種の生存(2500字)
ある日、地球上の様々な所に突如として大きな謎の飛行物体が現れた。
たちまちその事実は世界をパニックに陥れたが、その一方で各国の有識者達はその飛行物体とコンタクトを取ることに成功していた。
とある合衆国の大統領はそれら各国の代表者として、早速その飛行物体のひとつに向かって無線で呼びかけを行った。
「こちらの言葉が理解できるだろうか。あなた達は一体何者なんだ」
しばらく経つと、今度はその飛行物体から返答が返って来た。
《端的に言えば、私たちはこの地球を造った創造主です。私たちはある実験をしに、ここへやってきました》
流暢な言葉で話すその内容は、にわかには信じがたいものだった。大統領は冷静さを失わないように交渉を続けた。
「あなた達の言っている言葉の意味がよくわからない。創造主? 実験? 一体どういうことなんだ」
《それは問題ありません。あなた達が私たちについてや、これから行う実験のことについて知った所で何の意味もないからです》
無線機からそう冷淡な言葉が発せられると、無線は一方的に切られてしまった。
対策室では、首脳陣が困惑した表情を浮かべ互いに顔を見合わせたり、携帯電話で何やら慌ただしく連絡を取り合ったりしている。
すると、その時対策室でモニターを見ていた研究者が叫び声を上げた。
「み、見てください! 飛行物体から何かが投下されました!」
その言葉に大統領は顔を上げ、モニターに視線を移すと、その飛行物体から何やら発光する球体が投下されていた。そして、それは各地に現れた飛行物体の全てが一斉に行っていたのだった。
「あれは……一体……」
大統領がそう呟いたと同時に、その眩く発光する球体が地表へと落ちた。
そして、モニターが一面真っ白な光で埋め尽くされた──
「……げ、現状を確認しろ!」
思考を全て奪ってしまうかのような、その神々しい輝きにしばし呆気に取られていた首脳陣だったが、大統領のその一喝により我に返った。
だが、徐々に光が収束していったモニターを見てその場に居た全員が言葉を失った。
そこにはあったはずの街並みや、山々、森林地帯など全てが無くなり、どのモニターも瓦礫ひとつ残らない荒野がどこまでも広がっていたのである。
「ば……バカな……」
そして、何もない荒野にぽつんと浮かぶ飛行物体は、そのままものすごい速さでモニターから姿を消すように飛び去って行った。
「今のは一体何なんだ!」
「街が消滅……したのか?」
「まさか、映画の世界じゃないんだぞ!」
首脳陣が口々に意見を飛ばす中、大統領はただモニターをぼんやりと見つめていた。
しかしその時、対空レーダーにひとつの機影が映った。
「大変です! 先ほどの飛行物体がこちらへ急接近しています!」
「何だと!」
「大統領! 早く避難を!!」
その言葉に弾かれたように、大統領は二人の護衛に連れられるように対策室から飛び出していった。
そして大統領は一人押し込まれるようにエレベーターに乗せられ、そのまま建物内の地下数百メートル下にある特殊なシェルターの中へと身を隠した。
このシェルターは大きさはアパートの一室程しかないものの、四方を囲む壁の厚さは数十メートルからなる特殊な合金で出来ており、核爆弾や毒ガスなど様々な脅威から身を守ることができる最新のテクノロジーが詰め込まれたシェルターであった。
大統領がシェルターの中へ入ると、シェルター内にある無線機へ対策室から通信が入った。
「こちら大統領だ、状況を伝えろ」
「先ほどの飛行物体が、この建物の上空へ現れました。現在空軍の戦闘機が迎撃に向かっておりますが……あ、光っ──」
その言葉の直後、シェルター内に激しい衝撃が走った。大統領は尻もちをつきそのまま頭を抱えるようにしてその衝撃が収まるのを待ち続けた。
果たしてどれだけの時間そこでそうしていたのかわからないまま、大統領はゆっくりと身体を起こしシェルター内を慎重に見回した。どうやら今の揺れは地上で起きたものらしい……と、そこまで考えて大統領は背中にじっとりとした汗がまとわりつくのを感じた。
「……ち、地上へ出て確かめるしかあるまい」
大統領はゴクリと生唾を飲み込むと、地上へと登るエレベーターに足を踏み入れた。
だがエレベーターは地上からの電力の供給が切れてしまったのか、どのボタンを押しても何の反応も示さず、 大統領は地上で起こっている最悪の事態を想定し、強く目を瞑った。
その時だった。
《おめでとうございます。これにて、実験は終了です》
突然背後から声が聞こえ、驚いた大統領が振り返ると、そこには不思議な光沢を放つスーツを着た男が立っていた。
「なんなんだ、お前は……どうやってここに……」
余りの驚きに唖然とする大統領をよそに、その男は話しを続けた。
《我々は、これまで地球上で人類が発展を繰り返す度に何度も今回と同様の実験を行ってきました。そしてついに今回初めての生存者、つまりあなたが生き残ったのです。この実験を生き延びたということは今回の人類のテクノロジーが我々が想定するレベルまで到達した事を意味しています》
「い、一体、何の話をしているんだ。私しか生き残りは居ないだと……そ、そんな馬鹿なことがあってたまるか!」
大統領は男へ詰め寄ろうと近づいたが、同時に男は懐から小さな装置を取り出し、大統領に向かって赤い光を当てた。
「わっ! 何をする!」
思わず後ろへ飛び退き、慌てふためいた様に体を確認する大統領だったが、男は平然とした様子でその装置を操作し、やがて眉をひそめた。
《……つくづく人類とはわからないものですね》
男はため息まじりにそう呟いた。
《我々がこのような実験を繰り返すのは、人類をふるいにかけ、残った優秀な人材を捕虜として迎え入れる事にありました。しかし、70億の個体の中から選ばれたはずのあなたには我々の捕虜としてたるべき知識も、教養も欠如している事がわかりました。このような建物を作る事が出来る技術を持ちながら、その中で守られている人物に、その知識や能力が無いというのは極めて理解に苦しみますが、これも一つの結果として受け止めざるを得ない様ですね》
そう言うと男は上を見上げ、ぽつりと何かを呟いた。そして次の瞬間、男は大統領の前から突然姿を消してしまった。
「ま、待ってくれ! 私は──
そして大統領の視界は神々しい光に包まれた。




