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新しい日々  作者: あきら
6/8

6

 クリスマス、25日。美麗の大きな声で目が覚める。

「きゃー! いづる、ありがとーーーー」

 まだ寝ぼけていた僕の肩をつかみ、前後に激しく揺らす。もうちょっとでトリップしそうになる。

 どうやら、枕もとに置いてあったプレゼントに気づいたみたいだ。

「あ、もしかして私、昨日、いつのまにか寝ちゃって、いづるにプレゼント渡してないじゃーん」

 そういって、バックからなにやら取り出して僕の首に巻き付けた。

「んー? なにこれー?」

 首のあたりがふかふかで暖かくて気持ちいい……。

「なにって? マフラー、見てわかんない?」

 寝ぼけていた僕は、とぼけたことを言ってしまった。

 ……。

「ねー、値札ついたまんまだよ」

「え? ほんと? きゃー、まって、見ないで、すぐとるからー」

 美麗が慌ててはさみを持ってきて値札をはずす。

 徐々に覚めてきた頭で、手編みのほーがよかったなぁ、などと思った。最近忙しそうだったから無理なんだろーけどさ。

 そのまま、ぼーっと座ってると、美麗が顔を覗いてくる。

「あんまり喜んでない?」

「そんなことないって! まだ頭が起きてないだけ……」

「うー、なんかつまんないぞー。もっとリアクションしろー」

 そういって脇をくすぐり出す美麗。

「ちょ、まった。まった、やめてーーー」ばたばた暴れる。「はぁはぁはぁ……」

「どう? 目、覚めた?」

 にっこり笑う美麗。

 くそう、いつか仕返ししてやる。

「ね? 今日どっか、いこっか?」

 今日は天気もいいし、なんだか出かけたい気分。

「うーんとね、今日はちょっと用事入ってるの」

「そっか、そりゃ残念。何? 仕事のほう?」

「うん、なんか昨日パーティーで気に入られちゃったみたいで、すぐにでも仕事初めて欲しいんだって」

「なんかすげー、それって美麗が認められてるってことだよね?」

「どーだろ? なんか猫の手でも借りたいって感じなんじゃないの?」

 うーん、最近美麗とどっかに遊びに行った記憶ないぞ。でも、なんか美麗の才能が認められるのは、僕にとっても、嬉しい。

「そうだ、いづる。お正月はどうするの?」

「んー? 実家の方で成人式とか、同級会とかあるから、すぐ帰るけど?」

「そっかー、さつきちゃんに会ってくるんだね?」

「さぁ? あいつも忙しいんじゃないの? 来るかわかんないし……」

 そういいつつ、僕にはさつきが来るという確信があった。卒業式の約束。5年後の成人式で会おうって、そう約束したから……。




 中学の卒業式は、校長の長い話やら、なんやらで逆に醒めてしまって、感動とかはなかった。担任の最後の話もPTAの前ということもあって無難なことしか言わなかった。

 そんで、最後校庭で記念撮影して、ばらばらに解散と……。

 そのあとで、いつものメンバー6人集まって屋上に行った。

 下級生はまだなにやらやってるようで教室にいたし、3年はみんな校庭で各々しゃべっていたから、屋上には僕ら以外誰もいなかった。

「ここからの景色って気持ちよかったよねー」

「これで最後なんだよねー。この景色」

「昼休みのたびに、ここで集まって、楽しかったよね!」

「いづるはいつも、宿題写してたけどね」

 さつきが僕に向かって笑った。

 クリスマス以来、以前のように普通に接していた。まるで、お互いキスなんてしてなかったかのように……。あれは夢だったのか? と思ってしまうぐらい……。

「なんか終わってみると早かったよなぁ。ついこの間まで、毎日毎日たいくつで、早く卒業したいとか思ってたのによー」

「俺らの3年間って結局この筒の中に収まっちまう程度のものだったのかなぁ?」

 そう言いながら卒業証書の入った筒を手の上で回す友達。

 屋上は下より風が強くて、心地よかった。

 それから、知らず知らずのうちにカップル別に話し込み初めてしまったので、僕とさつきでふたりきり、ぽつんと立っていた。

 なんか、卒業ってことが、くすぐったくて、妙にさつきを意識してしまった。

 話しかけることもできずに、ずっと遠くを見ていた。

 フェンスにもたれかかると、空に浮いてるような錯覚がした。

 さつきも真似して僕の隣でフェンスにもたれかかった。

「色々あったよね……」

 誰に話すともなく、空に呟いたさつき。

「あぁ」

 誰に答えるともなく、空に頷いた僕。

 それがきっかけで、色々な思い出を話し始めた。ずっと同じクラスだったこと。この屋上で鬼ごっこして、フェンスをこえてまで逃げたら、下に落ちそうになったこと。授業中に消しゴムの投げ合いをしていて怒られたこと。体育祭で優勝をかけて美樹のクラスと勝負して負けたこと。さつきの陸上の試合にみんなで応援にいったこと。修学旅行で先生に内緒で夜中ホテルを抜け出して遊んだこと。それが後でばれて、しこたま怒られたこと。

