表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 ~司馬懿仲達の憂鬱~  作者: 堕落論
第一章  『南陽改革大作戦!!』
25/30

南陽改革 大作戦!! ――改革狂想曲 最終章 きっと最後は大団円!? 後編―― 後半戦

はい、後半戦の始まりで~す。


また後書きで御逢いしましょうね。  堕落論でした。


「あのぉ~、御取り込み中に誠に申し訳ありませんが、ちょっと御時間宜しいでしょうかあ……先程の司空様の書状ですが実はもう一通、最重要の書状があります。ですからそちらの方を聞いて頂いた後でしたら、御二人とも再教育でも殺し合いでも存分に御遣り下されば結構だと思いますので、今は暫し止めて頂きますか。最も内容を聞かれたら争う事も無いとは思いますが……」


この緊張度MAX状態の腰を折る様に脱力感満載の声音で田豊さんがトテトテと皆の前に出て来て話し出します。その絶妙なタイミングに、当事者の二人は完全に間合いを外され毒気も抜けた表情で、渋々と田豊さんの方に向き直らざるを得ませんでした。


「何なのよ元皓。折角この性悪女をけちょんけちょんにしてやれる所だったのに……」


「フン、どの口が言っているのだか……」


「まあまあ、御二人共に落ち着いてくれて良かったですよ……で、元皓さん。周陽様からの重要な書状とは何なのですか? 先程の打ち合わせの時には、その様な書状があるとは一言も聞いていませんが? それに内容を聞けば、この二人が争う事も無いって……?」


私が田豊さんに向かって質問すると、田豊さんはニコリと笑ってこう答えてくれました。


「はい、司空様より、この書状は先程の裁決状を披露した後に皆を集めた状態で披露せよと申しつけられておりましたので……あと、内容については追々に……」


「はあ、で、その書状の内容とは……?」


「はい只今より読み上げさせて頂きますが……皆さん、先程裁決状を読み上げる際にも申し上げました事を今一度確認させて頂きますが、只今より読み上げさせて頂く書状にも、公的文書に匹敵する強制力が掛かると御考えくださいませ。では読み上げさせて頂きます」


ん~……何か引っ掛かりますねえ……何故書状が二通もあるのでしょう? それに先程の裁決状こそが私が欲した書状であって、私にとってはあの書状の内容で充分なのですが、それ以外に何の強制力が必要なのでしょう? なんとなくまた脳内非常ベルがけたたましく鳴り出しているのですが……


「では、宜しいですか……コホン、追記として……元南陽城城主、袁公路様は火急的速やかに汝南袁家に御戻りになられた後、傅役の張勲、親衛隊長の紀霊を供とし、正式に司徒袁次陽家家令司馬仲達殿の許嫁として、今後片時も側を離れずに随行し夫となる司馬仲達に教えを請う様に、尚、これは司馬家の家長司馬建公殿の了承も得ている事であり異議は認めない……との事です」


「はっ、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ???」


な、何ですかその本人そっちのけで親同士で勝手に進む縁談って……ましてや美羽御嬢様が私の許嫁ですって? いやいやそれよりもなによりも何故にあの厳格な母上迄もがこの縁談に加担しているのでしょうかねえ……? 流石に袁家筆頭の二代オババ、此方側に有無を言わせぬ仕事の手際の良さは恐るべしって所ですね。


「内容の方は以上でございます……皆様、御理解は頂けていると思いますが、この御話は袁家のみならず司馬家の御母堂様にも御了承を得ている正式な縁組であります。よって、御頭様御本人でさえも拒否権を行使する事は難しいと御考え下さい」


田豊さんは、有無を言わさぬ迫力を纏った満面の笑みを浮かべて、私が逃げを打つには絶望的な言葉を投げ掛けて来ます。


「それと孫伯符様に申し上げます。御頭様は許嫁の間柄とは言え、今後は美羽御嬢様の婿殿であると同時に司空様の義理の御子息扱いとなります。で、ありますから今後御頭様は、『国家戦略情報室』の長というだけでなく場合によっては司空様配下の兵達、司徒様及び河北四州を統治される本初御嬢様の兵を含む汝南袁家全ての兵をも配下に収める事も理論上は可能な御立場となり、軍事力だけで見れば朝廷の将軍が、蛮族平定に出陣する時よりも強力な兵力を手にした事になります」


ふむ、確かに四世三公排出の汝南袁家のお抱え兵団と、我が司馬家の縁故になる、故郷の河内郡の豪族達迄含めればかなりな兵力になるとは思いますが、う~ん……って、違う違うっ!! 今は論点、そこじゃ無えし…………余りの事に私は、つい自分自身にツッコんでしまいます。


