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真・恋姫†無双 ~司馬懿仲達の憂鬱~  作者: 堕落論
第一章  『南陽改革大作戦!!』
24/30

南陽改革 大作戦!! ――改革狂想曲 最終章 きっと最後は大団円!? 後編――  前半戦

はい、どうも。またもや長期間の雲隠れをしてしまいました「駄文、拙文を書ける程度の能力」(笑)の駄作者 堕落論でございます。


前回投稿が地元の秋祭りが終了した頃でございましたので、ほぼ半年ぶりの投稿でございます。こんな馬鹿作者の駄文をお気に入り登録して待って頂いていた皆様には、どれだけ感謝してもしすぎる事はない程でございます。


何はともあれ、『司馬懿仲達の憂鬱』の第一章「南陽改革大作戦」がこの御話で無事に終わりそうです。たったこれだけの書き物を書くのに一体何時までかかってやがりますかってな感じなんですけれどね(苦笑)


此処まで時間がかかってしまった原因は色々あるのですが……まあ、一番大きいのは馬鹿作者の怠け癖でございます。プロットがあるのだから、毎日毎日少しづつでも書き足して行けば良いのですが、PCに向かってもニコ動見たり、積みゲーやったり、積み本読んだりと現実逃避を続けた結果がこの体たらくでございます。


まあ、毎度毎度の事ではございますが、とりあえずは南陽編の最終回です、宜しかったらごゆっくりとお楽しみください


では、また後書きでお会いしましょう。堕落論でした。

――――荊州滞在六十五日目 南陽城内 「南陽城内 仲達の政務室」――――








ここは南陽城内に割り当てられた私個人の政務室です。隣にある改革推進庁の部屋には後半刻もすれば先程声を掛けた方々が集まって来られる筈ですので、その前に田豊さんと洛陽の袁周陽様からの返信に対しての打ち合わせを片付けてしまわなければなりません。


「まずは洛陽との往復に私の代理でこの南陽城での出来事の袁周陽様への報告、誠にお疲れ様でした……それでは元皓さん、早速ですが袁周陽様よりの書状を拝見させて頂きます……おや? どうされました元皓さん」


「御頭様……書状を御渡しする前に私、田元皓一世一代のお願いしたい事があるのですが、まずはそれをお聞き届けくださいますでしょうか……」


私が書状を受け取ろうとした時、元皓さんは書状が入っていると思われる文箱を御自分の手元で包む様にして私から遠ざけ、徐にそう言いました。


「はいぃ……私に……頼み事ですか……?」


「ええ、御頭様御自身にです」


(ふうむ……聞く事については吝かではございませんが、しかしまた今更何についてでしょうかねえ……気になる所ではありますねえ)


「う~ん……分かりました……なにやら大事な御話の様ですので心して聞かせて頂きましょう」


私が田豊さんに向かって了承の意を伝えますと、緊張の面持ちだった彼女の顔にほんの少しだけですが安堵の色が浮かび、多少弾んだ様な声で話し出します。


「ありがとうございます。お願いと言うのは他でもございません。この南陽における出向が終了した後の私と、高覧の事でございます」


「はあ……貴女達御二人の事ですか。貴女達はこの後は本初さんの下へ以前の役職で戻る手筈になっていますが、それが何か問題でも……」


田豊さんのお願い事の内容をいまいち掴めない私は、彼女に対して問い返します。


「はい、その事ではございますが……単刀直入に申し上げさせて頂きますと我々両名を、この南陽の改革が終了した後もこのまま御頭様の『国家戦略情報室』に置いて頂きとうございますが如何?」


「はいぃ…………今何と?」


「ですから麗羽御嬢様の元より我々両名を出向の形では無く、御頭様直属の配下にして頂きたいのでございますが如何でしょうか?」


(いやいやいやいや……言うに事欠いて、いきなり何を言い出しやがりますかねこの方は。貴女達は現代風に言えば袁家と言うお役所の高級官僚みたいなものですぜ……立場ってもんがあるでしょう立場ってもんが……)