 話し出せばきりがないほど、思い出がたくさんあった。

「高校行ったらさぁ、また色んな事あるんだろーな」

 さつきも高校に合格したみたいだったがどこか教えてくれなかった。

「そーいやさ、さつきはどこの高校行くの?」

「私ね、明日引っ越すの……」

「は? なんの冗談だよ?」

「いや、ほんとに……まだ美樹にも誰にも言ってなかったんだけど……」

「ちょっとまてよ! いったい、いつそんなの決まってたんだよ?」

「ほら、前に家出したときあったじゃない?」

 あの夜のことを思い出して、少し気まずさを感じた。

「あぁ、あんとき、それで家出したのか?」

「私の親って、外見別に問題なさそうだけど、家の中じゃほんと険悪だったの。父親は外で好き勝手やってたみたいで、母さんずっと我慢してたんだ。それで、ほんとはもっと早く別居するはずだったんだけど、私ががんばって説得して中学卒業するまではって……ずっと待ってもらったの」

「そんなのうちの親もなにも言ってなかったのに……」

「どんなに仲がいいって言っても、結局大人のつき合いなんて外面だけ、上っ面のつき合いなんだよね。世間体とか気にして誰にも言ってないんじゃない? うちの親」

「そういうさつきだって、俺になんにも相談してくれなかった」

「そうだね。親のこと色々言う資格なかったね」

「そうならそうと言ってくれれば……」

「言ってたら何か変わった? 母さんはどっちにしろ実家のほうに帰るって決めてるし、私はそんな母さんを一人にはできない。だから母さんについて行く、北海道に行く」

 ……そりゃ僕に相談したからって、何ができるわけでもないけど……。

「あー、だめだめ。せっかくの別れをこーんなじめじめさせちゃった」さつきが気まずい雰囲気を追い出そうとした。「ねー別れるなら春が一番だよね」

 フェンスから離れて僕の正面に、くるん、と回って立った。

「先入観もあるけど。柔らかい空気の中でさ、笑って別れられたらきっと、どんな別れでも素敵な思い出になる。それに別れた後もさ、それを思い出す暇もないぐらい新しい毎日が押し寄せてくるの。だから別れるなら春がいいね」

「そーかな? どんな季節だって別れるのはつらいよ」

 さつきが遠くへ行ってしまう。そんなこと考えてもみなかった。

「だーかーら! 笑って別れよ、って言ってるでしょ。そんなじめじめしないの!」

 こつんと、おでこをはじかれた。

「北海道のどこだよ? 手紙書くよ」

「いーやーだ。手紙来ても私返事書かないからね」

 この顔はなにやら企んでる時の顔だ。そんなことまで解るぐらい長い間一緒だったのに……。

「なんだよ、それー?」

「5年後に会おうよ」

 僕の目をまっすぐ見る彼女。それだけでどきどきしてくる。

「5年後ぉ? なにがあんだよ」

「ほら成人式あるじゃない。そのときに帰ってくるから、お互い空白の5年間をいっぱい話し合うの。徹夜でさ、お酒でも飲みながら」

「まぁた変なこと考えつくな、お前ってさー」

「そんで、いづるに彼女がいなかったら……」

「彼女いなかったら、つきあってくれるってかぁ?」

 そんなどっかの映画でもあるまいし……。

「ううん、違うちがーう。彼女がいなかったら罰金ね。その時の酒代ぜーんぶ出すの」

「なんで彼女がいないと、お前に罰金なんだよ? わけわかんねーよ。お前も彼氏いなかったら払うんだかんな!」

 期待と違ったさつきの言葉にけっこうがっかりした。けど、やっぱさつきらしいとも思った。

「いーっだ。私に彼氏ができないとでも思ってるの? 二十歳になったら、いづるなんか近寄れないぐらいの美人になってるんだかんね」

「ばーっか、おつむだいじょーぶかよ?」

「あー、いづるには言われたくない」

 そして二人で笑った。久しぶりにこんなに笑った。笑って別れられたら、やっぱ最高だよな。

 徐々に空もあかくなってきた。気づけば風も冷たい。時間が流れるのがとても惜しい。もっと、もっとここにいたかったけど、そうもいかない。

 美樹がさつきを手招きして呼んで、なにやら話してる。

 美樹に引っ越すこと話してないって言ってた。このまま話さずに行っちゃうのかな?

