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新しい日々  作者: あきら
4/8

4

「かんぱーーい!!」

 久しぶりに自分の部屋に帰ってきたかと思えば、目的は飲み会。

 時間の流れは早いもので、もうすぐ文化祭がせまっている。

 練習も終わって、あとは当日を迎えるだけ。そんなこんなで、メンバーで飲み会をやることになった。

 結局、僕が作った曲は採用されなかった。

「えー! なんでー? こんなにいい曲なのにぃ」

 とは、僕の報告を聞いた美麗の言葉だ。僕に多大な期待をよせていた彼女には申し訳ないやら格好悪いやら……。

 そういえば、曲ができたら真っ先に聞かせて欲しいなんて言ってたよな。

 最近、美麗は忙しいらしく、部屋に帰ってこないこともしばしば。僕は僕で、バンドに忙しくお互いすれ違いの毎日だ。

 ……つらい……。美麗もつらいのかな? とふと願いにも似た考えがよぎる。

「お前の部屋って綺麗だよなー」

 メンバーの内浦が呟く。

 あたりまえだ。ここで生活してないからな。散らかるはずもない。

 僕が同棲しているというのは細野しか知らない。細野も勝手にしゃべってないみたいで、ちょっと感謝。

「じゃぁ、今日はおもいっきり汚してやろう」

 などとほざくのは、堀川。バンドのヴォーカルだが、口が達者なのが難点。仲間うちではナンパ師の称号を与えられている。

 そういえば、彼女がいないのは、内浦だけだ。バンドやってるともてるというのは、ちょっと前までは、やはり幻想でしかない、と思っていたが、この現状を見るとそうではないのかな? とも思えてくる。

「彼女が掃除でもしてくれんのかぁ?」

 内浦がCDを物色しながら言う。お気に入りのCDは全て美麗のうちに持っていってしまったので、ろくなのが残ってない。内浦が選んだのが……イーグルスだったあたり、こいつの好みも渋いよなと思う。堀川がブーイングをするが、僕も細野も何も言わない。民主主義というのは時に残酷である。

