透明な箱(約600字)
かつて、国内の著名な科学者達が集まる学会で、とある科学者が発表した内容が物議を醸した。
彼が学会で発表したのは『目に見えない物質の発明』という非常に珍妙なもので、その物体は光の屈折率や透明度など、全てにおいて空気と変わらない特性を持っていると彼は堂々と答えた。
だが、その一方でその物体はとても脆く、指で軽く触れてしまうだけで壊れ、そのまま空気となって気化してしまうことや、物体としての質量もほぼゼロに近いという事が、他の科学者達から強い反発を買った。
「君ねぇ、質量もほぼゼロで触れられないんじゃ、それはもはや空気だよ」
「この発表は、我々科学者に対する冒涜だ!」
彼は数々の反論に屈することなく物体の存在を主張し続けたが、その主張はどれも信憑性に欠けると判断され、翌年には追放されるように彼は学界から姿を消してしまった。
「どうして、誰も信じてくれないんだ……この発明は世紀の大発見なのに」
彼はその物体で作った透明な箱を壊さぬよう、優しく包むように撫でて、大きくため息をついた。
しかし、それから数年後、彼は思わぬ形で再び世間から注目を浴びる事になった。
その時の新聞記事には次のような見出しが添えられている。
『お騒がせ科学者、天才パントマイマーとして大転身!! これは科学かトリックか!?』




