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北風と太陽2014(1400文字)

 とある街を旅人らしき青年が歩いていた。


 そして、その青年の様子をたまたま空から見ていた太陽は北風にある勝負を持ちかけた。


「おい、どちらがあの旅人の着ている上着を脱がせられるか、ひとつ勝負してみようじゃないか」

 太陽は身体をギラギラと光らせ、その表情には自信がありありと浮かんでいたが、北風はそんな太陽のことなど意に介さずといった様子で言葉を返した。


「ええ、いいですよ。なんなら私は上着どころか彼を丸裸にしてみせしょうか」

 北風の意外な言葉に一瞬目を丸くした太陽だったが、すぐに北風を睨みつけ噛み付くように言った。


「ふふーん、一体その自信がいつまで続くかな。ではまず俺の番からいくぞ! そりゃぁぁあ!」


 太陽は息を大きく吸い込むと、顔を真っ赤にたぎらせた。太陽の身体中から猛烈な光がさんさんと地表へ降り注ぎ、コンクリートの歩道から蜃気楼が立ち上る。


 すると太陽の下を歩いていた青年はかぶっていた帽子を少し上げ、空を見上げた。


「いやぁ、こういきなり暑くなってはかなわんな。少しあそこで涼むとするか」


 青年はちょうど近くにあったコンビニエンスストアの中へと入って行った。

 太陽の必死の熱気もエアコンがキンキンに効いた店内まで届かせることは出来ず、太陽は止めていた息をブハアと大きく吐いた。


「なんという根性のない奴だ! ほんの百年ほど前までは上着を脱いででも歩き続ける旅人が多かったと言うのに!」

 太陽は自分の思い通りにならなかったことが気に食わないらしく、その後もぶつぶつと旅人に悪態をついた。


「それでは、次は私の番ですね」

 北風はそう言うとどこかへ飛び去って行った。


「お、おい! どこへ行くつもりだ!」

 慌てた太陽が声をかけたが、その時にはもう北風の姿は見えなくなっていた。




 それからしばらく経って、コンビニから出てきた青年は、ペットボトルに入ったお茶を飲みながら再び歩き始めた。


「北風の奴は何をやっているのだ! よぉし、こうなったらもう一度俺の力を見せつけてくれる!」

 太陽がそう意気込んだ瞬間、北風が太陽のもとへ急いで戻ってきた。


「おーい、待ってくれ〜!」


「全く、今まで何をしておったのだ!」

 太陽は憤りを露わにしながら北風に詰め寄った。


「すまんすまん、まあ少しの間見ていてくれ」

 北風はそう言うと青年に向かってフゥーと優しく息を吐きかけた。すると歩いていた青年の耳に若い女性たちが楽しげに笑い合う声が微かに聞こえてきて、青年はピタリと足を止めた。


「おや、若い女の人たちの声がするな。近くに何かあるのだろうか……」


「よぉ〜し、あとひと息」

 北風はもう一度息を吐きかけた。すると今度は、青年の鼻をつんとした匂いが刺激した。


「おや、この匂いは……硫黄かな? この辺りには温泉でもあるのだろうか。先ほどの声は温泉からしたものかもしれないな。ちょうど良い、この汗を温泉で流すとしよう。さっきの声からするに……もしかすると混浴かもしれないな」


 青年はほんの少しだけ口元を緩ませると、辺りを見回しながら匂いのする方へとどんどん足を進めた。


 そこから数分ほど歩いたのち、青年はひとつの温泉宿を見つけて中へ入った。

 そして北風の予告通り、上着どころか全ての服を脱いで全裸になった青年は、意気揚々と浴場へ向かって行った。


「どうですか? 風だってただ力任せに吹き飛ばすだけじゃなくて、こういう使い方だって出来るんですよ」


 北風は文字通り涼しげにそう言った。









リハビリ二作目。

ネタ元となった童話のオチが小さい頃から納得いかず、こんな終わり方もアリなのではないかと思って書いてみました(^^;;


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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