 ホテル・カルホルニアを聞きながら男だけで飲む酒というのは、なかなかに大人びていて風情を感じてしまう。

「俺達が今のイーグルスぐらいの年になったら、どーなってんのかな?」

 細野がビール片手に言う。

「サラリーマンしながら、たまーに仲間で集まって背広でライブってのもいいよな」

 僕が答えると、堀川が、

「お前、サラリーマンなんて真面目なもんになれんのかよ?」

 と、つっこむ。

「そーゆーお前が一番サラリーマンって単語から遠ざかってる気がするのはオレだけ?」

 細野が僕の支援に回る。

「なーにいってんだか! この世渡り上手に向かって何を言う」

 堀川のこういう自信に満ちた態度を羨ましく感じる。

「でも、なんか大学卒業しても、このメンツでつるんでたいよな」

 内浦がぽつりと呟く。こいつは今時珍しいほど義理人情が堅い。そういう奴に限って彼女がいないというのは、世の中間違ってるよなぁ……。

 そして、男だけの夜は更けていく……。




 ぱしーん。

 という音が狭い部屋に響いた。

 呆然と立ちつくしていた僕と、それを睨むさつき。

 そのまま無言でコートと鞄をひったくるように拾い、僕の横を通り過ぎて部屋を出ていこうとした。

「おい。どこ行くんだよ?」

 かろうじて声が出た。この11月の寒空に彼女一人飛び出させるわけにはいかなかった。彼女には今行く場所などないのだから……。

 彼女は無言のまま立ち止まった。でもこっちを向いてはくれなかった。

「ごめん、悪かったよ」

「なんで……」

 最初の一語以外、聞き取れなかった。

「なんでって?」

 聞き返した。

「なんでもないわよ!」

 そのまま出ていこうとした。

「だからどこ行くんだよ?」

「美樹のとこにでも行く。さよーなら」

「そっか……」

 ――行く場所、ちゃんとあるじゃないか――。

 それまでの自分の勝手な思いこみを悔やんだ。

 さつきは部屋を出ていった。僕はそれを見届けた後、深いため息と共にベットに倒れ込んだ。さつきの体温の欠片がつらかった。




「ただーいま」

「朝帰りなんて珍しいじゃない?」

 皮肉めいた声で迎え入れてくれた美麗は、すっごく眠そうだった。

「おはよー。今起きたの?」

「うん。久しぶりにひろーいベットで寝れて、とても気持ち良かったわ」

 二人でいられるはずの時間を一人で過ごさなくてはいけなくなった彼女は、ちょっとすねている。彼女がそれで不機嫌な分だけ申し訳ないけど僕は嬉しくなる。

「それじゃおはよーのキス」

 冗談めかしてキスをする。こればっかりは回数をいくら重ねても照れる。

 ちょっと機嫌が直ったみたいなので、これまた僕は嬉しくなる。単純なのはお互い様のようだ。

「なんか飲む?」

 彼女がパンを食べながら聞いてくる。

「みずー」

「けっこう飲んできたの?」

「うーん。そうでもないけど」

 昨日、細野達と飲んで来たのは知ってるはずだけど、やっぱ後ろめたい気持ちがある。せっかく久しぶりに二人でいられると思ったのに……。そう呟いた彼女がとてもかわいく見えた。

「文化祭っていつだっけ?」

「明後日」

「ほんとー? 明後日は私も時間あるから大学につれてってね」

「えー、なんかやだなぁ」

「なんでよー。私まだ、いづるがバンドやってるとこ数回しか見たことないのにぃ」

「そんなかっこいいもんでもないよ。通りすがりに何人か足止めてくれるだけで、そんな大勢見てくれないし」

「わたしが見たいの。それじゃダメ?」

「美麗を他の男に見せたくない」

「またぁ、そんな冗談ではぐらかす。もーいいわよ、頼まない。勝手に行ってやるんだから!」

 別に冗談のつもりで言ったわけじゃないのに……。

「んで、今日もおでかけですかぁ?」

 彼女が出かける支度をしていたので、何気なく聞いてみる。

「うん、今日は面接あるのよぉ。何着てこうかしら?」

 デザイナーの試験だからなぁ。着ていく服まで採点対象にきっちり入ってるんだろうな。

「そんじゃ俺寝るから、いってらっしゃーい」

「もう、帰ってきたと思えば寝るためだけなの? それなら自分の部屋でそのまま寝てきたらいいじゃない」

 あらら、また不機嫌に逆戻り。

「だって美麗の顔見たかったんだもん」

「だったらちゃんと見送りしてよー」

「ん、わかったぁ。じゃあ面接がんばってね」

 そういいつつ、布団に潜り込む。冷たい。

「あれ? 美麗徹夜してたの? もしかして……」

「え? あ、うん。ばれちゃった?」

「俺のこと待ってたの?」

「そんなわけないじゃない! ただなんとなく眠れなかっただけ」

 なんとなくって、余計気になるじゃないか。

「ふーん」

 と、気にしてないふりをしてみた。

「それじゃ行ってくるね」

「あ、いってらっしゃい」




 そして迎えた文化祭当日。あれからまた美麗とはすれ違いの日々を送った。

「ういーっす」

 細野が後ろから声をかけてくる。

「よう、おはよう。あれから少しは寝たか?」

 今朝の3時までメンバーで集まって練習だか、飲み会だかをしていた。

「うーん、寝たうちに、はいらねーよ」

 けだるく答える細野。

「おーっす!」

 堀川がめちゃくちゃ元気に登場する。

「お前元気だよなー」

 あきれるやら、感心するやら。ほんとにこいつはエネルギーの塊だよな。

「お? みんなそろってんね」

 内浦が最期に現れる。

「そんじゃ、とりあえず準備はじめっか」

 ドラムセットを車から運ぶ。

 みんな眠そうだったが、なによりこれから始まる一日にどきどきしている。

 文化祭でこんなにどきどきしたのはいつ以来だろう?

