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新しい日々  作者: あきら
5/8

5

 美麗のいない美麗の部屋。

 そんな状態に慣れてしまったことが、なんとなく寂しい。


 ガチャ。


 鍵の開く音。美麗が帰ってきたみたいだ。

「ただいまー」

「おう。おかえり」

「すっかり寒くなっちゃったねー」

 厚手の上着を脱ぎながら、美麗は部屋の暖かい空気を深呼吸する。

「そだよなー。なんか出不精になっちゃうよな」

「もー、そんなんじゃ、ダメでしょー?」

 そういいつつ、こたつに入ってくる。

 それから何気なくテレビを見ていたら、

「ねぇ、いづるはクリスマスイブどうするの?」

 と、聞いてきた。イブはなんかやろうって言ってあったので、何か用事が入ったのかな?  と思った。

「え? 美麗忙しい?」

「うーん、内定した事務所でパーティーみたいなのがあるみたいなの」

「へー、いいじゃん。行ってきなよ」

「だってー、いづるは何か準備してるんでしょ?」

「準備ったって、まだ何も決まってないからなぁ」

「一緒に行く?」

「んーやめとく。なんかそういう華やかな雰囲気って苦手なんだよね」

「そっかー」

 深いため息をつく美麗。

「パーティーは遅くまでやるの?」

「さぁどうだろ?」

「そっちが終わったらさー、この部屋でちょっとした2次会やろーよ。二人きりでさ」

「わー! それいい。絶対早く帰ってくるからね」

「いいよいいよ、そっちはそっちで楽しんできなよ。徹夜覚悟で待ってるからさ」

「うーん」

 美麗は、そううなってテーブルに顎を置く形で考え込んでしまう。

「じゃあ前日の23日にやろーよ」

 美麗が妥協案をもちだす。

「悪い、その日は細野たちと約束入っちゃってるんだ」

「えー、ぶーぶー」

 口をとがらす姿がなんだか子供みたいでかわいい。

「ま、いいじゃん。どっちみち二人きりでやれるんだからさ」

「うー」

 なんか納得してくれないみたい。




 お互い気まずいままで迎えた中3のクリスマス。

 雪は降ってくれなかった。

 カラオケで盛り上がった後、近くの公園に行った。クリスマス仕様にすっかり模様替えされたその公園は、まだ明るいにもかかわらず、カップルばかりだった。ベンチは占拠されていたので、みんなで芝生に座った。