「しかし……貴女方は本初さんの陣営に無くてはならない御二人じゃあないですか……いくらなんでも……」


「御頭様、それは我々二人を買い被り過ぎでございます。我々以外にも麗羽御嬢様の下には有能な者が……例えば、荀友若様、文若様を筆頭とされた荀姉妹、それに沮授殿に現在は大軍師として盧子幹様も麗羽御嬢様の側近くに侍っておられます」


(ああそうですね……確かに未だこの時期は本初さんの下に桂花さんもいるのですねえ……それに董卓さんの多少早い登場で盧植さんが横滑り的に本初さんの軍師筆頭として着任されているんでしたね……)


「しかし私とて袁家軍師の末席に連なる者として綺羅星の如く輝いている他の者達に少しも引けを取るとは思っておりませぬ。おりませぬが家中での根拠の全く無い誹謗中傷やあからさまな足の引っ張り合いに私も高覧も甚だ閉口しているのもまた事実でございます。故に我々は己の智や武が更に磨きがかけられ、人として精進が出来る場……そう、御頭様が差配されておられます部局に己を置きたいのでございます」


「まあ元皓さんの現状については同情の余地がありますが……しかし、だからと言って袁家の智の支柱足りえる田元皓さんと勇将の誉れ高き高覧さんの御二人を、例え司徒袁次陽様の直属とは言え私的情報機関にすぎない我々の下には迎える事は難しいですよ……それに張儁乂さんの時ですら渋々袁周陽様に納得して頂いたのに……貴女方二人となると、私個人としては貴女方の様な有能な方々こそ本初さんの下で使われるよりも我々と共に働いて頂きたいとは思いますが、それは本初さんの利にはならないのでまず間違い無く袁周陽様は反対されますよ……」


私は田豊さんの申し出を叶えるのが難しい旨を彼女に理解して頂けるように渋面をつくってみせるのですが、田豊さんは待ってましたと言わんばかりに私の言葉に喰い付いてきます。


「御頭様!! お言葉ですがそれについては何の心配もございません、私、御頭様の書状を洛陽にお届けして返信を頂く際に僭越ではありますが、我々両名の袁家での現状を司空様に聞いて頂き今後について御相談申し上げた所。司空様はその場に偶然居合わせた司徒袁次陽様と御協議されて、御頭様の許可さえ頂ければ身の振り方は我々の思うがままにして良いと、御二人よりありがたい御言葉を頂きました。しかしそれよりもなによりも私と高覧が御頭様の下に居たいのでございます」


「はっ、はいぃっ? 元皓さん今貴女、何気にとんでもない事を仰いませんでしたか? それと、あの年増達……いやいやあの御二人が本当にその様な事を口にされたのですか?」


「ええ、御二方からは努めて御頭様の言に従いなさいと、そして今後我々が御頭様の下で頭角を現す事が麗羽御嬢様の為になり、ゆくゆくは汝南袁氏の為にもなるとも仰せでございました。また御二方は、御頭様の御尽力で南陽における美羽御嬢様の御身を無事に洛陽に御移しする事を成し遂げた功績を非常に重くみられて、流石今後の袁家を背負って立つ婿殿よと、大変上機嫌でその場に居合わせた宦官の方々や上級役人の方々に御話されていました」


(おぉいっ!! 一体何て事を宮中の御歴々の前で話しやがりますかね、あのババア共は……まあここの所こちらが南陽改革に取りかかりっきりであったものでオババ二人に注意を払っていなかったので対応が後手後手に回りつつありますねえ……このままだとなし崩し的に外堀埋められた後に間違いなく本初さんか、公路さん……或いは袁隗様の所の三人娘達の婿になっちゃいますよ、まだまだそれは勘弁願いたいと思うのですがねえ…………それと取り敢えずは何か目をキラキラさせている田豊さんをどうにかしないといけませんねえ)


そう考えた私は暫く考える様な素振りを見せた後で、徐に田豊さんに切り出します。


「うぅぅ~~~~んっ…………しかし、困りましたねぇ……正直貴女達を我が情報室に迎え入れる事については吝かでは無いのですが、貴女達を迎い入れる事によって本初さんの陣営に於いては主に顔良さんと文醜さん御二人の仕事が(主に顔良さんのお仕事ですが……)爆発的に増える事が予想され、その結果、袁紹さんの支配地の行政などは全く滞ってしまい住民達に多大な迷惑を掛ける羽目になってしまいますので、この申し出を簡単に受け入れる訳にはいきません。その事は御理解頂けますよね?」