 毎年毎年、僕は醒めた目でこうやってわいわい準備してる奴らを見ていたのに……。何がそんなに楽しいんだろう? って……。

 それが、今じゃへたくそなりにもこんなに一生懸命になって練習して準備して……。結局、あのころだって、そんな風に一生懸命になれてる奴らが羨ましかったんだろうな。

 なにかしたいけど、それがなんなのか解らない焦りみたいなものが、みんな楽しそうなのに自分が取り残されたような寂しさが、ねじ曲がってあんな風に醒めることで自分を慰めて……。

 やっと自分で楽しめるものを見つけた。大げさだけど、そんな感じだ。

「なにニヤニヤしてんだよ?」

 突然、細野に話しかけられる。

「え? いや、なんでも……」

「大野さんが来るんだろー? この色男!」

 堀川がちゃかす。

 そういえば今朝も部屋には帰って来なかった美麗。学校に泊まるとか言ってたけど。やっぱり気にはなる。

「俺、まだいづるの彼女見てないんだよなぁ」

 内浦がぼやく。

「あれ? そうだっけ?」

 うーん。別に見せ物じゃないんだから。見てないからってそんな寂しそうに言うなよ……うっちー。

「めっちゃかわいーぜ」

 堀川が説明しだす。髪の毛がどーのこーの、脚がどーのこーの……。彼女を誉められるってのは嬉しいもんだが、さすがに品定めみたいに言われるのは嫌な気分だ。

「おーい、無駄話してないで、ちょっとは手伝え!」

 細野が話の腰を折る。さんきゅ。


 ふー、やっと休憩だ。僕らのライブは思ったより好評で、暇そうなやつらが輪を作って聴いてくれた。練習したかいがあったよな。

 それでも、どこか満たされないのは、美麗がまだ来てないからだろう。どうしたのかな?  あれだけ来たがってたのに……。

「なんか食いにいこーぜ」

 堀川が屋台のほうを見て言う。おいしそうなソースの匂いがただよっていた。反対するやつは、いない。

 屋台に近づくと、野球部のやつらが焼きそばを作っていた。

「おー、いずるでも、こんな日はちゃんと学校来るんだな?」

 同じ学科の友達が額に汗して作った焼きそばを、

「うっす。友達だろーが、ただでよこせ!」

 ただで食おうとする、あつかましいやつ。

 結局、半額に値切ってしまった。ほんとに値切れるとは……。

 もともと儲けが目的でやってるわけじゃないからだろうけど、友達ってやつをこれほどありがたいと思ったのは久々だ。あつかましい上にげんきんなやつ。

 そして、たこ焼き、クレープ、焼きトウモロコシと、恒例のものを食べ歩く。

 ん? 射的なんてやってる団体もあるんだな。ミリタリー同好会? うーん、さすがだ。

 たばこをゲットしたまでは良かったが、使ってるモデルガンのウンチクを打ってる間ずっと聞かされた。美麗にも匹敵する熱心さだな、とふと思い出して寂しくなる。

 今日、用事が入っちゃったのかな? なんかつまんないな。一緒にこうやって出し物めぐりしたかったのに……。

 とりあえず、一回りすると休憩の時間は終わっていた。やばい、早く戻らないと……。

 僕以外のメンバーはすでに準備完了している。

「なにやってんだよ! おせーよ」

 細野に怒られる。

「ごめん、ごめん」

「さっき、大野さん来てたぞ」

「え? ほんと? すれ違いかよ」

「いづる探しにどっかいっちまったけどな」

 まぁ、そのうち戻ってくるだろう。とにかく今は準備しないと。


 結局、美麗は現れなかった。

「ふー終わった、終わった」

 ドラムセットを解体しながら、細野がつぶやく。

「おわっちまうと早いもんだよな」

「明日もあるじゃん」

 などと話してるメンバーを後目に美麗のことばかり考えていた。

 どこいっちまったんだ? 帰ったのか?