 そのあと、またさつきは戻ってきて、

「そろそろ帰るって……」

 寂しそうに言った。

「美樹には言ったのか?」

「ううん、言ってない。引っ越した後電話でもするよ」

「そか」


 夕焼けに染まる帰り道。

 ……さつきとふたりで歩くのもこれで最後なんだろうな。

 ……おそらく、制服着てこの道を通ることはもうないだろう。

 見慣れた景色がその時はなんだか、よそよそしく感じた。ふたり黙って歩いた。もちろん違和感などなかった。

 よく買い食いした小さなお店。いつもニコニコして座ってるたばこ屋のおばあちゃん。電線にとまってるカラスでさえ、夕焼け空にマッチして綺麗な一つの絵のようだった。遠くでまた別のカラスが鳴いていた。はるか向こうに見える山にはまだ雪が残っていて、真っ白な雪が赤く塗られていた。そんな、なんでもない景色を見ながらただ黙って歩いていた。

 ふいに、さつきが口を開く。

「いづるの好きな人って……」

 そのまま、また黙ってしまう。

 なんだか耐えられなくなり、今度は僕が口を開く。

「さつき、お前の好きな人って結局誰だったの? 第二ボタンとかもらって来たのかよ?」

 ちゃかした感じで言う。

「ねぇ、私たちってさ、いつまでも幼なじみなんだよね? お互いどんなに歳とっても幼なじみ。それってある意味恋人なんかよりも、もっともっと大事なものだよね」

 うまく、はぐらかされた気がしたけど、納得もできた。

「いづるの第二ボタンちょうだい」

「お、おう。いいけど……」

「5年後まで預かっておいてあげる」




 正月は実家に戻ってすごした。

 たまに帰ると親はうるさいけど、それすらも懐かしく感じる。二十歳もすぎれば、親父も酒を勧めてきたりと、今までと違うつき合い方ができたが、やはり距離をおいてしまう。

 休み中は毎日毎日、中学時代の友達や、高校時代の友達と集まって遊んでいた。

 さつきの家に行ってみようかと思ったが、約束した以上、成人式までは会わないことにした。けっこう自分もロマンチックなやつだな、と改めて気づいた。

 成人式は学生が多いということもあって、1月4日にやることになっていた。

 成人式当日は雪が降った。今シーズン一番の降雪量だった。

 着物できていた女の子達はなんだか大変そう。

「さみー」

 たばこの煙と息の白さがまじって、空気にとけていく。

「あ、いっずるー」

 突然、声をかけられる。緑を基調とした着物に赤い髪の毛をアップしてギャルっぽいメイクの女の子。こんな子知り合いにいたか?

「え、えっと、誰だっけ?」

「ひっどー、美樹だよ。霞美樹! 忘れたの?」

 あの美樹か? まじか?