「御頭様っ!! その事については重々理解を致しておりますが、先程も申し上げた通り麗羽御嬢様の下には優秀な者達が居ります。その者達が力を合しさえすれば、御頭様の言われる様な事は杞憂になりまする」


「しかし、その力を合してと言うのが現行の状況ではそもそも難しいでしょうし、何より本初さんの性格上、顔良さんと文醜さん以外の進言を聞くとは到底思えないのですがねえ……そもそも上手く行っていたのであれば、諸々の政務の処理に当たっていたあれだけ優秀な優希さんを本初さんが手放す事が無いと思うのですが」


「うっ……そ、それは………そうなのですが……」


「それに非常にお恥ずかしい御話なのですが、如何せん我々も現行の部局の者達の御給金と細作達に支払ってる必要経費の所為で手元不如意なんですよねえ……ですから新たに御二人を雇い入れる余裕は全く無いと言うのが現実なんですよ」


「そっ、そこを曲げて何卒、何卒お願い出来ますまいか……我々は此処二月程の間、御頭様の側で政務を執らさせて頂いたり、酒宴の席等で御頭様が思われるこの国の未来への在り様を聞かせて頂くと同時に、我々が考えていた現行の制度がまるで児戯に等しく見えてしまうような改革を目の当たりにして、今迄麗羽御嬢様の下で軍師と呼ばれていた自分が如何に無知蒙昧の輩であったかと言う事に気付かされました。ですから誠に不躾ではありまするが何卒、何卒御頭様の下で今一度学び直し、御頭様を生涯かけてお助けしたいのでございます。この願いをお聞き届けくださりませぬか……この通りでございます」


そう言うと田豊さんは揖礼の形で跪き頭を垂れます。事情を知らない人が見れば私が元皓さんを跪かしている様に見える事間違いなしです。そう思った私は直ぐに元皓さんの手を取って立ってもらおうとしますが……


「ちょ、ちょっと待って下さいっ!! 頭を上げて下さい……元皓さん。もしも他人に見られたら変に思われるでしょうし、万が一にも情報室の人達に見付かったりすれば、私は問答無用で命が無いじゃあないですか……」


しかしどうにか立った元皓さんだったのですが、今度は私の腰の辺りに抱き着く様な格好となって見方によっては先程より一気に危険度がUP!!


「御頭様、御頼み申し上げます。どうか、どうか我々両名を御頭様の下に置いて下さいませ。田元皓一生の願いでございます。実はもう既に麗羽御嬢様の下には司空様を通じて御頭様と共に歩むとの書を届けてあるんですぅぅぅぅ!!」


「あるんですぅぅぅ……じゃあ、ありませんっ!! 何故その様な軽はずみな行動を取られるのですかっ!! 貴女は仮にも軍師でしょうに……その様ないきあったりばったりでどうしますかっ!!」


「えぐ、えぐっ……ぐすぐす……私だって、私だってこんな切羽詰まった上での馬鹿みたいな行動をとりたくはないですよぉっ!! でも、でも麗羽御嬢様の下に今回の南陽行きで政務を空けた我々二人の戻る場所なんか無いんですよぉぉ!!」


(はあぁぁあっ? 今度は何を逆ギレして泣きだしますか、この子は………全く、しょうがありませんねえ)


「戻る場所が無い……? その様な事がある訳無いでしょう。私は袁周陽様に、間違いなく貴女達御二人を元の役職か或いは昇進した状態で本初さんの下へ戻す様にお願いしている筈ですが……?」


本初さんの所が上手く行っていないのは外から見ても分かってはいたので、出来るだけそのとばっちりを彼女達が被らぬ様に袁逢様には念を押した筈なのですが……


「ぐすっ……はい、確かにその様に司空様からは御達しが出ておりました。その事を確かめる為に一度我々の職場に戻ってはみたのですが、確かに新しい役職が用意され、私も、高覧も出世のような形になってはおりましたが、その実は名ばかりの閑職であり、主たる会合にも参加出来ぬ飼い殺しの状態なのでございますよ……うわぁぁぁんっ!!」