「おーい、いづる何してる? 打ち上げいくぞー」

「あ、先行ってて、後で携帯に連絡してくれ。俺ちょっとみれー探してくる」

「ひゅーひゅー」

「しょーがねーな。打ち上げにつれてこいよな」

 ったく、世話のかかる女だな、と一人悦に浸る。

 携帯に電話してみる。電源を切っているか、電波が届かないだとぉ!

 しょーがないから、とりあえず一回りしてくっか。

 すでに屋台のほうも、後始末を始めている。おのおの楽しそうに話してるのが、風景にとけている。なんとなくだけど、夕焼けに染まったこの景色を忘れたくないと思う。

 一応、これから恒例とも言えるキャンプファイアーだのなんだのが残ってたけど、ほとんどの学生はそれぞれの打ち上げにいっちゃうんだろうな。準備をしている実行委員の姿がむなしそうに映る。

 美麗の姿は見あたらない。学内かな?

 学校の中はすでに人影少なく、展示物のにぎやかさが空々しさをひきたたせていた。どこにも見つからない。こうやって探すって行為そのものが恋愛だよなぁ、と哲学的に感じたりもする。

「おーう、いづる」

 たまにすれ違う生徒と挨拶しつつ、徐々に上の階へと上っていく。最上階の教室にもいない。別の校舎かな。

 ふと、屋上へ続く階段に目が止まる。立入禁止になってるが、入れないことはない。

 暗くなりはじめた文化祭の景色を一人上から眺めおろすのも、いいかもな。


 ぎぃぃぃぃ……。


 さび付いた扉を開けるとほこり臭い匂いが、すん、と鼻を刺激する。どれだけ前に捨てられたのか解らない吸い殻だらけの床の先に申し訳程度にそなえつけられたネットと夕焼け空。ふうん、うちの学校のなかにもこんな場所あったんだな。