「さむいねー」

「なんか暖かいものかってこよーか?」

「じゃー元陸上部、ひとっぱしりしてきてよー」

 美樹がさつきに言った。

「私一人でー?」

「いづる、つれてっていいからさー」

「なんだよ、俺はお前の持ち物かよ」

 まぁ、美樹他三人はつきあってるから必然的にそういうことになるんだけど……。さつきと二人きりになるのはさすがに辛かった。

「俺、ホットコーヒーとにくまんな」

「俺もにくまーん」

「私はあんまーん」

「お前、そんなもん食うと太るぞ」

「いーんだって! 若いうちは太ったほうが将来グラマーになるんだぞ。そーなっても触らせてあげないんだからー」

「まぁったく」

 そんな会話が続く中、いつの間にやら僕とさつきで行くことにすっかり決まってしまった。

「しゃーねーな。おら金出せ。割り増しだかんな」

「えーけちくせー」

 そんなこんなで、さつきとふたりで歩き出した。

「……」

「……」

「……」

「……」

 しばらく無言で歩いた。先にそれに耐えられなくなったのは彼女の方だった。

「ねー、この間のテストどーだった?」

「んー、べっつにぃ。さつきは?」

「私はいつも通りの低空飛行」

「高校はどーすんの?」

「さぁ? 適当に受けて受かったら行く。いづるは?」

「うーん。まだ決まってないけど、希望校はS高。まぁ無理だけどね」

「えーどこがいいの? あそこの制服ってさいてーだよ」

「制服で決めた訳じゃ……。担任にまぁそこが無難だろーって言われて、なんとなく」

「なぁーんだ。いづるらしー」

 笑う彼女。久しぶりに僕に向けられた笑顔を見た。

「さつきもさー、あとちょっとがんばれば、ちゃんと高校いけんじゃないの? 元々頭いーんだからさー」

「うーん、なんかね。高校行ってもあんま楽しそーじゃないしね」

「俺だって別に高校行きたいって訳じゃないけどさ。なんか高校行ったら、まだまだ遊べそーじゃない?」

「就職するよりは、そーだろーけど。ぷーになるのも、よさそーだよね」

 馬鹿話するのも久しぶりだ。

 そうこうしている内にコンビニに着く。店中はおでんの匂いが漂っている。それとクリスマスの飾り付けのギャップが、なんだか日本のクリスマスって感じで面白い。

「おでんもかってこーね」

 さつきがうきうきしながら言う。

「はんぺんとー、卵とー、大根とー、ごぼう巻きとー、……」

 おいおい、そんなに食うのか?

 コンビニの外に出ると、今度は寒さが心地よかった。

「ねーねー、店員さん、私たちのこと恋人だと思ってるよね」

「どーだろ?」

「絶対そーだって! クリスマスに仲良くコンビニにおでん買いに行くなんて、ちょっといいよね」

「そーか? クリスマスにおでんってやっぱ変だよ」

「わかってないな。いわゆるクリスマスって形は、もーださださだよ」

 公園への道すがら、サンタさんのかっこしたビラ配りのお兄さんをからかったり、ケーキの試食をほとんどたいらげたり、前みたいにはしゃぎながら、さつきと歩くのはとっても楽しかった。

 あとちょっとで公園に入るところで、

「この前はごめんね。痛かった?」

 彼女がぼそっとうつむきながら呟いた。

「え?」

 よく聞き取れなかったので聞き返す。

「なんでもなーい」

 そう言って、公園の中に走っていってしまった。

 ココロの真ん中あたりが、ぼわ、っと暖かくなった。熱いおでんを食べた時みたいに……。

「いぇーい、おでん買ってきたぞー。みんなでたべよー」

 やけにはしゃぎながら、みんなのとこに走り寄っていったさつき。その明るさがとっても、とっても嬉しかった。

「おー、いづるも来たか。おせーよ。どっかにしけこんでたなー」

 そんな冷やかしも、今なら気持ちよく受け流せた。

「お前らこそ、俺らがいないのをいいことに、変なことしてたんじゃねーの?」

 僕も芝生に座り込んだ。

「ばぁーか、お天道様が上がってる間にそんなことすっかよ」

 僕ら男どもがこんな会話をしてる間、女の子達はなにやら内緒話をしながら、きゃっきゃっ、とはしゃいでいた。

 たく、受験生がそろいもそろってこんなとこで遊んでていいのかねぇ。

 それからしばらく、おでんや、にくまんをつまみつつ話をしていた。

「なー、卒業してもさー。またこーやって集まって遊びたいよなー」

 誰かが言ったとたん、それまでのはしゃいだ空気が、しん、と静まった。

「みんなバラバラになっちゃうのって寂しいよね」

「なんだかんだいって、このメンツでけっこう長い間遊んでたもんなぁ」

「会えるってー。卒業したってお互い近いトコに住んでるんだし、いつでも会えるよ」

「そーだよな」

「そーだって! 何みんな暗くなってんのよ。今日はぱーってはしゃごーよ! 受験とか卒業とかぜーんぶ忘れてさ」

 さつきがまた明るい雰囲気を作り出した。ふと気づいた。最近またさつきは明るくなった。家出して以来徐々にだけど前の明るさを取り戻してきていた。今日のこの集まりがまたいいきっかけになってるんだと思った。

「そーそー! お前らつきあってんだから、バラバラにはなんねーよ」

 さつきの作った雰囲気を壊したくない一心で援護した。

「だったらさー、いづるとさつきもつきあえよー」

 と、また今までのひやかしモードに戻った。

「ばぁっか、俺とさつきは家も近いし、家族どおしも仲いいの。別につき合わなくたって離れらんねーの!」

「ひうひう!」

「ばっ! なにゆってんのよ。あんたなんかとは卒業したら、もー縁切ってやるんだから!」

 さつきが必死になって抵抗した。

 うーん、ほんとに離れたいのか?

