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とりあえず、ログインしてみる。

 始まりの町


 椿は迷子になっていた。

彼女はVRMMO自体初めてだがそれ以前にMMOもゲームそのもの自体もほとんど経験がなかった、その為煩わしいまでに口酸っぱくして先輩方は付属の小冊子の内容を読み聞かせていたが、おおらかな彼女はもちろん聞き流していた。

一応授業で行ったように体の操作は同じであることだけは確認していたため移動する事すらできないという笑えない事態は回避できた。


 椿のおおらかさによる問題点を棚上げし、他に問題点を上げるとするならば…松竹梅の彼らが廃人ユーザーを含むコアユーザーだったことだろう。

チュートリアルの有用性もしくは必要性を忘れていたのだ、そのため椿は何をすればいいのか迷っていた。


 そして、街の中でも迷っていた。

始まりの町は広い。

最初にログインする広場にある噴水を中心に流れ出る用水路によって5等分されたペンタゴン型の町は大通りから一歩でも外れると入り組んでおり、細い道や階段、行き止まり…迷子になるには充分であった。


 椿は気になればどんな小道にも入っていった。

たまに入れない(システム外)ところがあれば仕方ないと隣の道に入り、いつの間にか彼女は迷子となっていた。


 彼女のできる操作方法は“歩く”“話す”“ウィンドウの開き方と各ページの見方”だけである。

ウィンドウ自体開けるが、どんな機能を呼ぶことができるのかは知らなかった。

 もちろんウィンドウ内のオプションで設定するMAPウィンドウなんて存在すら知らない。

広場にあった掲示板で最初のクエスト『チュートリアル』を受けクリアすればウィンドウにHELPウィンドウが出るなんて…知る余地もない。


 それどころか椿はリアルでも地図を確認せず突き進み迷子になることが多々あった。


 そうこうしているうちに椿は大きな屋敷の前に立っていた。

蔓薔薇のモチーフが繊細な門は開いており、屋敷の扉の上には『図書館』と刻まれていた。

椿は本が好きである、三度のご飯より本、睡眠よりも本。

雑誌よりも新聞、新聞より小説。

とかく物語が好きなのである。


「図書館…」


 ぼそりとそれだけつぶやくと椿はさもここを探していたんだと言わんばかりに門をくぐり扉を開け、図書館へ入っていった。

迷子だったことも忘れて。


 図書館の中は荘厳であった。

天井には宗教画であろうフラスコ画が描かれ、本棚のいたるところに繊細な彫刻、吹き抜けになった2階の手摺にも緻密な彫刻、ロビーの真ん中に置かれたカウンターは磨き上げられた木材で何とも言えない飴色、床もピカピカと天井の絵を映し出すほど磨かれており立ち入るのを若干躊躇わせるほどであった。


 しかし、椿はお構いなしであった。


 図書館というものはいくら美しかろうともその主役は本なのだ。

本それは知識と物語の語り部。

椿の愛してやまないもの。


ほかは何一つとして問題にならない。

本がある、それだけが問題である。


「…文字が、読めない…けど読める。」


 適当にいちばん近い書架から引き出した本を開けばミミズももう少しは遠慮するであろうのたくった線が羅列されていた。

もちろん読めるはずがないのに椿には意味が分かった。


「いらっしゃい、今日初めてのお客さんがエルフさんとは…珍しい日もあるんだね。

僕はこの図書館の管理をしていますグリブです。どのような本をお探しですか??」


 カウンターから椿のもとにやってきたのはNPCのグリブであった。

しかし椿にはNPCとプレイヤーの見分けなどつかない。

ウィンドウのオプションででNPCとプレイヤーの表示方法を設定していないためすべてがPCと同じ表記がされているのだ。


「これ、日本語じゃないのに読めているんですけど…ご存知ですか??」


「エルフは古語解読スキルを最初から取得されていますから古語で書かれた本は読めるんです。もし他国の本が読みたいのでしたら言語習得スキルもお持ちのようですから学ばれたらいかがですか?」


 ミミズ語は古語だったらしい。

しかし椿にとっては先ほどの言語が何であるかは関係がない、さらなる扉を示されたからだ。


「…読める本が増える?」


「そうですね、圧倒的に増えると思いますよ、この図書館の蔵書は2割が古語、1割が日本語ですね、あとはヴェルテュ語や旧ヴェルテュ語、神学語なんかですので…ヴェルテュ語だけで5割ほどあるので、学べば読める本が増えます。」


「覚えます!!」


「では、クエスト『ヴェルテュ語の習得』を開始されますね?ウィンドウを確認後クエストの進行などご質問がありましたら再度僕に話しかけてください。」


 そしてここでようやく相手がNPCだったと気が付くのであったがもはや椿には思考の外にある問題であった。

新たな言語の習得、それは新たな物語との出会いを示唆している。


「…これ、クエストだったんだ…なら、えっと…ウィンドウ…あ、クエストページ…確認…条件…」


『ヴェルテュ語の習得』

図書館にいるグリブに話しかける。

スキル言語習得を所持していた場合に発生する。

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1.図書館内にある日本ヴェルテュ辞典の発見。


 最初の達成目標はこの膨大な本の中から「日本ヴェルテュ語辞典」の発掘である。

しかも12項目あるのだ、どれだけ探し物をしなければならないのだろうか…

これが図書館と縁の遠い人間ならばすぐさまクエストの廃棄を選ぶべきか思案するが椿は違った。

図書館にはレファレンスサービスがあるのだ、当然利用すべきである。


「グリブさん、レファレンスをお願いしたいんですけど日本ヴェルテュ語辞典ってどこの書棚にありますか??」


 瞬殺である。

その後もレファレンスをうまく利用し、サクサクとクエストを進行していたが突如アラームが鳴り響いた。

これは椿が設定していたゲーム終了時間のアラームである。


「あと4項目なんだけどなぁ…おなかも減ってきたし…今日はここまでにしなきゃなぁ。グリブさんおやすみなさい~」


 そうして椿の1日目が終わった。

押し付けられたゲームであり、開始早々に迷子として路地を歩き回った一日であったが終わりよければすべてよし。

本に出会えた、椿にとってこのゲームをやるという意思を持った瞬間でもあった。



舞って誰だ。

なんという主人公の名前誤字。


ご指摘大変有難うございましたーー!(3/23)


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