「ですから先程孫伯符様の口から出た不安は杞憂に終わる事になるどころか、今後は孫家の武力をも凌駕し他の有象無象の諸侯達を組み込んだ司馬軍が御頭様の手によって構築される事になるかもしれませんねえ……いやあ、そうなれば新参者の私でも御頭様の下で、今後充分に腕が揮えると言うものです。御頭様っ!! 我等の宿願の為に頑張って下さいねえ(そしていつかは私も御頭様に認めてもらって御頭様の側近くにゴニョゴニョ・・・・・・)」


おや? 私の事について話をしていらっしゃる筈なのに、田豊さんは何故顔を赤くしていらっしゃるのでしょうか……? いやいや今はそんな事よりも洛陽の性悪オババ二名と司馬家筆頭の母上がタッグを組んだ、この状態をどうにかしなければ、なし崩し的に美羽御嬢様一行を押し付けられて袁家に組み込まれてしまいます……


「頑張って下さいねえ……じゃあないでしょう。それに我々の宿願……って一体何ですか? そもそも元皓さん、貴女、あのオババ達に何か上手く言い包められていませんか」


全くあの洛陽のオババ達は、洛陽に戻ったらどうしてくれようかしら……その様な事を考えていた私の肩に両側から不意に強い力が掛かってきます。掴まれた事によるあまりの激痛に思わず掴まれた肩の方を見れば


「愛将……今の話なんだけれど、よ~く分かる様に私に説明してくれるかしら……」


右肩には、何故か『南海覇王』の切先を微妙に震わせている雪蓮さん。


「フフフ……あれだけ自分の身の回りの罠には気を付けろと言った筈なのに、君と来たら、やっぱり春日や優希と一緒に君の事をもっと調教しておくべきだったね……」


左肩にはまたもやヤンデレ状態デレ抜きの華炎さんが完璧に逝っちゃってる様な目でなにやら危険な言葉を発しています。あれ? なんで私何時の間にやら死亡フラグが立ってるんですか? 私先程、田豊さん絡みで死亡イベント起きたばっかりですよね。まあしかし、この様なカオスな状態の中での唯一の救いは春日さんや優希さんが全く、この話に興味を示しておらずにいてくれていると言う所ですね。


「七乃、七乃……母上の書状はどういう意味なのかや?」


しかし、そう思っていた矢先に眼前の私の死亡フラグなど全く気付きもしない美羽御嬢様が、無邪気に張勲さんに先程の書状の内容を質問します。


「う~ん……まあぶっちゃけ美羽御嬢様が母上様である司空様の御命令で、そこの司馬仲さんの御嫁さんになる事が決まったんですが……」


「御嫁さん……?」


「そうですよ」


「誰がじゃ……?」


「いやですねえ、御嬢様ですよ」


「妾が……? 誰の嫁じゃと……?」


「そこのうだつの上がらない風采の司馬仲さんのですよ」


「な、な、何故に名門袁一族たるこの妾が、高々叔母上の家令如きの嫁にならねばいかぬのじゃ!!」


「いやいや、そう言う風に言われましても司空様の御言いつけの様ですし……」


「全く何が悲しゅうて妾を虐げる様な者の所に嫁入りなどせねばならぬのじゃ、母上が何と言おうと嫌なものは嫌じゃ、七乃、何とかならぬものかのう?」


(微妙に酷い事を言われている様な気も致しますが、御嬢様……御言葉ですが私は一度も貴女を虐げた事はございませんよ。それと私も色々な意味で、この縁組みには大反対でございますよ)


私は心の中で美羽御嬢様主従に毒づきます。


「でも御嬢様……考えようによっては司馬仲さんと、司空様の言われる様な許嫁と言う関係になれば、こんな風采の上がらない司馬仲さんでも、此処に居る方達の長に当たる方ですから、少なくともこの二月の間、御嬢様に酷い扱いをしていた此処に居る方々の上に立てる事になれますし、何よりも司馬仲さんの家はそこそこ御金持ですから蜂蜜水が呑み放題ですよ」


「いや、張勲さん。貴女、言うに事欠いて何て事口走りやがりますか!!」


「何じゃとぉ……蜂蜜水飲み放題じゃと? それは本当の事かや……?」


何気ない張勲さんの一言に美羽御嬢様が瞳を輝かせて喰い付かれます。


「「「「「「「はあぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」」


と、同時に今迄雪蓮さんと華炎さんの一触即発状態を生暖かい目で観戦していた筈の方々全てが、瞳に怒気を纏って一斉に私の方に向き直ります。ああ、間違い無く蜂蜜水飲み放題の件で怒っているんじゃないですね、貴女方のその御顔は……


