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とりあえず、神殿に。

 旧ヴェルテュ語をマスターしてからはや7日。

ようやっと椿として遊べるようになった。


 7日間何をしていたかといえば、学生の本分を全うしていたのだ。

母曰く、やることしない子は見せしめ。

兄は大事にしていた大型バイクを、弟は500時間越えしたゲームのセーブデータを。


母によって失ったのだ。


 椿は知っている、とりあえず宿題さえ終わらせてしまえば海の向こうにいる母を恐れなくてもいいのだと。


 本日もヴェルテュは晴天。

椿は蔓薔薇図書館を背にまずは広場に向かうことにした。

グリブはまず広場に行くことを進めてくれたからである。


メインウィンドウから飛べる掲示板には攻略掲示板というものがあり、そこには様々な情報が載っているのだが…椿が知る由もなかった。


「…神殿に来たけど、誰に話しかければいいのかしら…」


 神殿は木造だった。

厳粛な雰囲気で、華美ではないがしっかりとした装飾美も持ち合わせていた。

どうやら多神教のようで主祭壇の周りには10の絵が収められていた。

主祭壇にいるのは黄金の波打つ髪が美しい、緑の意思を額にはめた太陽と戦の女神。

その両脇のうち右手には黒く長い髪と長身の男とも女ともつかぬ夜と知恵の神。

左手には銀の髪と紫紺の瞳が美しい月と情愛の女神。

それぞれがしたがえる眷属が4体ずつ左右に分かれていた。

夜と知恵の神が統べるのはエルフ、竜、魔、精霊

月と情愛の女神が統べるのは人、妖精、亜人種、聖獣

それぞれの絵の下には何か書いてあったが椿には読めなかった。


「きっと、これが神学語!!読めるようになれば…もしかして神話とか…神話とか神話とか!!!!」


椿の脳裏には北欧神話や日本神話、インド神話にケルト神話…今まで読んできた神話たちが次々と現れては消えていった。


「ここは…神殿ってことは神官さん?がいるはず…!!」

「…私に何かご用ですか?」


椿の期待に応えるように突如現れたのは椿が期待していたような白い服を着た神父ではなかった。

なんというか極彩色。

紫紺の髪に黒い瞳、着ているものは品のいい藍色を基調にしたローブなのにそれに刺繍された草花や空、鳥や動物たちのために目が痛い。

一人絵巻物語りである。


「…神官さんですか??」

「はい、このディレクシオンに仕えておりますターブル・デ・マティエール、マティエと呼んでください。」

「マティエさん、この絵の下にあるのは神学語ですか???」

「そうですよ、解説いたしましょうか…?まずはこの主祭壇におわしますのが太陽と戦の女神で…」

「いえ、興味はありますがそれは自分で読みたいんです、ぜひぜひとも私に神学語を教えてください!!!」

「神官候補生になりたいということですか???」

「いいえ!神学語を学びたいんです!」

「…こまりましたね、神学語は神官候補生たちには門徒を開いてはいますが…興味本位の方にはお断りしてるんですよねぇ…」

「神官になったらほかの職には就けないんですよね?たとえば司書とか…」


無理ですねぇとなんとものほほんとした応えに椿は心を決めた。


「祈りの時間とかありますよね、信者なら入れますよね、経典とか読みますよね。いつやってますか。」

「はい、ありますよ~毎日3回勉強会があります。今日は朝は終わってますので黄昏と夜間の2回参加されるようでしたら、こちらの名簿に参加記入してください。お時間や必要なものをお知らせしますので。」


名簿には名前、どの祈りの時間に参加希望か参加回数、参加人数、種族など…

なんだか記入内容がファミレスの予約とかぶる気がしたが椿は気にしないことにした。


「はい、では黄昏の勉強会で経典とこまごましたものをお渡ししますから少し早めに来てくださいね。ではまたお会いいたしましょう…あ、エルフさんなら夜と知恵の神を勉強したほうがよろしいですよ。加護をいただいてるんですから~私は亜人種なので月と情愛の神を信仰してます!」


メールが届きました。


ディレクシオン神殿よりお知らせ。

本日の礼拝 黄昏の勉強会18時25分から

      夜の勉強会21時40分からそれぞれ1時間ほど予定しております。

持ち物   経典、ローブ、鈴、それぞれ信仰していらっしゃいます神にまつわるもの。

      持ち物に関しましては今回初めてご参加いただくという事でこちらで手配しております。

      その為黄昏の勉強会では20分前に神殿へお越しください。


「…なにこのメール…」





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