マジ………ですか? この今から混乱を極めていく時代に、少しでも自らの組織を強化し無駄を省いた合理的な組織にしなければならない時に、あたら逸材を自ら手放す様な愚を犯す……あまりに愚か過ぎます。なんか他の陣営の事ながら腹が立って来ましたね。そう思った私は反射的に田豊さんの肩を掴んで彼女に語りかけます。


「分かりました……もう泣かないでも結構ですよ元皓さん」


「ふえっ……? 御頭様、今何と仰いました?」


田豊さんは涙でグシャグシャになった顔を隠そうともせずにキョトンと私の方を見ます。


「泣かないでも結構ですと申し上げたのですよ……」


「それでは……それでは……我々の願いは……」


「ええ、元皓さんや高覧さんの様な志があり有能な人材を、無能な者達が屠ると言う様な事を見逃してはおけません。私の様な至らない者にでも仕えて頂けると言うのならば力を合わせ、この国の未来を共に造る同志となりましょう。御給金の件は不本意ながら貴女達御二人ぐらいなら実家の母に話を通せばなんとかなるでしょう」


「ほ、本当ですか……本当に我々の様な者が御頭様の部局の末席を汚しても宜しいのでしょうか……」


「はい……寧ろ此方の方からお願いしますよ……」


「あ、あ、ありがとうございますっ!! 高覧も喜ぶでしょう……御頭様、本当にありがとうございます!! やっぱり私が終生お仕えしようと思えるほど素晴らしい御頭様です」


田豊さんは先程迄の泣き顔から一転、大輪の花が咲いた様な笑顔になって私に抱き着いて来て……抱き着いて来て……えぇぇぇっ!! ちょっ、ちょっと待って下さい田豊さん……今の状態って、この馬鹿作者の場合は間違いなく私の死亡フラグなんですけれど……


「愛将、愛将……そろそろ皆が集まる頃だけれど用意は出来たのかしら? 元皓と一緒に別室に来て頂戴。んっ? 愛将、どうしたのかしら……? 居るんでしょう……愛将?」


ほ~らねっ、皆さんの期待を裏切らないでしょう……非常にタイミング良く、それも春日さんの登場ですよ。まだまだ田豊さんは全く気が付かないのか私を抱き締めたまま放そうとしないし、これで私が声を出せば一気に扉が開いてゲームオーバーだし、かと言って流れに任せて扉が開いてもゲームオーバーですねえ……ハハハ、まあ取り敢えず無駄な抵抗を試みてみましょうか……


「え~と、元皓さん。貴女の御気持ちは非常に嬉しいのですが、私の命がかってない程まずい事になっているのですが……」


私は無駄とは思いつつ田豊さんに今の状態からの介抱をお願いしたのですが……田豊さんよりも早く私の声に部屋の外から、春日さんが反応します……


「何……? 愛将、此処に居るんでしょう。全く!! 人が探してる声が聞こえてるんだったら返事ぐらいしなさいよねえ。まさか元皓と淫らな事をしてるんじゃあないでしょうねえ……まあ、ヘタレのアンタにはそんな度胸も無いでしょうけど……とにかく開けるわよ」


「いっ……いや、春日さん。ちょっと待って……い、今開けられると……」


「何よ、やっぱりこの部屋に居るんじゃない。こっちも忙しいんだから隠れんぼの真似なんかするんじゃないわよ、まったく………」


扉を開ける迄の明るく弾む様な春日さんの声と、扉を開けた瞬間の彼女の凍り付いた様に強張った表情。その後に彼女の手によって私に齎された強烈な災厄は、その後も度々私の夢に登場する程のトラウマとなりましたとさ……トホホ


ああそうそう書き忘れはしましたがこの惨劇の後、本来の目的である打ち合わせは、私が青息吐息の状態ではありましたがキチンと済ませましたよ。キチンと……ね。





――――荊州滞在六十五日目 南陽城内 「国家戦略情報室 南陽支部 改革推進庁」――――





さてさて、玉座の間から場所を改革推進庁の方に移す事を、その場に居た方々に伝えてから一刻程過ぎた後。改革推進庁政務室として南陽城内に与えられた一室には、洛陽の司空であり公路お嬢様の実の母上である袁周陽様から田豊さんに言付けられた書状の内容を聞く為に、私を筆頭とした洛陽組と高覧さん、南陽組としては公路お嬢様主従に紀霊さんと、雪蓮さんを筆頭とした孫家の主要メンバーが集まりました。