 美麗はそこにいた。

「いづる?」

「こんなとこでなにしてんだよ?」

「ここからの眺めってけっこう気持ちいいよ」

 そういって遠くのビルを見つめる。

「ちょっとデジャブ感じた」

 前にも同じ様な景色、セリフを聞いた気がする。思い出がよみがえる。

「ん?」

「中学の頃もよく屋上に行って友達とだべってたなぁって思って」

「いづるの中学時代ってどんなだった?」

「んー別に。普通に学校行って、普通に友達と遊んで、普通に卒業、かな」

「恋愛とかしなかったのぉ?」

 少しだけどきっとした。

「したよ」

「ねぇねぇ、その時のこと話してよ」

「うーん、そんな人に話すような大層な恋愛じゃなかったからね」

「でも、ききたーい。そんで、そのころのいづるに好きになってもらった子に嫉妬したい」

「変な奴」

 ふふ……と笑って、美麗はこっちが話し出すのを待っている。

「幼なじみの子に恋して、うやむやのうちに卒業して、それっきり」

「なんでー? 告白しなかったの?」

「まぁ色々ね」

「なによー。もったいぶちゃって」

「そういう、美麗の初恋はどーだったの?」

「べっつにー、人に話すような大層な恋愛じゃなかったからね……あははは」

 美麗が僕の言い方を真似して笑う。

 それからしばらく黙って景色を眺めていた。グラウンドでは準備が進み、それでもけっこうな人が集まってきていた。


 ぴぴっぴぴっぴぴっぴぴっぴぴ……。


 携帯がなる。それで慌てて思い出した。

「あ、そだ。これから打ち上げあるんだけど、来る?」

 と美麗に訪ねながら電話に出る。

「もしもし」

「おーいづる。打ち上げはいつもの焼き屋でやってっから、早くこいよー」

「りょーかい」

「大野さん来るって?」

「まだ聞いてない」

「できるだけつれてこいよなー。内浦が会いたがってるからさー」

 後ろで内浦が、うるせー余計なこといってんじゃねー、と言ってる声が聞こえる。

「ほいほい、できるだけ、な」

「じゃまってるぜー」

 電話を切る。

「どーする?」

 美麗に答えを促す。

「んー、私部外者だしー。やめとく」

「そっか」

 寂しがってるかな? と思って美麗の顔をうかがう。

「いづるは最近私より大事なものができたんだね」

「なんだよ、突然。打ち上げ行くなってゆーんなら行かないけど? あいつらとはいつでも会えるし」

「私とは、いつでも会えないってことよね」

「俺よりみれーのほーが忙しいんじゃねーの?」

「わかってないよ、いづるは……」

 小さい声で呟く。

「美麗だって、俺よりデザインのほうが好きなくせに」

「う、悪かったわね」

 明るい口調で美麗が言う。

「なんだよー。いきなり」

「なんでもない。打ち上げ早くいかないとー」

「う、うん。じゃあまた後でな」

 そういって僕は屋上を後にした。


 俺よりデザインのほうが好きなくせに……。

 美麗は否定してくれなかった。そのことが、時間が経つにつれどんどんわだかまりになっていく。

 そんなこと比べるものじゃないって思ってたのは、現実を認めたくない言い訳だったのだろうか?

 どうしようもない苛立ちが心臓の周りにこびり付いていく。


 昔はこんな時、屋上に行くと、すーっと重荷が落ちていったのに。

 中学の屋上から見た景色は今でもくっきり思い出せる。

 学校のあたりはけっこうさかえていたが、ちょっと遠くを眺めると、一面に広がった畑、田んぼ、林、神社の鳥居。田舎だったけど、それはそれで、とても暖かくて、のどかな風景。見晴らしがとてもよくて、遠くで歩いている人影までも見えて、畑で働いているのを見るのが好きだった。

 あのころの悩みなんて今から思えばくだらないことが多いけど、その時その時は本気で悩んでた。飛び降りようなんて考えたことだってあった。それでも広い景色、空、風を感じれば、もうちょっとがんばるかって気持ちになれた。思いこみなのかもしれないけど、あの場所はそういったおまじないがかかる特別な場所だった。

 今はそんな場所ってあるんだろうか? 悩んでるときに、それは大したことじゃないって思いこめる場所はどこにあるんだろう?


 しばらく一人でぼーっと歩いていた。


 ぴぴっぴぴっぴぴっぴぴ……。


 携帯がなる。細野からだった。きっと早く来いっていう催促だろうな。

「もしもし」

「おっせーっよ。何してんだよ。もーできあがっちゃってるぜー」

「もうちょっとでたどり着く」

「大野さんは?」

「いや、来ないって」

「そっか、まぁとにかく、早くこいや」

 細野の声を聞くと少しだけ落ち着く。

 そして、気がつくと足早で歩いている。


 焼き屋はいつも打ち上げとかで行ってる店だ。お好み焼き、もんじゃ焼き、焼き鳥、焼きそば。そういったものがうまい店だ。和風の外観はこの店の歴史を感じさせるぐらい古くなっていたが、清潔感はあった。


 がらがら……。


 飲み屋の中は喧噪にまみれていた。

 細野達は奥の方らしく、見あたらない。

 人が食べてる姿を見てけっこう腹が減ってることに気づく。

 美味しそうな匂いに、ついつい腹が鳴る。

 一番奥のたたみの部屋にみんないた。

「おせーよ」

 ぶっきらぼうだけど、本当は誰よりも他の人に気を使ってる、思いこみと思いつきの激しい細野。

「もーがんがん飲んでるぜー」

 軽いっぽいけど、根は誰よりもしっかりしてる、ナンパ師でエネルギーの塊で自尊心の強い堀川。

「そんでも、会計はちゃんと割りかんだかんな」

 普段、無口なほうだけど、ぽつりと呟く言葉はとても印象に残る、義理堅くて寂しがりやの内浦。

 こいつら見てると、僕もこいつらに見合うだけの自分にならないとっていう気持ちになる。それはどこか屋上の景色にも似た力をくれる存在。

 今でもちゃんとあった。おまじないの場所はここにあった。

 まぁ、とりあえずは……。

「かんぱーーい!!」


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