 寂しい気持ちになったけど、まぁ、今日のところは仲直りできただけでもよしとするか……。

 そろそろ暗くなってきた。周りのカップルも、すっげーいい雰囲気でいちゃついていた。なんだか中坊の僕らが浮いて見えた。

「んじゃあ、そろそろお開きにしますか」

「まだまだいたいけどさー、受験生だし、とりあえずスポンサー怒らしちゃまずいもんなー」

「かえるがなくから、かーえろ♪」

「おめー、今冬だぞ」

 げらげらげら……。

 やっぱこいつら最高だ。面白い。卒業したって絶対離れてやるもんか。


 帰り道、またさつきとふたりきりになった。

「楽しかったね」

 はねる様に歩きながら彼女が言った。

「あぁ。クリスマスのおでんも、やってみるといいもんだな」

「でしょ! うんうん、いづるもこれで一歩大人になれたね」

「はぁ? おでん食うと大人なのかぁ?」

「いいじゃない。絶対子供のうちじゃ体験できないことをできたのよ? 感謝しなさい」

「へいへい、ありがとーございました」

「心がこもってなーい」

「この間はごめんな」

 突然言ってみた。真剣に謝りたかった。

 さつきが謝ったのに、僕が謝らないのは筋が違う。

「……」

「……」

 彼女が黙りこんでしまったので、僕もそれ以上なにも言えなかった。

 しばらくして、突然、

「うん、さっきのは、心がちゃんとこもってた」

 とふざけた調子でさつきが言った。ここで真剣になれるほど、僕もさつきも大人じゃなかった。

「へへ……またこーやってさつきと話せてよかったよ。ここんとこ生きてる心地しなかったぞー」

「なぁにいってんのよ。あんた犯罪者なんだからね。一生私に負い目を感じて生きてなさい」

 おでこを、こつんと叩かれた。

「うげー、それって最悪ー」

「きゃーおそわれるー。たすけてー! きゃははは……」

「おっきー声で変なこというなよー。みんな見てるじゃんかよー」

 またしばらく黙って歩いたけど、今度は別に辛くもなかった。そうして歩いてることが自然だと感じた。

 そろそろ、お互いの家が近くなった頃。

「ねぇ、卒業しても今のまんまだよね? 私たち」

 囁くそうに彼女が言った。

「あん? 縁切るんだろー?」

「気にしちゃってるんだ? へー」

「べっつにー。でもさ、いつでも会えるって、さつきが言ったじゃん。ほんといつでも会えるって」

「そーかなぁ……そーだといーね」

 なにやら考えてるような彼女。

 さつきの家の前まで来て、別れようとしたとき。

「ね、頭に芝ついたまんまだよ」

「え? まじでー、そのまま街歩いてたのかよ」

 適当に髪を払ってみた。

「とれた?」

「ううん、まだ。とってあげるよ。ちょっと目つぶってて」

 そう言ってさつきが近づいて頭の方に手を伸ばす。素直に目を閉じてみた。

 ん?!

 慌てて目を開ける。

「へへへー」

 と笑ったさつき。

 ……さっきのはキス……だよな……。

「お・か・え・し・だよー」

 笑顔のままの彼女。その瞬間を永遠にとっておきたかった。

 僕は何も言えなかった。

「うーん、私の中でのファーストキスはこっちにしておこっと。おでん味のキス」

 頭の中はこんがらがって、何も考えられなかった。

「じゃねー」

 呆然としたままの僕を残してさつきは家の中に入っていってしまった。




 じんぐべーる、じんぐるべーる♪

 ブラウン管の向こうでは、なにやらクリスマスソングにのせて馬鹿騒ぎしている。

 イブに一人でテレビを見ていると悲しくなる。美麗はまだ帰ってこない。時計の針はすでに11時を回っていた。


 ふー……。


 すでに準備は整っている。あとは主役が登場するのを待つばかり。これはきっとうけるだろうな。テーブルの上を見てほくそ笑む。

 もうすぐ12時になってしまう。シンデレラじゃないけれど、12時までには帰ってきて欲しいな。でも思えばクリスマスは25日が本番なのになぜかイブのほうが大切にされてるよなぁ。なんでだろ?