まあ余談ではありますが皆が集まって来る間の時間で、私と田豊さんの間にちょっとした話し合いが有ったり、諸々の事情で、またもや私のHPは限り無く0に近くなっている事は今更書かずとも読者の皆様は、よぉ~く御存知ですよね(苦笑) 


そんなこんなで今現在は全ての幕引きの為に関係者一同、南陽城内の『改革推進庁』の部屋に集まってもらっています。斯く言う私も少しでも気を抜けば諸々のダメージで引っくり返りそうな身体に鞭打って、最後の一仕事の為に待機しているのであります。 





「さて、話を聞いて頂きたかった方々は全員集合された様ですね……では始めましょうか、元皓さん」


「は、はいっ。それでは僭越ながら司空袁周陽様よりの書状を読まさせて頂きます」


「まあまあ、そんなに緊張をせずに……先程迄、私に報告して頂いた事を打ち合わせ通りに発言して頂ければ結構ですから」


汝南袁家の本初さんの下でこの様な事には慣れている筈の田豊さんも、今此処に集うメンバーに向かって話す事はいつもと勝手が違うのか多少の緊張が見受けられますねえ。


「了解いたしました……では、司空袁周陽様よりの書状を披露させて頂きます。直、この書状を披露させていただくに際して、御頭様である司馬仲達様を筆頭にして此処にお集まりの皆様に、よくよく御理解を頂きたい事がございまするが宜しいでしょうか?」


おや……? 何でしょうか、この違和感は……先程、田豊さんと書状に関しての打ち合わせは終了させている筈なのに、一体何を確認しなければならないのですかねえ……


「え~と、元皓さん? この場に及んで我々は一体何を理解しろと仰るのでしょうか?」


「はい、先程御頭様との打ち合わせの際にも話題に登りましたが、今回の南陽改革の件を汝南袁家の内輪揉めとして裁く事は非常に無理があります。そこで司空袁周陽様は一計を講じ、取り敢えずこの南陽改革の私的な裁決状を今回に関しては、司徒袁次陽様との連名で公式文書と同じ様な扱いで発布される事と成った事を皆様には御理解頂きたいのです」


田豊さんは私の問い掛けに対して、やや説明口調で返答をしてくれます。


「つまり、袁家が南陽城に対して出した私的文書という体裁ではあるものの、朝廷が発布した公的文書と同等扱いであって、それ相応の強制力が働くものと理解せよ……って事かい?」


壁際で腕組みをして背を預けていた華炎さんが、皆の問いを代表する様な形で田豊さんに問い掛けます。


「ええ、流石は曹子孝様……正にその通りでございます」


「あのお……元皓さん? その事は先程の打ち合わせの際にも確認をした事では無かったでしょうか?」


何を今更と思いながらも多少の不安に駆られた私は確認の意味合いを込めた問い掛けを田豊さんにいたします。


「ええ、確かに先程、私と御頭様の間では確認をされた事ではありましょうが、此処にお集まりの皆様におかれましても、よくよく此の事を御含み頂きたく思いましたもので再度御話し申し上げたものでございます。まあ、此処にお集まりの皆様におかれましては、その様な心配など皆無であるのかもしれませんが、稀に有力豪族どころか朝廷の法令の発布にすら堂々と無視をされる方も、誰とは申しませんがこの場にはおいでになりますからね」


田豊さん……? 何故貴女は私や雪蓮さんの方を見ながらそう言う事を話されるのでしょうかねえ? 朝廷の発布を完全無視するなんて……その様な失礼極まりない事など私は四、五回程しかやった事はありませんよ。まあそんな事はどうでも良いのです。取り敢えずは話を先に進めないとねえ。


「はいはい、伝達事項は以上ですか? ならば、ちゃっちゃっと始めてしまいましょう。大まかな事は終えたとはいえ諸々の細かい打ち合わせは、かなり残っていますからので、あまり余計な時間は取れませんからねえ……」