「ちょっと、愛将、公路御嬢ちゃんと婚約だなんて……アンタ一体何を考えているのよっ!!」


「いやいや、これって私の考えじゃないですし……春日さんだって、私がこんな愚策を用いる訳ないって分かっているでしょう」


「主、これは明確な裏切り行為……覚悟は?」


「いやいやいや、優希さん……貴女も一体弓を何処から取り出しました? だから……怖いっ、怖いから引き絞った状態でこっちに向けないで……」


駄目です、これはマズイです……我が同胞である筈の『国家戦略情報室』メンバーは何故か皆、怒気から殺気に纏うオーラを変えて手に手に獲物を持ち出しています。非常に危険な状態に私は孫家の他の方々に助けを求めようと視線を巡らしますが……


「「「……………………………」」」


冥琳さん、祭さん、穏さんの三人とも微妙な笑顔で私の方を向いてお手上げポーズをして首を振ります。あぁ……段々追い詰められていっている様な気がしますねえ。脳内非常ベルは一刻も早くこの場から逃げろと、先程から痛いほど警告音が鳴り響いています。


「御頭様。そして美羽御嬢様。洛陽に戻られましたら、何はともあれ司空様の下へ出頭して下さいね、正式な手続きや、袁、司馬両家の御話合いなど色々と片付けなければならない仕事が山積みになっているそうです。いや~しかし目出度いですねぇ」


元皓さん、私にとってはちっとも目出度くないし、寧ろ先程から身の危険が迫って来ている様にしか思えないんですが……


「うむ、相手が仲達と言うのはなんじゃが……妾に蜂蜜水をタンと用意してもらえるのであれば是非も無いのじゃ。今後は呼び名も改めようぞ……そうじゃのう……やはり、妾が嫁入りするのじゃから仲達よ今後は『主様』と呼ぶ事にしようぞ……それで良いかや主様よ」


美羽御嬢様がその様に言われた時に、私は外堀が埋められた事を確信しました。と、同時に誰からとは言いませんがハッキリと『ブチッ!!』といった音が聞こえた様な気がした私は2、3歩後退りをした後に、この場から一目散に逃げ出しました。


「「「「「あっ、こらっ愛将ぅっっっ!!」」」」」


直後、春日さんを筆頭として優希さん、華炎さん、それに雪蓮さん達が怒号と共に凄まじい形相で追いかけて来ます。


「な、な、なんで最後の最後まで私は、こんな酷い目に遭わなくちゃならないんですかあっ!!」


毎回の事で恐縮ですが、私いつも精一杯頑張ってますよねえ……でもでも、なんでこうやって南陽城の城内を追いかけられているのでしょうか……? 息が上がるのを歯を食い縛って耐えながら南陽城の廊下を脱兎の如く疾走しながら私は何時もの言葉を絶叫します。


「ああっ、もうぅぅぅぅぅっ、理不尽だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


毎度毎度の如く今回も、私の魂の慟哭は南陽の眩しすぎる青空に吸い込まれて消えて行きましたとさ……






―――― 荊州滞在七十日目 南陽城 城門前 ――――




ああ…………この出張期間中は色々ありました。何気に、この二月程で体重がかなり減りました……胃と十二指腸の辺りがシクシクと痛んだりします……間違い無く胃潰瘍の兆候です。あと、此処の所、武将クラスの方々に追い駆けまわされた影響で、多少持久力や筋力が付いた様な気がしますが、悲しいかな全く嬉しく無いです……


まあ、そんなこんなの私の愚痴は置いておいて、我々『国家戦略情報室』は、一昨日を持って全ての雑務と細かな引き継ぎも終了させ、昨日は日中は洛陽への帰り支度をしたり御世話になった方々への挨拶を済ましたりして、夕方からは新たな南陽城主である孫家主催の送別会に名を借りた大宴会が催されて、我々の南陽に於ける全ての日程が終了致しました。現在我々は洛陽に帰る支度を全て終えて南陽城の城門前で孫家の皆さんや新規登用となった官吏の方々と共に最後の挨拶をしている所です。


私と春日さん、優希さん、華炎さんが、雪蓮さん、冥琳さんと城門前で別れのあいさつの為待機して、それ以外の方々は美羽御嬢様主従を載せた馬車隊に田豊、高覧、紀霊さん達を護衛に着けて城の外で待ってもらっています。孫家側で穏さんがいないのは、どうしても手が放せない仕事が出来た為であり、祭さんがいないのは、以前の御話にあった様に、蓮華さんを南陽に迎える為に今朝早く建業に派遣されたからです。