 かつかつかつ……。


 廊下を歩く音に耳がぴくっと反応する。

 慌てて立ち上がり、扉の前まで駆け寄る。こうするのは、何度目だろう。足音が聞こえるたびにこうやって……馬鹿みたい。どきどきしてる自分がなんだか滑稽に思える。


 ガチャ。


 鍵の開く音。美麗だ!

 扉が開いて、

「ただーい……」

 ぱーーん!

「きゃ!」

 美麗がただいまと言うより早く、クラッカーを鳴らした。思った以上に驚いてくれて、とても満足した。今までの苦労がむくわれた〜。

「ちょ、ちょっといきなりなんなのよー」そういう美麗の顔は嬉しそうだった。「もー後でちゃんと片づけといてよね」

「ささ、パーティールームまでご案内します」

「なーに気取っちゃってんのよ。私の部屋なのよー」

 美麗の顔はほんのり赤かった。けっこう飲んできたらしかった。

 美麗の手をとって、部屋のほうへ連れていく。

 部屋の中を見渡した瞬間、

「ぷ……くっくくくく……」

 笑いだした。こっちも成功のようだ。テーブルの上にはおでんの入った鍋と、日本酒の入ったおちょこ、松の飾りなんかもちょこちょこと……。

「なにこれーー?」

 美麗がたまらなくなって、ふきだす。

「見ての通りのおでん鍋」

「なんでクリスマスにおでんなのぉ?」

「クリスマスだからおでんなの! パーティーで美味しい洋食いっぱい食べて来ただろうと思ってさ。和風が恋しかったんじゃない?」

「あはははははは……」

 笑い続ける美麗。こんなに受けるなんて、大成功じゃん。

「なんだか、さつきちゃんみたーーい」

 ん?

「いまなんて?」

「さつきちゃん、学校の友達にねー、いるの、ふふふ」

 さつき、前に小包届けてくれたあの人?

「きーてきーて、そんでね、前さつきちゃんとクリスマスの事話したのー。どーゆークリスマスが好き? ってね。そしたらねー、さつきちゃん、おでん食べるクリスマスがいいってゆーの! 毎年クリスマスはおでん食べてるんだってー、おっかしーよねー、あははは……」