「はい、ではこれより司空袁周陽様直筆の書状を読み上げさせて頂きます……」


田豊さんは洛陽の袁周陽様からの指示書を皆の前で滔々と読み始めました……まあ、内容に関しては袁周陽様に提出した、この二ヶ月程に我々が行って来た活動を元にした報告書、それに対しての返答であって、もっと具体的に言えば、我々情報室が行ってきた改革一つ一つに対して、袁家重鎮の御二人に決裁を仰いだ結果の発表と言う所でしょうかねえ。


ああ、そう言えばこの南陽編の御話しって孫家の顔見世や美羽御嬢様主従のお馬鹿具合などが主だったので、我々洛陽組が南陽でどの様な仕事をしてきたのかを、殆どこの馬鹿作者は書いていませんねえ。丁度良い機会ですのでこの二月ほどの間で我々が行ってきた仕事の一端を御説明致しましょう。


まず最初に手を付けたのは有能ではあるけれども汚職に手を染めていた官吏達と無能なくせに出自だけで無駄に上級職についていらっしゃる方々の人員整理であって、その後に大量に空いた管理職等のポストに事前に調査済みだった適正な人材を配置する事でありました。一例としては美羽御嬢様の親衛隊長に抜擢した紀霊さんがこれにあたります。まあ後は月並みではありますけれども予算等の見直しや、現行の税制の改革と新たな制度に伴う法整備、南陽城内の警備体制の再構築に民間の自警団の結成と団員の武術調練、南陽城内のインフラ整備の計画に、現代日本の自衛隊の様な仕事をして貰う為、孫家の兵達の中から新たに特別工兵隊を選抜させ、城外の開墾を主にした屯田兵の任も同時に果して貰う様にしました。


まあ、まだまだ重要な事にも手を付けたのですが、丁度、田豊さんの書状の読み上げも終わったみたいではありますし、あまりにダラダラと書き続けるのもどうかと思いますのでこの辺りで終わらせて頂きますがね。


「………………以上が汝南袁家を代表される御二人の御考えでありまして、有体に申し上げれば此処南陽で御頭様主導で行われた改革は全てにおいて承認されました。ですから今後は速やかに旧城主である公路御嬢様達から新城主になられる孫伯符様への政務の取り次ぎを行ったうえ、早々に洛陽の司空様の下へ孫伯符様自ら新任の御挨拶に行かれますようにお願い申しあげます」


「え~っ、私が行かなきゃなんないのぉ~っ……面倒臭ぁ~いっ!! ねえねえ、冥琳……」


「却下だっ!!」


「ええ~っ!! 何それぇっ!! まだ何も言ってないじゃないっ!!」


「その様な戯言なぞ最後まで聞かずとも、大凡察しは出来る。どうせ私にお前の名代として洛陽に行けと言いたいのだろうが、その様な事が出来ると思っているのか馬鹿者!!」


「ぶーぶーっ、何よぉう……そんな言い方する事ないじゃない……あっ、そうだこんな時の為に愛将がいるんじゃない」


「却下です!!」


「えぇ――っ!?」


「えぇ――っじゃ、ありません……いったい何をお考えですか、この御馬鹿頭首は……」


「あ――っ、今馬鹿って言った馬鹿って……アンタねえ孫家の頭首に向かってその言い方は無いんじゃないの!!」


「御馬鹿だから御馬鹿と言った迄です。大体城主の引き継ぎと言う大事な仕事を面倒臭いと言う一言で盟友の冥琳さんどころか孫家に関係の無い私に迄、それをフッて来るとはどういう了見でしょうか?」


「だって、アンタ、もう少ししたら洛陽に帰るんでしょう……そしたら、司空様や司徒様に愛将の方からね、無駄に良く回る知恵と舌とで私達孫家の事をうまぁ~く宣伝しておいてくれたら良いじゃない……」


「あ、あのですねえ……言うに事欠いて、「無駄に良く回る知恵と舌」とは何ですか失礼なっ!! まあ確かに無駄に回っているのかもしれませんが……」


「いやいや愛将殿、間違いなくそこは断固否定するところではないのか……」


多少自己反省を込めて、雪蓮さんへ返した答えを、冥琳さんに真顔でツッコまれバツの悪い想いをした私は


「と、とにかく雪蓮さんは、建業や寿春から移って来る孫家の兵達を冥琳さんや祭さんと共に一個大隊に再編成して出来るだけ早く上洛して洛陽の袁周陽様、次陽様と誼を通じてください。先に洛陽の御二人へ届けた書簡に、貴女方孫家の者を、間違いなく何大将軍に拝謁出来る様に取り計らってもらいたい旨も書き添えてあるので何事も無ければ将軍への拝謁は敵う筈です」


