事故(600文字)
20XX年──
車通りが少なく見通しの悪い交差点で、鈍い衝突音が響き渡った。
すると、一台の車の方から声が聞こえた。
「バカヤロー! どこ見て運転してやがんだ!」
だが、その声に食ってかかるようにもう一方の車からも声が聞こえた。
「何よ! いきなり飛び出してきたのはそっちでしょ!」
「優先道路はこっちだ! 一時停止しなかったテメーの方が悪いに決まってんだろ!」
「ハァー!? こっちの道路に一時停止の標識なんてないわよ! 勝手にそっちが優先道路なんて決めないでよね!」
「何だよ! こっちは出るとこ出たっていいんだぜ!」
「こっちだって構わないわよ! こうなったらとことんやってやろうじゃない!」
そう言うや否や、それぞれの車から運転手が勢いよく降り、お互いに歩を進め近づいていく。
そしてお互いが顔を見合わせると、運転手の男が様子を伺うように口を開いた。
「いやぁ、大丈夫ですか? その……お怪我の方は」
すると、もう一方の運転手の女も申し訳無さそうにはにかんだ。
「えぇ、私の方は大丈夫です。ちゃんと保険にも入っていますし……」
その言葉に男はホッとしたような安堵の表情を浮かべた。そして男女はそれぞれ手に持ったリモコンのボタンを押した。すると、未だに馬事雑言を騒ぎ立てていた車がピタリと静かになり、二人は口を揃えてこう言った。
「ごめんなさい、僕(私)の車、少々気性が荒い性格なもので……」