 この時僕の中で確信に変わった。あの藤原さつきは、あの藤原さつきなんだって……。

「藤原さつき?」

「えー? 知ってるのー? あそっか、前に郵便届いたときかー、記憶力いいのねー」

「いや……幼なじみ……」

 言ってしまって、はっと気づいた。美麗に前、幼なじみに恋したって話してたんだった。

「おさ……なじみ……」

 急に笑うのをやめた美麗。やばいかなと思ったのは取り越し苦労だった。

「へー、不思議よねー。そっかそっか、あのさつきちゃんといづるは幼なじみだったんだー。ふーん、それでいづるの初恋の人かぁ」

 まじまじと僕の顔を見つめる美麗。

「あのね、私とさつきちゃん、性格そっくりーってよく言われるの。そっかぁ……なるほどねー」

「別に似てるとは思わないけどー?」

 ちょっとしどろもどろに否定する。似てる部分があるのは認める。だけど、それで好きになったんじゃないってちゃんと伝えたかった。

「ま、とにかく座ってよ。おでん、ずっと煮込んでたから、おいしーよー」

 話をずらす。

「うん、ほんとおいしそー。それじゃ、とりあえず、かんぱーい」

 おちょこで乾杯した。

「はー、この日本酒おいしーね」

「うん、けっこう奮発したからねー」

 美麗は別に気にしてなかった。まぁ、昔の話だからな。僕が気にしすぎなのか……。

 とりあえず、おでんを食べる。我ながら会心のできだった。

「ねーねー、今度さつきちゃん、つれてこよーか?」

「うぐ……!」

 たこが喉につまりそうになる。

「このおでんもさつきちゃんの影響なのぉ?」

「う、多少はね」

「えー、ずっと前から、さつきちゃんはクリスマスにおでん食べてたんだー。おっかしー」

「さぁ? 少なくとも中3の時はおでん食べてたなぁ」

「もしかして一緒にぃ?」

「うん、あと他にも友達数人と。コンビニで買ってきて公園で食べたの」

「へー、いいなぁ。私もいづるとさつきちゃんと一緒におでん食べたかったぁ」湯気の向こうでとても残念そうに言う。「やっぱ今度つれてくるよー。そんでみんなでおでん食べよーよ。昔のいづるのこと、いっぱい聞きたいしー」

「そだね。俺もなんか久しぶりに会ってみたいかも……」

「とかいってー、ほんとはすっごく会いたいくせにー。最近会ってなかったの?」

「うん、中学卒業してから会ってないなぁ」

「えー? 幼なじみってことは家近かったんじゃないのぉ?」

「うん、でもあいつ、卒業と同時に引っ越しちゃったから……」

「そーなんだ。じゃあ5年ぶりぐらい?」


 ……5年後に会おうよ……。


 言葉がよみがえる。さつきと最後に会ったのは卒業式。そのときにさつきが言った言葉だ。

「そっか。5年か……」

「あー、いづるってばさつきちゃんの事思い出してるぅ。ふーんだ。今は私とゆー彼女がいるのにさー」

「え? なに? やいてんの?」

「だってぇ……全然私のこと考えてないじゃなーい」

「美麗がつれてくるなんてゆーからさー」

「いーもん、じゃあ連れてこない」

「なんだかなー」

 最初全然妬いてくれないから、とても不安になった。でも、やっぱり気にしてたのかな?  なんとなく安心した。

 私とゆー彼女がいるのにさー……。

 すごく嬉しかった。知らず知らずのうちに顔がほころぶ。

「ねね、パーティーのほーはどうだった? 楽しかった?」

「うーん、なんか気を使ってばっかで疲れちゃった。お料理はおいしかったけどねー」

「ほー、いいなー」

「来ればよかったのにー」

「いやだ」

「まったく。人付き合いが下手なんだからー」

「どーせね」

「でもあの雰囲気はなじめなかったなぁ。私以外はみんな仕事仲間でもう仲いいでしょー? なんかしらふじゃやってらんなかったから、がんがん飲んじゃったわよぉ」

「でも、まだ醜態さらさなくて良かったじゃん。ほら前みたいにさー」

「もー、それは言わないで! まったくいづるってば変なことはずーっと覚えてるんだからぁ」

「あれは忘れられないって、普通。でも俺以外にあんま酔っぱらった姿見せないでね」

「えー? それってよっぽど酔うと私が変になるってことぉ? しっつれーよねー」

「まぁ、あれだけ酒が強かったらめったに酔いつぶれりゃしないだろーけど……大飲み、麗さん」

「うー、いづるまでそんなことゆー。嫌いになるぞ」

 それはやだなー。

 しばらくそんな話をして、美麗は寝てしまった。よっぽど疲れたんだろうな。


 ぐーがーぐーがー……。


 美麗にしては珍しくいびきをかいていた。疲れた時はいびきが出やすいってほんとなんだなぁ。でも、なかなか美麗のいびきなんてあんまり聞くことないからな。ちょっと得した気分。一緒に生活するってことは、相手の嫌なところも見えてくる。それも含めてまだ好きでいられるってすごいことだと思う。

 一緒に生活を初めて4ヶ月、喧嘩もしたし、出ていく! って言ったことも一度ではない。色々あったけど、これからも一緒にいたいって、美麗の寝顔を見て思った。

 枕元にプレゼントを置く。明日の朝起きたら驚くかな?

 美麗が影響を受けてるデザイナーが創った腕時計。前から欲しがってんだよなぁ。


 当初の目的、プラトニック解消は、もうどうでもよくなっていた。


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