「なんと策殿が、先代堅殿の無念の死以来、久方ぶりに孫家の頭目として宮中に参られると言うのか……これは目出度い」


恐らく孫文台様が御存命中に共に宮中に上がったであろう祭さんが非常に感慨深そうに声を上げます。


「そして拝謁が叶い南陽の城主と認められれば直ちに南陽に戻り、今現在太平道の信者達が中心となって徐々に各地で起こっている武装蜂起を、速やかに鎮圧する為の軍を編成して下さい。私の考察からすれば恐らくそれまでに、今は一見平和に見えるこの南陽辺りでも直に武装蜂起が起こり始める筈ですから」


細作達の報告によれば既に荊州や豫州の一部に於いて、既に黄巾の武装蜂起が確認されているとの事なので、私はそれらの諸事情を考察した予測を雪蓮さん達に話します。


「その時こそが私達が主体の新たな孫家の初陣になる訳ね」


「ふむ……そうだな欲を言えば我々の力だけで、此処まで来る事が理想ではあったのだが……しかし今となっては愛将殿達の御力添えに対して幾千の感謝の言葉を持ってしても感謝し足りぬな……」


雪蓮さんが獲物を狙う獣の様な目付きで言えば、冥琳さんは多少複雑な表情で私に感謝の意を示します。


「まあ、私としては貴女方孫家の方々に一刻も早く表舞台に立っていただきたかっただけですし、またそれをする事が私の義務だと考えて行動していましたので別に冥琳さんに感謝して貰う必要はありませんよ」


「しかしそれでは……」


「冥琳。愛将がそう言ってるのだから此処はそう言う事にしておきましょう。恩は恩として私達が忘れずにいれば、いつか今出来る以上の恩を返す事が私達なら可能な筈だわ……取り敢えず今は洛陽に上った後の事を考えて行かないと、そう言う事で良いのよね愛将」


「ええ、間違いなくその時までには揚州に散らばっている他の孫家の方々も此処南陽に合流されるでしょうから、出来るだけ新生孫家の強さを周りの諸侯達に知らしめる様にして欲しいのですが大丈夫でしょうか?」


私は偽りない本心で雪蓮さんを筆頭とした冥琳さん、祭さん、穏さんに言葉をかけます……が、この方達の実力は既に折り紙つきですし、私如きがどうのこうのせずとも間違い無く今後の乱世には台頭して来られる方々ですので、まあ、いらぬ心配なのですがね。


「大丈夫か……ですって、愛将。それは一体誰に言っているのかしら?」


案の定、先程よりも更に挑発的な目付きとなった雪蓮さんが私の言葉に反応します。


「私達の事よりも愛将の方こそ大丈夫なのかしら? 私達には今後の乱世を生き抜いて行く為に必要な武力があるけれども、残念ながら愛将、貴方のその類稀なる知力は認めるけれど、純然たる諜報機関の貴方達には戦う術は無いに等しいわよ。一番武力がありそうなそこの曹家の性悪女だって、いつかは陳留の従姉妹の下に帰るんでしょう? それに袁家家令と言った所で愛将は別に袁家の身内と言う訳でも無いのだから、袁家の後ろ盾だって無いのも同然だし……そうだ愛将! アンタいっその事、春日や優希と一緒に孫家に入りなさいよっ!! そうよそれが良いわっ!!」


「はあ? また何を突拍子もない事言いやがりますか貴女は……以前にその御話は丁寧にお断りした筈ですが」


「あの時は私達の傘下に来ないかって言った筈よ……」


「あの時……って今もそう言う御誘いでしょうに?」


「全然違うわよっ!! 今私は孫家に入りなさいって言ったの。聡い愛将なら分かるでしょうけれど、孫家に入るって事は愛将の血を孫家に入れなさいって事だからね」


「はいぃぃぃぃっ?」


「愛将なら私に極めて近い一族の子……蓮華や小蓮でも安心して任せる事が出来るし、勿論此処に居る冥琳に祭や穏でも愛将が望むのなら吝かではないわ。どうかしら素敵な提案でしょう」