「うっそー? 美樹? お前なに今時の女の子みたいな顔しちゃってんだよ」

「今時の女の子なんだって!」

「相変わらず口のへらねーやつだな、お前も」

「うるさいわねー。それより他の男どもはどーしたのよ? いっつもつるんでたくせにさー」

「カズはもう東京で仕事あるとか言ってこねーって。ボッチは、お前の方がしってんじゃねーの?」

「えー? 知らないって、もーとっくに別れちゃったしね。あぁさっきサクラに会ったけど、高校の友達につかまってるらしくって。後で一緒につかまえに行こうよ」

「んじゃあ、あとは……さつきは?」

「昨日電話したら、早めに行くって言ってたのになぁ」

「卒業してからも、さつきとけっこう話とかしてた?」

「へへー、やっぱさつきの事気になるんだー。ふふふ……」

 にんまりした顔で僕の顔を覗いてくる。女ってたかが5年でこうも変わるかな。

「うっせーな。別にいいけどよー」

「さつき、今東京にいるよー。よく一緒に遊ぶもん」

「ってことはぁ、さつきもお前みたいに、女子高生に対抗意識燃やしまくりのかっこしてるわけ?」

「ぜーんぜん。もーさつきったらデザイナー目指してる割に、なーんか自分のファッションってやつを貫いててねー」

「お前、言ってること矛盾してっぞ」

「もー細かいこと、いちいち気にしてんじゃないの。あ、あれボッチじゃない?」

 美樹が指さす方を見ると、背の高い男がこっちに向かって手を振っている。

「うーっす。いづる。と……美樹?」

 美樹の顔をまじまじ見て、意外そうに言うボッチ。

「ボッチまでなにゆってんのー? やっぱ私ってば綺麗になりすぎちゃったのね。美しいって罪だわ」

「何いってんだよ。ばーか。にあわねーかっこしてっからわかんなかったよ」

 ボッチが頭をかきながら言う。こいつはこんな仕草さえかっこよく見えてしまう。ホストちっくだよなーと、スーツ姿を見て思う。

「お前、また背のびてねーか?」

 見上げながら話すというのは、精神的に疲れる。

「いづるは全然育ってねーな……ってついこの間一緒に飲みにいったばっかじゃねーかよ」

 相変わらず、のりつっこみが好きなやつ。

「ったく、ボッチってば、昔はぼーっとした、ウスラデカだったのに、いったい誰の許可得てそんなにかっこよくなったのよー」

 美樹が不機嫌そうに言う。

「なに? お前別れたこと後悔しちゃったりしてるわけ?」

「ばーか、あんたみたいな、いーかげんな男、二度とお断り!」

 なんだかんだ言って、こいつら今でも仲いいよな。別れたカップルとは思えないぞ。

「美樹もいづるも、いーかげん、そのボッチって呼び方やめろよ」

 ダイダラボッチからとったあだ名。だけど前より身長の伸びたこいつは、もっとこの呼び方にふさわしくなってると思うのだが……。

「そーいわれてもなー、やっぱ長年の呼び方は変えられねーよ」

 その時、後ろから誰かが美樹の肩をたたく。

「おっはよー、遅くなっちゃったよ。美容室すっごく混んでて大変でさ。美樹も大変じゃなかった?」

 さつき?

「おー、おっそいぞ、さつき。もー男どもに見せつけてやんなさいよー。5年間の軌跡ってやつをさー」

「おひさだね」

 そう言って僕と目が合う。なんか照れる。

「おうおう、やっぱ美樹と違ってかわいくなったねー」

 ボッチが先に話しかける。なんのためらいもなく、こういうことが言えるこいつが羨ましい。

「いづるってば、ぼーっとしちゃって、さつきに見とれてんの?」

 美樹が冷やかしてくる。

「ちげーよ」とりあえずごまかす。「おひさ……だな」

「うん、5年ぶり」


 式自体は退屈だったが、ボッチたちと話し込んでいて時間が経つのは早かった。

 終わった後、サクラも加わって思い出話に花を咲かせる。

「とりあえずさー、着替えてどっかで集まろうよー。ボッチ車の免許もってんだよね? 足お願いね」

 美樹が仕切る。こいつは変わらないな。見た目はけっこう変わっても中身はやっぱ美樹なんだと、安心する。

「んじゃあ、6時におぼろ月に集合な」


 「おぼろ月」。名前は飲み屋っぽいけど、実際は、けっこうしゃれた喫茶店だ。中学の近くという場所がらもあり、ちょくちょくみんなで集まってだべってたお店だ。中学生ながらもここのコーヒーはうまいって思った。マスターはいい人でよく相談にのってくれた。


