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とりあえず、またログインしてみた。

 グリブは返す言葉がなかった。

椿の『ヴェルテュ語の習得』クエストは順調すぎるほどに進んでいった。

レファレンスと持ち前の執着心で確実に。


しかしここで壁にぶち当たったのだ。


12.小道具店シャトンでしおりを購入して、グリブに渡す。


 最後の条件である。

これさえ終われば読めるのだ、なのに。


「…シャトンってどこにあるの…」


グリブはとても親切であった。


「シャトンは小物屋さんでプルーンの木が目印ですよ。そんなに遠くありませんから、あともう少しですよ。」


親切ではあったが、それは椿の望んだ答えではなかった。


図書館を離れるのは恐ろしかったが、椿はMAPの存在を松竹梅先輩方が何やら言っていたのを思いだした。

呼び出し方はほかのプレイヤーに尋ねればいい、とにかく…今は人に会いたいのだ。


椿は歩いた、図書館を出て小道を通り、水面の輝きに惹かれ用水路に出た。

そこには井戸端会議にいそしむ小母様方がいた。


「ごめんください!シャトンってどこにありますか?」


「こんにちは、いいお天気ねぇ。」

「お嬢ちゃん、どこから来たんだい?」


椿は失敗を悟ったが、小母様たちは椿のためにスペースを作っており、もはや避けられぬと再度悟った。


「…こんにちは、図書館から来たんです。」

「図書館って…蔓薔薇図書館かい?それとも王立図書館かい?」


椿は蔓薔薇図書館のネーミングセンスの悪さにちょっと笑いそうになり自分では呼ばないようにしようと心に決めた。

しかし朗報である。

椿にとってはシャトンよりもいい話が聞けそうである。


「グリブさんの管理されてる図書館なんですけど…ここには図書館が2か所あるんですか??」

「そうよぅ、王立は立派なんだけど入るには市民権と入館権が必要なの!」

「市民権と入館権ですか??」

「市民権は私たちみたいに家を持てばいいのよ!お嬢さんは旅人さんでしょ??まぁどの町に住むかは慎重に決めなきゃねぇ…」


どうやらこのヴェルテュではプレイヤーの事をNPCは旅人さんと呼ぶようだ。

椿は何となく本当にどこかの井戸端会議に参加しているように思いながらもVRMMOってすごいのねと感心していた。


「入館権は高いのよ!お金でも買えるけどなんだっけ??司書や研究者ならそれだけでいいんだっけ??」

「そうそう!…あら、ちょっとやだよう曇ってきちゃった。悪いけど洗濯物取り込むからお嬢ちゃんまたいらっしゃいね!ここは『(かしま)し娘の井戸端会議』だよ。」


そういうと姦し娘たちはそそくさと散ってしまった。

結局椿はMAPに表示される地点を増やしたが、MAPの見方もシャトンもそれどころか広場さえもわからなかった。


椿は知らなかったがこの町は流れる用水路によって分割されており用水路をたどれば広場にたどり着くことができた。


しかし「迷子になったら水辺をたどれば街に出る」というジンクスを信じて椿は用水路を下流へと進んだ。

これによっていっそう遠回りとなったわけだが幸い用水路の途切れるところは城壁でそこには町を出るための城門。

プレイヤーたちがいるので目的は果たされるはずである。


時たま、子猫を見つけふらりとついていきそうになる以外は順調に歩み、城壁にたどり着いたときはとりあえず左利きだからと左へ進んだ。


少し行けば別の用水路にかかった橋を渡り、そんな橋を2つほど渡った後大通りに出た。

大きな門扉には衛兵が立ち、冒険に出かけるPCを見守っていた。


大通りである、これをきっと街中に進めば広場があるはずだ。

欧羅巴風の町ならばきっとそうに違いないと椿はまた歩き始めた。

脳裏には松竹梅先輩たちの「広場の掲示板にチュートリアルクエストがあるはずだ」との一言だけを思って。


プレイヤーに聞くという当初の目的はきれいさっぱり忘れていた椿であった。



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