実際、南陽での仕事が終了したと言っても、今後の孫家との同盟関係の維持、田豊さんと高覧さんの本初さんの所からの移動問題、華炎さんが陳留に戻ってしまう問題等、我々を取り巻く問題は出張する前よりも深刻……と、言うよりは「頭痛い」って感じの問題となり、又、洛陽に帰った後も、今度は『黄巾の乱』鎮圧の為に董卓さんと共闘して行かなければならない問題や、十常侍達への牽制等、やらなければならない事は満載です。


しかし、それよりもなによりも、一刻も早く何とかしておかなければならない問題は、洛陽のオババ二人で画策された私の縁組み問題です、あの書状が読み上げられて以降、皆の私に対する目が怖くて怖くて……まあ、洛陽に戻ったら早急に手を打たなければいけないですね。ただ今回は私の一番苦手な母上が絡んでいる事が唯一のネックですかね。


とは言え、無事に南陽での仕事は終えた訳ですので、一仕事を終えた充実感はありますね。私はシクシクと痛む胃の辺りを押さえながらも自然と笑顔になります。





「何を思い出し笑いをしているのよ。気持ちの悪い……」


「別れ際の挨拶が、いきなり気持ち悪いですか……最後まで貴女は貴女らしいですね、雪蓮さん」


「何、私に何を期待しているのかしら? 抱き着いて行かないでぇって言って欲しかった?」


「いやいや、そんなことされたら私の命が非常に危険に晒される恐れが多々あるので、謹んでご遠慮させて頂きますよ」


今此処でこう言う話を冗談めいた様にしても華炎さんの視線が痛いです……スンマセン、マジ勘弁して下さい。


「まだまだ、私は貴方に色々な事を御教授頂きたかったのだがな……」


「何を仰いますか、私なぞ冥琳さんに教えれる様な器では無いですよ。ああ、それはそうと冥琳さんに御渡ししておかなければならない大事な物が有る事を忘れていました」


「大事な物……?」


「ええ、元々、冥琳さんに御渡ししようと思って洛陽から持参したものに、色々と気付いた点を修正した物です。我等と孫家との同盟の証としてお納め頂ければと思いまして」


そう言って私は持っていた絵図面の束を、冥琳さんに手渡します。それを受け取った冥琳さんは手早く図面に目を通した後に驚愕の体で


「こっ、これは…………まさかっ?!」


「んっ……? 何、どうしたの冥琳……?」


雪蓮さんが、絵図面持ったまま固まった冥琳さんを心配して問い掛けます。


「如何でしょうか。私が設計した新しい軍船の設計図です。取り敢えず、この場に於いては旗艦となる楼船のみの図面となりますが、禁軍や一般諸侯達が保有している船とは性能が段違いで、長江の上り下りはおろか外洋での運行も出来る優れ物ですよ」


「あ、愛将殿っ!! いくらなんでもこれは受け取れませぬ……この様なものなどを受け取った事が洛陽に知れれば、我々が謀反の疑いをかけられる事が必至。その様な危険な物など、いくら愛将殿の御好意とは言え受け取る事は出来ませぬ」


「いやいや、そんなに堅苦しく御考えにならずとも宜しいかと思われますよ。実際の所、建業より更に東側で造船を行うのであれば間違い無く朝廷の眼は届かなくなりますし、仮に査察等が入ったとしても河賊対策の為の新船だと主張すれば、それ以上は何も言えないでしょうからね」


「しかし、そうは言っても……「冥琳! 良いじゃない貰っておけば」……雪蓮、お前まで……」


「折角、愛将が冥琳にって言っているのだから、ありがたく貰っちゃえば良いのよ」


「しかしだな、朝廷の事を思えば思うほどにこれは、はいそうですかと気軽に貰うには、余りにも危険な物だぞ」


「その辺の事を考慮せず、私達に危険な物を渡す様な男じゃあないでしょう、そこにいるのほほんとした男は……」


雪蓮さんは、そう言いながら私の方へと視線を移します。


「ええ、まずは絵図面の表紙に、司空様と司徒様の連名で私に設計を許すと言う覚書が有り、最後の絵図面にはこれこの通り玉璽も頂いておりますよ。この玉璽によって、ケチを付けて来る輩は一人たりともいない筈ですがね」


