ある発明(1000字)
「人は誰しも必ず、何かしらの才能を持って生まれてくる」
壇上に上がった博士は冒頭にそう告げると、会場全体にピンと張りつめたような空気が漂った。
「……だが、これまで残念なことに人は自分ですらその才能に気付かず生活し、あまつさえそのまま生涯を終えてしまうことも少なくなかった。いや、むしろ自分の才能を十二分に発揮できているのはこの世に一握りも居ないというべきかな」
博士はそう言って、嘆かわしいと言わんばかりに首を小さく振った。
「そこで私は考えた。人が自分の持つ才能に気付く術はないのかと……。もちろん、皆が私がその後経験した苦労話や紆余曲折の話を聞きに来た訳ではないことはわかっている。だから結論から話そう」
そうしてひとつ咳払いをした後、博士は会場を見渡してこう言った。
「この装置を使えば、人は自分の持つ才能を知る事ができる」
目の前にあるテーブルに置かれていた布を取ると、そこにはゴテゴテとした機械やコードがいくつも繋がっているヘッドギアが姿を現した。
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この世紀の大発明と呼ばれる出来事から10年。
誰もが自分の持てる才能を発揮出来るようになった結果、政治・音楽・スポーツなど様々な分野において、10年前とは比べ物にならない程その水準は高まり、国家は他の先進諸国を抜き去り、急速に繁栄していった。
それからもその装置は幾度となく改良・簡素化を繰り返し、今では正式な手続きを済ませれば、市役所などでもこの装置を使って、誰でも気軽に自分の持っている才能について知ることができるようになっていた。
まさに世界的な革命とも呼べる発明であったが、その装置を生み出した博士自身は、新たに改良を加えた装置を目の前にして神妙な面持ちを浮かべていた。
「また、同じ結果か……」
博士は、この発明が世間に発表される前に、この装置が正常に作動するかどうかを自分自身を使って検証した。
しかし、その結果は試作段階から数十回、いや数百回以上行った今に至るまで変わらず、同じ内容を指し示し続けていたのだった。
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『あなたは類稀なる話術とカリスマ性の持ち主です。あなたの話す言葉は、たとえそれが事実ではなくとも、大勢の人があなたの言葉を盲信してしまうほどの影響力があります。』
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博士は、見飽きた診断結果を最後まで読むことなくモニターの電源を切ると、小さくため息をついた。