 カランカラン……。


 懐かしい音。店の中は5年前と変わらない空気が漂っている。

「お? いずるか?」

 マスターが僕の顔を見るなり聞いてきた。

「え? わかります? けっこうご無沙汰してたのに……」

 ちょうどマスターの正面のカウンター席に座る。

「あぁ、開店した当時の常連だからな。なんにする?」

 コップを拭きながら聞いてくる。

「んー、とりあえず、いつもの」

 これは忘れてるだろうと思って、冗談で言ってみた。

「カフェオレな、甘さひかえめの。それでミックスピザもつけるのか?」

 さっそく冷蔵庫からミルクを取り出しながら、してやったりとした顔で答える。

「えぇ? なんでそこまで覚えてるの? うん、なんかピザも食べたくなった」

「お前は印象強かったからな」

「そんなことないって。そんなの言われたの初めて」

 なんとなく恥ずかしくなって手元を見つめる。

「そういえば成人式か? ふん、俺がこんなに歳とるわけだよ。あのガキジャレがもう立派な大人なんだもんな」

 ピザを焼き始めながら、手際よくカフェオレの方も作る。この手順を何度見たことだろう。

「おまちどーさま、特製カフェオレでございます」

 いたずらする子供の様な顔でカフェオレを僕の前に置く。

 とりあえず、一口飲んでみる。

「うまいよ、マスター。全然味変わってないよ」

 口の中に懐かしい味が広がる。当時の思い出までもが、鮮やかによみがえってくる。

「ばかめ、お前用に昔の作り方で作ったんだよ。特製って言ったろ? 今じゃもっと旨いカフェオレ作ってんだよ!」

 この40歳ぐらいに見えるオヤジが、なんだか物凄く懐かしい友人のように感じる。

 待ち合わせの6時を過ぎても、誰も来ない。まぁそれは予測範囲内だ。

「ここら辺りも、全然かわんないよな。マスターも全然歳とってないみたいだし」

 喫茶店からの景色は相変わらずだ。何も変わってない。雪が積もり初めてなんだか物凄く得した気分。

「お世辞言ったって、ちゃんと食った分は払ってもらうからな」

 他のお客さんの注文のコーヒーを煎れつつ、不機嫌そうに言う。マスターは誉めると照れて一見不機嫌そうになる。中学時代、何度それをからかったか……。

「そういや、浅葱あさつきさんは?」

 浅葱さんは、前からここでバイトしていた女の人だ。マスターと、まぁ、そんな仲だった人。

「イギリスだか、どっかにいっちまったよ」

 ぶっきらぼうに答える。その顔はどこか寂しげだ。

「へー、逃げられたんだ」

 僕の言葉に、普段でも渋い顔が、もっとにがにがしくなる。

「相変わらず余計なこと言うガキだな、お前も……」テーブルを拭きながら一瞬動作が止まる。「まぁ好きなことやっててくれるなら、俺はかまわないさ」

「おっとなー」

「ふん、昨日今日、大人の仲間入りしたお前なんかとは、人生の厚みがちげーんだよ」

 この人に、ちょっときつい言葉をかけても平気だと思うのは、その強さをよく知ってるからだし、どことなく甘えられる存在だからだ。僕もいつかはマスターみたいに何を言われてもどっしりと構えていられる男になってみたいと、本気で願うのだ。


 カランカラン……。


「おっせーぞ、さつき」

 入って来たさつきに向かっていきなり声をかける。この場所が、マスターが僕の中の時間を戻してくれたおかげで、さつきにも昔みたいに自然に声がかけられた。

「わ、なつかしー。そのピザ食べてもいい? 外寒くてさ」

 そういって、僕のピザに手をのばす。

「おいしー。マスター腕落ちてないね。そういえば浅葱さんは?」

「さつき、それ禁句」

 いったとたん、マスターと二人で笑う。さつきは、きょとん、としていた。

 よくよく見れば、さつきもあんまり変わってなかった。さっきは着物だったりしたせいで別人に見えたけど、こうして見れば、僕の中のさつき、そのまんまだった。

「マスター、ブレンド、あっつあつのホットで」

 コートを脱ぎながら注文する。

「さつき、髪のびたなー」

「まぁね、似合わない?」

 言われて気になったのか、さりげなく髪をかきあげる。そういう仕草に5年間の時間を実感した。

「うーん、ショートしか見てなかったから……」

「はいよ、おまちどー、ブレンド」

 マスターがコーヒーカップをさつきに渡す。

「ん、ふーいきかえる!」

 コーヒーを口にしたさつきの感想。

「美樹とかは、まだこねーのか?」

「あぁ、ドタキャンだって……」

「なにそれ? まじかよ、サクラもボッチもか?」

「うん」

「また、なんか賭けでもしてんじゃねーだろうな?」

「あー、覚えてる? いつだかプールに行こうってとき、こんな風にみんな来ないで二人だけで待ってたことあったじゃない?」

「そうそう、そんときのことだって……」

「あの時ねー、ほんとは私がみんなに頼んでいづるに内緒にしてもらったの。ほら先輩のプレゼント買いにいづると出かけたかったから。あのときの星の砂、まだとってあるんだよ」

「ものもちいいな、お前って」

「今日もなんだか知らないけど、美樹が気を使ったらしくって、いづると二人きりで話たいでしょー? って、ほんとよけいなお節介やきたがるんだから。おおかた、ボッチと二人で遊びに行きたかったんだろーけど」

「そんじゃ、サクラがかわいそーじゃんかよ。今から呼ぶか?」

「まぁ、明日また集まるらしーよ。それより約束覚えてる?」

「一晩中、お互いの5年間語り合うってやつか?」

「それもあるけど、その酒代払うって約束。いづる彼女いるんでしょー? ちゃんと話聞いたよ。みれっちから」

 みれっち、美麗のことか……。

「お前はどーなんだよ、彼氏いんのか?」

 どきどきしてる自分に驚く。まだ好きってことか?

 ……私とゆー彼女がいるのにさー……。

 美麗の声が聞こえた。


感想ないんで、

ちゃんと読んでもらっているのか不安です。

なんでもいいんで書き込んで下さい。

お願いします。

けっこう煮詰まってます(苦笑

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