「その様な畏れ多いものをいつの間に……」


冥琳さんは、呆れた様な眼で私の事を見た後に溜息とともに言葉を吐き出しました。


「まあ、備えあれば憂いなしって所ですかね……まあ、そう言った訳でこれを受け取って頂く事に関しては了承していただけましたか、冥琳さん」


「ああ、そこまで考えて頂いているとは……申し訳ない。ありがたく頂く事に致しましょう」


冥琳さんは、そう言いながら絵図面を受け取り御付きの文官の方に渡されました。それを見た雪蓮さんが、再度私の方に向き質問を投げかけます。


「でもこれって、私達と愛将の友好の証ってだけじゃあ無いわよね、この図面を私達に渡すという事は、近い将来に、この船が私達に必要になって来ると言う事なんでしょう?」


「流石は雪蓮さんですね、少なくとも10年……いや短かければ7年程でしょうか、恐らくは貴女方孫家の海軍の力を見せ付けなければならない事態が来る事でしょう。これはその時の為の布石の様なものだと思って頂ければ幸いです」


「未だ、我々は独立したばかりだと言うのに、愛将殿はそこまで先の事を御考えか……」


「はい、貴女方は独立したばかりで周囲に片付けなければならない事が多いでしょうから、まずは差し当たって、貴女方にとって最重要な事からやって頂ける様に考慮したつもりです。勿論無償での行為と言うやつではありませんよ、我々と孫家の同盟が続く限り、我々は貴女方を援助します。しかし、余り考えたくはありませんが、何時か同盟を破棄される事があるのであれば、我々は一切から手を引く……ただそれだけですよ」


「愛将達から全てを手に入れた上で、同盟を破棄するかもしれないわよ。その時はどうするのかしら?」


雪蓮さんは挑発的な眼で私に言葉をかけます。


「どうもしませんよ。その時はその時で私に先を見る眼が無かったと言う事で、粛々と孫家との戦いに入るだけですから……最もその様な日は絶対に来ないと信じてはいますがね」


「ん―っ、何か、その余裕が気に入らないけど。まあ良いわ。改めて今後とも宜しくね。愛将」


雪蓮さんは居住いを正して、しっかりと私の眼を見つめてそう言ってくれました。と、同時に冥琳さんも


「貴方と言う人は、最初から最後まで私の想像の先の先迄行かれる方だ、通常軍師たる者としては、そこまで考えの至らぬ我が身に非常に憤りを感じてしまうのだが……何故だろう、それが貴方だと、そう言う気が起きないのだ……」


「ハハハ、そりゃそうでしょう。孫家の柱石たる美周朗に対して、私がその様な立場になれる筈がないでしょうに、まあ、冥琳さんは孫家の独立の為に忙しかったので、本来の明晰な知恵が出せる様な状態では無かったんですよ。それに対して私は元来、暇人気質ですので色々な事が妄想出来た。ただそれだけです、決して冥琳さんが私に劣ると言う訳じゃあありませんよ」


「何を言われるか……貴方の御考えは、到底我等の知恵の及び付く次元には無い。いつかは、雪蓮の言では無いが私も貴方さえ望むのであれば、貴方と共に歩いて貴方の造る国と言うものを見てみたいものだな」


「へぇ~、冥琳。それって愛将への求婚かしら?」


「まあ、似て非なるものだがな……何よりも今は、我々の眼前には困難な道が待っているし、手のかかる頭首もいる事だから、まだまだ愛将殿とゆっくりと語り合うのは先の事だがな」


「ぶぅ―っ、ぶぅ―っ。何よぉ、それぇ。でも愛将、冥琳に此処まで言わせるなんて……貴方、一体冥琳に何したのかしら?」


「いやいやいや、雪蓮さん、周りの方々に多大な誤解を招く様な発言をしないでくださいよぉっ、今はマジに危険なんですから」


ですから、飽くまで冗談の範疇ですので春日さんと優希さん、その絶対零度の視線を此方に向けないでえ……マジ精神的にキツイです。


「ふふっ、本当に貴方って不思議よねえ。でも貴方の手腕で私達孫家は一滴も血を流す事無く自由を手に入れられて、今後この乱世に踏み出して行く事すら出来る様になったわ。孫伯符の名に於いて、この恩は一生忘れないわ」


「いやいや、そんなに大層な事をした訳じゃないですよ。黙っていても貴女方孫家は力を溜めて、何時かは名を上げられた事でしょう。私はその御手伝いをほんの少ししただけです。でもそれを恩に思って頂けるのなら……」


