がその公園へと押しかけたのである。



 そして、ついに時刻は約束の午後三時を迎えた。元々それ程規模が大きくないその公園内には、数百人を超える麦わら帽と赤いTシャツを着た奇妙な集団が、押し合いへし合いしながらその時を今か今かと待っていた。


 だが、規定の時刻を五分過ぎても何も起こる気配は無く、集まった人達もやはりこれはタチの悪いイタズラだったのではないかと疑い始めた……まさにその時だった。


 突然辺り一帯をパトカーが取り囲み、公園内は一気にパニックに陥った。

 あちこちから怒号や悲鳴が起き、公園からいち早く逃げようとする人々が濁流のように入り口へ押しかける。



「ここから出ないで下さい! あなた達は重要な参考人となりました! ここから出た場合、公務執行妨害罪で逮捕します!」



 拡声器を使って叫ぶように警官が全体へ呼びかける。しかし半ば暴徒と化した集団を容易に鎮静することは出来ず、結局現場に取り残すことが出来たのは、当初集まった半分程の人数になっていた。


 警官が再び拡声器で全体へ呼びかけた。


「本日午後二時頃、この近隣で強盗がありました! 犯人の特徴は麦わら帽子に赤いTシャツとのことです! これから皆さん一人ひとりに事情聴取を行いますので、周りの警察官の指示に従って下さい! 繰り返します──」


 その後、現場にいたマスコミ関係者の報道で以下の事実が明らかにされた。


 七月三十一日、午後二時十分頃、○○市△△区内にて会社の売上金を銀行へ運ぶ途中だった会社員が背後から何者かに襲われ、現金およそ五百万円の入った鞄を奪われた。会社員は後頭部に怪我を負ったものの幸いにも命に別条はなかった。

 尚、その会社員の証言から犯人は単独で、麦わら帽子と赤いTシャツを着用していたが、後ろ姿の為その性別、年齢まではわからなかったという。


 警察はその後、公園内全ての人間から事情を聞くも決定的な証拠は得られず、現在はその時に公園から逃げ出した数百人の行方を追っていたのだが、目撃証言があまりにも多過ぎて捜査は難航を極めていた。


 またネット上の掲示板でも、当日集まった中に犯人が居たか否かの論争が加熱し、マスコミも週刊誌などで一連の犯行を"SNSを利用した隠れ蓑トリック"と揶揄やゆしていた。


 その後もテレビのニュース番組やワイドショーで警察が公園内に突入したときの映像が連日のように流されていたが、依然として有力な手がかりもないまま、一週間が経ち、いつしかニュースはすっかり別の話題となっていった。







 ニュース番組を見ていた被害者の男が、つまらなそうにリモコンで電源を切ると、病室のベッドの上でぽつりと呟いた。


「さて、頑張って犯人・・を追いかけて下さいね。警察の皆さん?」


 そうして男は薄気味の悪い笑みを浮かべた。




     

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