隊長ッ!(1500字)
宇宙を航行中の宇宙船の中で、隊長は大きなあくびをしながら目を覚ました。
その宇宙船は銀河系にあったとある惑星の調査を目的として、数ヶ月前に地球を飛び立ち、今はその帰路についていた。
隊長はカプセルの扉を開けて、ベッドから降りると、調査の結果を地球に持ち帰った時の想像をして、思わず頬を綻ばせた。
というのも、調査した惑星では研究チームが当初、推測すらしていなかった未知の生命体が存在していたのである。
生命体と言っても、知能が高い訳ではなく、四足歩行でのっそりと移動する温厚な生物で、どちらかと言えば地球上にいる牛のような姿に近かった。
本来であれば、人類史上初の地球外生命体ということで、なんとしても地球へ運び出したい所であったが、事前にその生物がどんなウイルスを保有しているのか調べる必要があったため、今回はその生物の体毛や皮膚の一部を採取するだけに留めることとなった。
隊長はふと喉の渇きを覚え、食堂のあるフロアへ行くと、隊員たちが共用で使用する冷蔵庫を開けた。
すると、ちょうど目についた新入りの隊員の名前が書いてある飲料ボトルがあった。
「ま、いいだろう」
隊長はその蓋を開け中に入っている飲み物を一気に飲み干すと、その足でブリーフィングルームへと向かった。中へと入ると、そこでは他の隊員達が談笑を交わしていた。
「や、これは隊長。お疲れ様です」
隊長の姿に気づいた隊員が隊長に敬礼をすると、それに続いて他の隊員達も敬礼をした。
「まぁ、そう固くならなくてもいい。もう我々の目的は十分果たされたのだ。帰路くらいは皆リラックスして帰ろうじゃないか」
隊長の言葉に隊員達は一様に顔を見合わせ、大笑いをした。隊長もそれにつられて笑い出す。
その後も隊長も交えて談笑は続いた。ある者は惑星で見つけた植物の話を得意げに話したり、またある者は窓の外からUFOを見たと騒ぎ立てたりと、終始リラックスムードの中、楽しい時間が流れていった。
すると、その喧騒をかき消すかのようにブリーフィングルームの扉が開き、同行していた科学者が姿を現した。
「ここでしたか、隊長。例の生物の件なのですが、やはり地球へ持ち帰らなくて正解でした」
科学者のその言葉に隊員たちの話し声がピタリと止んだ。
「どういう意味だ、何か問題でも発見されたのか?」
隊長が神妙な顔で言葉を返すと、科学者は隊長の目を見ながらこくりと頷いた。
「えぇ、あの生物からは新種のウイルスが検出されました」
「ウイルス……」
「はい。詳しいことは地球に帰ってからではないとわかりません。ただ、先ほど実験用のラットに投与した所、十数分後に死亡し、同じケージにいたラットもその一時間後に死亡しました」
科学者の言葉に隊員たち全員がどよめき、互いに顔を見合わせた。
すると、科学者は表情を緩ませ、ぱんとひとつ手を叩いた。
「ですが、ご安心下さい。このウイルスは、あの生物の体液に直接触れでもしない限りは感染しません。機密性の高い宇宙服に身を包んでいれば、感染の可能性は限りなくゼロに近いと思われます」
その言葉に安堵した隊員達は、皆一様に胸をなでおろしたが、その中にただ一人、新入りの隊員だけが青ざめた顔で立ち尽くしていた。
「どうかしたのか? 肩が震えているぞ」
隊長が隊員の肩に手をおいて尋ねた。
「た、隊長……も、申し訳あ、ありません」
「何だ、いきなり……」
「実は……持ち帰っていたのです。その生物の体液を……。もちろん、採取の際に直接触れてもいませんし、その時持っていた私専用のドリンクボトルに入れているので、誰かが勝手に持ち出すことも無いとは思うのですが……」