「思うのならば……?」


私の言葉に雪蓮さんが興味深そうに問い返します。


「私個人の甘い考えでしょうけれども、今後同盟を組んでいる我々の間で如何なる事が起こったとしても、この司馬仲達が名の下で行う事を信じて頂けないでしょうか」


「それは孫家にとって利が無い事であろうとも、貴方がする事を信じろと言う事かしら……?」


雪蓮さんの眼がかなり険しくなりますが、私は更に言葉を続けます。


「ええ、この時代に非常に甘い考えであるとは自分でも思うのですが……どうでしょうか」


「ん~……まあ、考えてあげておいても良いわ。でもあまり期待はしないでね。こんな時代だから」


雪蓮さんは首を竦めて、私に向かってそう言いましたが、その言だけで私には充分でした。


「そうですね……こんな時代ですからねえ。でも、私はそんな時代だからこそ、此処で貴女方孫家と会えて良かったと思いますよ」


これは嘘偽りの無い私の心からの言葉です。そう言った私は雪蓮さんに向かって右手を差し出します。


「私も、愛将達と会えてよかった」


そう言って雪蓮さんも私の右手を強く握って頂きました。


「では御名残り惜しいですが、これで我々は失礼致します」


「ええ、御元気で……でも本当に良かったのかしら? 本当は私達だけじゃ無く領民の皆にも挨拶がしたかったんじゃないのかしら?」


「民達の仕事を滞らせる事は出来ませんし、我々は飽くまでこの南陽に少し滞在しただけの者達です。決して崇め奉られる様な者達じゃあ無いですよ」


「まあ、貴方がそう言うなら、そう言う事にしておいてあげるわ」


「ええ、お願いします。では次に貴女方に御会いするのは洛陽でと言う事になりますね。またその時には私が責任持って洛陽を御案内しますよ」


「ふふ、楽しみだわ。じゃあ、あまり外の者達を待たすのも悪いし、これで取り敢えずはさようならね」


「はい、取り敢えずはさようならです。皆さんも御元気で、また逢いましょう。ではこれで……」


最後の挨拶を終えて、今迄空気だった春日さん達も騎乗して、私も馬に乗ろうとした時に不意に雪蓮さんが私を呼び止めます。


「愛将!!」


「はいっ? おわぁぁぁっ!!」


私が振り向こうとしたその瞬間、雪蓮さんの腕が私の首筋に絡み付いて来て、間髪を入れずに雪蓮さんの唇が……唇が……私の唇と重なります。


「「「★■※@▼●∀っ!?」」」


馬上の三名は眼を見開いたまま、この出来事に対しての対処が思い付かない様に固まっているし


「えっ? えっ? えええええええっ!!」


私は一瞬自分の身に何が起こったのか全く理解出来ずに固まった状態でしたが、私から離れて満足そうな笑み浮かべた雪蓮さんを見た時にちょっとしたパニックに陥ってしまいました。


「雪蓮っ!! アンタ、いっ、一体なにをしてるのよぉっ!!」


一足早く素の状態に戻った春日さんが口角泡を飛ばす様にして、馬上から飛び降り雪蓮さんに詰め寄ります。


「何してるって、愛する男と別れの口付けを交わしただけだけど、それがどうかしたかしら?」


「どっ、どうかしたかしらって……何、アンタいけしゃあしゃあと……」


一応素には戻ったみたいですが、興奮している様で次の言葉が出ない春日さん。


「どきたまえ、春日、やはりこの女とは決着を付けなければならないらしい……」


器用に馬首を巡らして、またもや何時の間にか取り出した愛用の戟の穂先を雪蓮さんに向ける華炎さん。


「……………………殺」


何やら無言のプレッシャーを見に纏わせながら弓を構える優希さんと三者三様の臨戦態勢を整えて雪蓮さんを囲みます。


私は何をしているかと言えば……非常に情けない話ではありますが、いきなりの事で気が動転し、腰が抜けた様に座り込んでいます。そうこうしているうちに雪蓮さんは、不敵な様子で三人に語りかけます。


「何を今更いきりたっているのかしら? 自分達の想い人の唇が、私に奪われた事にそんなに腹が立つのかしら? それならば私も貴女達に言う事が有るわ。貴女達は今から洛陽に戻れば、曹家の性悪女は別としても、ずっと愛将と共にいられるじゃない」


雪蓮さんの迫力ある言葉に三人が気押された様に言葉が出ません。


「そこに至る理由はどうあれ。私も冥琳も貴女方と同じ様に愛将の事を少なからず想っているわ、でも悔しいけれど、私には孫家の名を今以上に挙げなければならないから、貴女達の様に始終一緒に愛将と居られる訳じゃない」