「なっ……!! 雪蓮っ! いきなり何を……」


「あら、冥琳……私の提案に何か不満でもある?」


「当たり前だ!! 全くお前は、また思い付きでいい加減な事を……」


「冥琳。残念だけれどこれは貴女が今言った様な思い付きで考えたものでは無いわよ……それが証拠に、もしも愛将が私の事を望むのだったら、私は喜んで愛将を私の婿として迎えるわよ。それに冥琳、貴女だって愛将の事は満更でもないくせに……」


「なっ、何を馬鹿な事を……」


いやいやいやいや、一体何がどうなれば先程迄の話が、此処まで飛躍して来るのですかねえ……ああそう言えば、確かこの人ゲーム内の孫家ルートでも北郷一刀君に「種馬」の役割を与えちゃう様な人でしたっけ。


「全く……このじゃじゃ馬は、どういうつもりで世迷言をベラベラと喋っているのだろうね。言うに事欠いて愛将を孫家に入れ、剩、自分の婿にするだなんて……」


あっ、やっぱり華炎さんが即座に雪蓮さんの言葉に反応しましたねえ……なんかもうこの二人って何気に良いコンビなんですよね。断金の仲の冥琳さんとは多少違ったツッコミをしますが……まあ、何と言うか似たモノ同士……と、でも言うんですかねえ。


「何? 曹子孝、貴女も私の提案に不満があるのかしら?」


「不満……? 人語も解せぬ者に不満などを言っても分からないだろう。以前から思っていたのだが孫伯符、君には少し教育の必要があるようだね。丁度良い機会だよ後顧の憂いを絶つためにも、此処でキチンとケリを付けておこう愛将は一体誰のものであるかをね」


華炎さんは、そう言うと何時の間に用意したのか愛用の戟を携えてスルスルと庭に出ます。しかし、誰のものって……


「ちょっ、ちょっと華炎さん。貴女、何を物騒な事言ってるんですか、雪蓮さん、貴女もこんな挑発には乗らないで……雪蓮さん……」


「へぇ~、アンタが私にどんな教育をしてくれるのかしら……言っとくけど愛将が絡んでいる事なのだから手加減なんて出来ないわよ」


雪蓮さんも何時の間にやら『南海覇王』を無造作に引き抜いて庭に向かいます……いやいや貴女方、今迄、武器など持ってなかったじゃないですか!!


「いやいやいや雪蓮さんも、何『南海覇王』を抜いて凄んでらっしゃるんですか……二人とも落ち着きましょう。ねっ、ねっ、争いは何も生まないですし平和が一番!! だからお互い武器を引いてくださいっ!! ねえほら皆さんも見てるだけでなく私と一緒に二人を止めてくださいよぉっ!!」


私は雪蓮さんと華炎さんの間に両手を広げて立ちながら部屋の中を見回しますが、部屋の皆は、まあ何時もの事だしねえ的な生暖かい目を投げて寄越して来るばかりで一向に埒が明きません。そうこうしているうちにも私を挿んで両側に居る野獣二匹(失礼)の殺気は見る見るうちに膨れ上がり、正直言って私自身が二人の氣に中てられて気絶しそうになった時。


「あのぉ~、御取り込み中に誠に申し訳ありませんが、ちょっと御時間宜しいでしょうかあ……先程の司空様の書状ですが実はもう一通、最重要の書状があります。ですからそちらの方を聞いて頂いた後でしたら、御二人とも再教育でも殺し合いでも存分に御遣り下されば結構だと思いますので、今は暫し止めて頂きますか。最も内容を聞かれたら争う事も無いとは思いますが……」


この緊張度MAX状態の腰を折る様に脱力感満載の声音で田豊さんがトテトテと皆の前に出て来て話し出します。その絶妙なタイミングに、当事者の二人は完全に間合いを外され毒気も抜けた表情で、渋々と田豊さんの方に向き直らざるを得ませんでした。

取り敢えず、長くなっちまったので分割します。


んでもって、前半戦終了、続きは後半戦で……     堕落論でした。

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