壁と言葉
たとえば
隣に立った見知らぬ人を見て
この人は何を考えているのだろうと思ったとして
はたしてお前にそれがわかるのかと問われれば
わかるはずもないと答えるほかなく
視線でその姿を舐め回し
その輪郭をなぞろうとも
内側に潜む心までを
捕らえることなどできはしない
たとえば
目の前で笑う親友がいて
こいつは楽しそうだと考えたとして
それが本当なのかと問われれば
さあどうだかと肩を竦めるしかなく
笑顔など単に肉体の一部であり
いくらでも偽れるものだと知るなら
本当など求めるべくもなく
ただ信じるか否かの問題なのだと
悟る以外の術などない
けれどそうして
人と人とはこれほどまでに隔てられた存在なのだと
思い知らされたとして
私がこの世界に生きていることに変わりはなく
滑稽なほどに分厚い壁の両側で
懸命に言葉を投げ合いながら
見えぬ真実を手探りするのだ
電車の中で隣の人を見て、この人が何考えてるかなんてわかりゃしないんだよなあ、とか思いつつ書きました。
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