「だ、だからといって、く、口付けするなんて!!」


「春日……アンタ、子供みたいな事言ってんじゃないわよ。それに今後、洛陽に戻って太平道の信者達の反乱鎮圧の為に、禁軍に組み込まれる様な事にでもなれば間違い無く、益々愛将を好きになる女性は増えて来るわよ。貴女達はその一人一人に今みたいに逆上して獲物を振り回すのかしら?」


「そ、それは……」


珍しく勝気な春日さんが口籠ってしまいました。華炎さんも、優希さんも何やら思案顔で、何時の間にか、戟も、弓も降ろされています。


「確かに、今後愛将は袁家の後ろ盾も有って、中央の政治に進出して行くだろうし、賊の鎮圧として禁軍にも組み込まれて行く事は明白だね……そしてそこのじゃじゃ馬が言う様に、愛将に縁談や側室の話が大量に舞い込む事も予想されるし、恐らくはその話のいくつかは愛将が逃げようとしても逃げられない物になるのだろうと僕は思う」


「我、考えが甘かった……反省」


華炎さんと、優希さんが少しトーンを低くした状態で多少落ち込んだ様な声音で言葉を絞り出します。やっと身動きが出来る様になった私が二人に声を掛けようとした矢先に、意を決した様な表情で華炎さんが話し出します。


「しかし、しかしだ、例えその様な事が今後あろうとしても、そこのじゃじゃ馬が愛将の、くっ、くっ、唇を我々の前でどうどうと盗む事は許し難い行為だと僕は思うっ!!」


ええっ!! 突っ込む所ってそこぉぉぉぉぉっ?? ああっ、でもそうか、そこしか突っこみ処って無いよねえ……などと、私が馬鹿な事を考えていると孫家の美周朗がとんでもない一言を投下しました。


「では此処に居られる愛将殿を少なからず想っている方々よ、ならばこれより如何なる事をすれば良いか御分かりか!! 他の者に抜け駆けされぬ様に自らの欲望を強固に律しておられた方々よ、禁断の扉は不本意ながら我が主孫伯符が開けてしまった。もう己らを律する必要は無い。心ゆくまで想いを遂げられれば良い」


「ちょ、ちょっと冥琳さん、一体真昼間から何を言いやがりますかっ!! って言うか、何を危険な言葉で身内に煽ってるんですか!! なんか明らかに彼女達の纏う氣が変ですよっ!!」


私は此処南陽に来てから最大級の身の危険を感じて後退ります。


「そ、そ、そうよね……穏に、元皓。あれだけ私の前で見せ付ける様にしたんだから、私だってそうしてもらう権利は有る筈よね…………」


お~い、春日さ~ん……何となく眼が逝っちゃってますよぉ~~っ。


「そうだ、これは正当な報酬なんだ、だから僕が愛将の唇を奪っても……華琳に対する裏切りにはならない筈だ……もし、愛将がそれを覚えている様だったら……記憶が飛ぶぐらいに、この戟で……ブツブツブツブツ」


いやいやいやいや、華炎さん。此処まで来てヤンデレ大全開ですかっ!! いくらなんでも記憶が飛ぶほど戟で殴られれば私の命が危険なんですけれど……


「主、そこは危ない……此方へ」


「ああ、やっぱり私の真の味方は優希さんだけなんですね」


私がそう言って天使の様な笑顔で手を差し伸べてくれる優希さんの手を取った瞬間。


「フフフ……これで主は私のモノ。誰にも邪魔され無い場所で……フフフ……」


ああ、この方も病んでたぁっ!! 寸での所で優希さんの手を振り払ってこの危険な三名から距離を取った私に雪蓮さんが頭を掻きながら


「いやぁ~、何かとんでもない事になっちゃったわねえ。まあ、でも愛将ならなんとかなるでしょう……あっ、それと私がさっき言った事は本気だから覚悟しておいてよね。愛将」


「いやいや、とんでもない事になっちゃったわよねえ……じゃあないでしょう。明らかに命の危険を感じるんですがね……」


雪蓮さんに恨み事を言いながらも、じりじりと足は後退を続け、この三名から逃げるタイミングを計ります。一方の春日さんを筆頭に此方の三名の方々は私の包囲網を狭めて来ます。双方の緊張感が最高潮に達した瞬間、強制的に『逃げの仲達』のスキルが発動し、私は信じられないスピードと跳躍で馬に飛び乗ります。


