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音のする方へ  作者: sen
13/38

ヘタレの言い訳にしか聞こえないんだろうけどね(side.A)

※森矢視点に変わります。


 テーブルの向かいで爆笑している鷹野を半眼で見やりながら、自分でも馬鹿だったかもしれないなと振り返る。だがそこまで笑われる必要があるのだろうか。


「完っ全スルーかよ! つかそれはオマエも悪い」


 もうちょっと時と場所を考えるべきだったなと彼はひぃひぃ笑いながらどうにか付け足す。ああそうだろう。しかし自分でも無意識の内に口から出てしまったのだから仕様がない。

 鷹野の下宿先の部屋はこざっぱりしていて、衣装持ちのくせに服や小物の類が散らばってもいない。収納重視で決めたと言っていただけある。夕飯にとチャーハンと餃子がテーブルに出された。(餃子はチェーン店の出来合い物だがチャーハンは鷹野がきちんと作った。)テレビを横目にもそもそ食べ始め「あのさ、」と切り出したのは間違いだったか。


「ぺろっと出るのな。オマエでも」

「………」

「おーい、あっくーん?」


 その呼び方をされると非常に気持ち悪い。思わずむっとしてしまった。


「怒るなよ」

「無理」

「オマエが話振ってきたんじゃねーか」

「……どうしたらそんなに笑えるのかって時々不思議だよ」

「だってなあ…オマエもだけどあいつも相当鈍いなと。あーもー何なのオマエら……ホントおかしい」


 そこで笑えるのは何故だと言うのに、この男は。

 チャーハンを口に入れ、咀嚼している間も珍しく胸に居座る苛立ちは治まらず。卵とネギとカニカマが入っていて味付けも申し分ないのにまったくおいしくない。



 鷹野が笑うのは「そこまできて何故最後までちゃんと押さないのか」という辺りだろう。出来たら苦労しない。矢橋が「音が?」と首を傾げた辺りからして押しても無駄だなと思ったのだ。それまで匂わす事もしてこなかったのだからあの反応でも仕方がない。まさか女装も似合いそうだとまで言われていたとは思わなかったが……

 【三人セット】を少なからず疎ましく感じる日が来るとは思ってもみなかった。遠慮なく言い合えて友達以上にはなり得ないだろうという頭があったし、それは自分も例外ではない。心持ちを知られ気まずい空気が漂う怖さはついて回る。大事な相手だからこそ、余計に。


「どいつもこいつも傷心コースなわけか」

「?…何の話」

「知らねえよな。あいつ、リセットなう、らしいぞ」

「……ごめん。まったく意味わかんない」


 鷹野はペットボトルの茶を注いで、そのコップを寄越してくる。


「弥坂先輩の話。あいつもやらかしてんだよな前に。佐々木に宥め(すか)されて今は先輩後輩で気楽にいくかーってなってるっぽいけど。冷静に考えたらその方が得だよな、断然」


 適度な距離感は肝要。しかし矢橋がやらかしていたとは知らなかった。


「俺が探しに行ってあいつが先に帰った時だよ。演奏会ん時」

「……ああ、あったね。それでか。何か変だったよね二人」


 お互いに素無視していたのは数日だったはずだ。


「俺、悪くねーし。むしろグッジョブっつってたしな、佐々木は」

「……」


 このいい性格はどこをどうしたら形成されるのかが不思議でならない。


「本人にじゃなくて彼女に宣戦布告とか無駄過ぎ」

「シャオさん何て?」

「別に。俺が入ってボケといたから気にしてないだろ」


 あの人なら気にしなさそうだなと妙な納得。鷹野は自分が馬鹿になるのに臆しない。定着しているキャラをいいように使える器用さは羨ましい所だ。(チャラくなりたいわけではない。断固。)


「まあ先輩が一撃食らわせたのが一番でかいんじゃねーかな」

「わざわざ言ったの。矢橋が――」

「違う違う。ノリで茶化したらあの人がさらっとのろけたようなもん」

「へえ…」


 弥坂が何を言ったかは聞かずにおくが【リセットしよう】と思わせるだけの止めにはなったのだ。あんな短い時間にそんな事が起きていたとは驚きである。


「オマエもいい友達でよかったんじゃなかったっけ?」

「……そうなんだけどね。…おかしいな、何で言ったんだろ」

「うっかり好きって言われて油断したんじゃねーの」

「…好きの意味が違うぐらいはわかってたよ」

「ほー?」


 なら何で、と目を剥く。お茶でごくりと喉を鳴らしてから長息。


「……計算とか無かったな。何か、言いたくなって」


 弟みたいと(ひょう)された辺りから少しおかしかったとは思うが、勢いというか、本当にすっと突いて出てきたというのが近いかもしれない。そういう意味では二人して同じ(てつ)を踏んだのだから、鷹野からしてみれば呆れるばかりの展開とも言える。

 もし正しい意味が通じていたら彼女はどうしただろう。間違いなく困らせた。それぐらいはわかる。あの時正しく意図が伝わるようにもできたかもしれないけれど、その努力をしなかったのはやはり頭が堅いからで――定着した枠組みは強すぎて、本人達すら簡単に切り替えられない。


「………やめよう。何か丸く収まってたからいい」


 好きだと思う気持ちが軽いわけではなく、自分の中にある優先順位の問題だ。やるべき事も保つべき物も思っていた以上に多い。


「ヘタレ」

「うるさいよ」

「反抗した!」

「笑いすぎなんだけど」

「つか下世話な話、そーゆー関係になったとしてさ。抱けるか? あれが」

「…お前の判断基準、最低」

「は? 野郎が考えてる事なんかそんなもんだろ」

「もうちょっとあるでしょ。何か」

「さー、基本言われる側だし、向こうも最終そこに行き着くからな。……追いかけるとか面倒臭い真似したくねー」


 うんざり、という風に肩を竦めてみせる。


「……鷹野ってさぁ…」

「あ? 何」

「………や。いいよ。この話終わり」


 何なんだよとしばらく怪訝な顔をしていたが、じきに「まあいいけど」と追及してこなくなった。



 本気になった事がないというのは幸か不幸か。そんな事を考えていた。そして鷹野が本気になった時、もしかしたら「馬鹿だな」と一番笑って呆れるのは鷹野本人なんじゃないかなとも。余計なお世話で、それこそまた笑い飛ばされそうなので言わないでおいたけれど。



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