「おおぉりゃあぁぁぁっ!!」


「「「あっ、逃げたっ!! コラァッ!! 待てぇぇぇぇぇぇっ」」」


私の愛馬は城門を駆けだし脱兎の如く走り出します。それを遅れて騎乗した三名が血相変えて追いかけてきます。


「あっ、御頭様ぁっ、どうされたのですかぁっ?」


血相変えた私の姿を城門の外で待っていた田豊さんが見て驚いた様に声をかけて来ます。


「ああ、元皓さん……不本意ですが私が非常に危険な状態です、後の事は貴女にお任せしますので。洛陽への道の指揮をお願いします」


「えぇっ、いきなりそんな事言われてもぉっ……」


「元皓さんっ、今後私の下でいらっしゃるなら、恐らくこういう事が日常茶飯事となります。心して仕事に取りかかって下さい。それではっ、私の命があったらまた後で御逢いしましょう」


私は取り急ぎ田豊さんに指示を伝えた後に、再度馬に鞭を入れました。


「「「★■※@▼●∀っ!?」」」


その瞬間に城門から、言葉に変換できない叫びをあげながら三名が追って来ます。結局、南陽編は最後の最後まで私はこういう立ち回りなんですねえ……でも、彼女達は私のような者に好意を持ってくれているが故に、あのような行為に至る訳ですから、今回は理不尽でも不幸でも無いのですが、それでも魂の叫びは口を吐いて自然に出て来ます。


「私の明日はどっちですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


まあ分かってはいた事ですが、毎度毎度の如く今回も、私の魂の慟哭は洛陽へと続く道の青空に吸い込まれて消えて行きましたとさ……

いやぁ~、取り敢えず『南陽編』これにて一巻の終わりとなりました。何はともあれ一安心です(苦笑)


思い起こせば書き始める前の脳梗塞とか、自分の昇級試験とか多々あった様な気がしますが、実際、此処まで遅れたのは私の怠け癖の一言に尽きます。兎に角今後は出来るだけ頑張って、書いて行く様にしていこうと思う今日この頃です。


まあ、そんなこんなで第一章「南陽改革大作戦」が無事に終了して第二章「黄巾の乱平定大作戦」が始まります。頑張って書き溜めしている御話の中身をチョットだけ公開!!





洛陽の袁次陽私邸内『国家戦略情報室』




「主様、主様、バ、バケモノじゃぁっ、バケモノがこの屋敷にぃっ!! 早く、早く来てたもっ!!」


「ぬわぁんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁっ、主様っ、主様っ!!」


「こんなあられもない格好の美人をとっ捕まえて、モリモリ劣情を滾らせるならともかくとして、絵にも描けないバケモノなんてぇどの口が仰ってぇ!!」





洛陽宮中内、司空 袁周陽政務室




「ところで、御二方。私に内密にこの様な縁談を取りまとめ様とした事についての御説明を願えますか?」


「あらあら、仲達。そんな怖い顔してえ、似合わないわよお。貴方は何時も少し眠たそうにしてないとねえ……」


「いやいや、ねえ~じゃありません。今日は逃げられませんよ、袁隗様」


「ちっ!」


「今、ちっ! って仰いましたね、ちっ! て……」




洛陽の繁華街  「阿蘇阿蘇」に紹介される程、有名な甘味茶房のオープンテラス




「ところで愛将……」


私が考え事をしながら通りの方を見ていると華炎さんが私の隣に移動して来て小声で囁いてきます。


「はい、何でしょうか?」


「一昨日、陳留から秋蘭が来たよ」


「そのようですね。私の所にも孟徳さんの親書を携えていらっしゃいましたよ……やはり、戻られるのですね」


「うん、いつまでも君の下で君を支えていきたかったのだけれどね……」


華炎さんは、今迄見た事の無い程の淋しそうな顔で行き交う人々を眺めています。






如何でしたでしょうか……次回、次々回の予告編、ほんの少しでしたけれど書かせて頂きました。


まあ、流れとしては洛陽での日々の描写(恋姫ゲーム内での攻略パート)の様なものがあって、そこからじわじわと黄巾の乱に進んで行く形になって行くと思います。


毎度毎度書いている事で恐縮ですが、今度こそは怠けずに書き溜めて投稿して行こうと思います。そうでないと、マジ、一体いつ終了できるか分からなくなってしまいますからねえ(>_<)


なにはともあれ、皆様の温かい御支援が駄目作家の励みになりますので、次回からの第二章の黄巾編もどうか宜しく御支援の程をお願い致します。



それでは次回の講釈で、また御会いしましょう。「駄文、拙文を書ける程度の能力」(笑)の駄作者 堕落論でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