南陽改革 大作戦!! ――改革狂想曲 午後の部 そして物語は静かに動き始める――
はいどうも、不定期更新駄目作者の堕落論でございます。
今回はかなり早く更新出来ました……と、言うよりも前回と今回はもともと一つの話であったのを、あまりにも一話が長くなりすぎるのでぶった切っただけの話なんですがね……
取り敢えず、次章への動きが徐々に出てきていますし、一刀君も華琳の下で保護されました。さてさてこれから話しはどう転がって行くのでしょうか……
では後書きでまたお会いしましょう。
――― 夕食前 南陽城内 曹子孝(華炎)執務室 ―――
「で……?」
「で……とは? 藪から棒にどうしたのかな、愛将?」
「え~と……なんで私は華炎さんの執務室でずっと正座をしたまま政務をしなければならないのでしょうか? どうも椅子に座って仕事をされている貴女と向かい合っていると、見降ろされている様な威圧感があるのですが……」
「ふうん……愛将、君は今の状況に至った訳を丁寧に僕に説明して欲しいのかい?」
「いえ……至極残念ではありますが事此処に至った顛末は充分理解出来ていますので……結構ですよ」
「ふむ……ならば文句を言わずに溜まっている政務を片付けたまえ」
考えもつかなかった優希さんの暴走による狂乱の昼食会の後、警備の方々の通報によって城から素っ飛んできた華炎さんに、引き摺られる様にして南陽城に連れて帰られた私は、華炎さんの執務室に連行された挙句、強制的に正座をさせられての書類整理等を今の時間まで続けています。
「早く、此方の竹簡に君の印を頼むよ……それが終わればじゃじゃ馬が連行してきた汚職官吏の調書に目を通して、その後は、そこの卓上に置いてある、明日の面接で新規に登用をする官吏の身上書に目を通しておいてくれたまえ」
「あのお……華炎さん……」
「何だい? 僕だって忙しいんだ、用件は手短にお願いしたいものだね……」
「いや、大した事では無いのですがね…………」
「だから、一体、何なんだい。別に後廻しじゃあいけないのかい……? あっ、それとこっちの竹簡は張勲が、採算を度外視して行った馬鹿な行事の出納帳だよ。これも今日中には計算のし直しを終わらせておいてくれたまえよ。それと君が推している孫家の者達の今後の処遇や登用の意見書も、此処に置いておくから……これは本日中にでも目を通して明日朝一番にでも君の見解を添えて僕に提出してくれたまえ」
「だから……華炎さん。先程から貴女がこちらに廻して来る仕事量を考えると明らかに私の一日の処理能力を越えてますよね……それに私、あのドタバタ騒ぎ以降、此処に座らされて休憩も頂いていないんですけれど……」
「何気に仕事が捗って良いだろう」
「酷いっ!! 即答なんて……華炎さん、貴女、一体何処の鬼嫁ですかっ! せめて息抜きが出来るぐらいの自由な時間を一刻程で良いから私にいただけませんかねえ」
前世での勤め先での年末進行の時でさえ、此処まで酷い労働条件では無かったですよ。いやまあ拘束時間は遥かに短い筈なのですがね、如何せん正座をしての政務……と言うのは肉体的にもそうなのですが何よりも精神的にくるモノがありますよね。
「愛将……これだけ眼前に片付けなければならない仕事が山積みされているのに、君は何を甘えた様な事を言っているのかい?」
「ええ、確かに私の眼前には、考えたら負けなぐらいの量の仕事が山積みされてはいますが……」
「そうだろう、これだけの仕事量を見て、まだ休憩が欲しいだなんて、君は、一体何を考えているんだか…」
「ちょっと待って下さい。別にこれって本日中に片付ける様な仕事では無かった筈だと記憶しているのですが……」
卓上に堆く積まれている竹簡の一つを手に取ってみた私は、その竹簡に書かれた内容を確認した後に華炎さんに向かって抗議の意を示します。
「愛将……君は一体何を言っているんだい? 元々南陽に着いてから何日か放っておかれた為に当初の日程とはズレが生じて来ているのだよ。おまけに、孫家のじゃじゃ馬や公路嬢ちゃんに必要以上に君が関わりを持つから時間などいくらあっても足りやしないじゃあないか」
「しかし、作業効率の観点から言っても長時間の労働には適度な休憩と適切な糖分の補給が必要な事は、以前から私が部局内で貴女方に繰り返し言っているじゃあないですかあ。此処は私司馬仲達、この部局を統括する責任者として、断固として貴女に休憩を要求いたします」
どうですか……何か知らぬうちに寄ってたかって女性陣にヘタレキャラにされているみたいですが、本当の私はヤレば出来る子なんですよ。いつまでも華炎さん達の尻にひかれている様な男の子じゃあないんですよっ!!
「愛将……これが何だか分かるかい?」
華炎さんは私の抗議にも全く耳を貸そうとせずに、それほど厚くない竹簡を私に投げて寄越します。
「何ですか……これ? 何かの請求書の様ですが……」
「それは君が本日の昼に羽目を外した飯店からの請求書だよ」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ。羽目を外したって……あれは最終的に優希さんが突っ走っちまっただけで、私は寧ろ被害者ですよ」
「確かに君の視点から見れば、君は立派な被害者なのだろうが、今回飯店で騒動を起こした優希と公覆様だけれども、優希は言うに及ばず公覆様も一時的な処置とは言えども両名とも君の配下の者だよねえ」
「はあ……まあそうなるのでしょうが……それがどうかしましたか?」
「君にこの様な事を言うのは心苦しいのだけれど、一般論として述べれば部下の責任と言うのは部局の長が取るものであってだね。この場合で言えば優希や公覆様が現在所属している部局は何処で、その責任者は誰だい?」
「うっ、そ、それは…………」
「まあしかし、現実的に君を罰しようとしても恐らくどの様な刑罰も君には当て嵌まるものではないのだけれどね。それでは罰にならないって春日が言うから、罰金と僕の監視の下での半日の強制労働と言う事で春日の許可を取ったんだよ」
「何故、そこで春日さんが口を出して来るのでしょうか……? まあ強制労働の方は現在の処遇を見れば明らかな訳ですが……まさかっ!!」
私は先程華炎さんがこちらに投げて寄越した竹簡を広げてみます。
「なになに……食事代500銭、飲酒代800銭、調度品修理費350銭等々…………で最後に店に対する慰謝料として1000銭……で、都合5000銭っ!! 馬鹿ないくらなんでもこの金額は……貴女店ごと買い取る気ですか?」
「何を大袈裟な事言ってるんだい。5000銭ぐらいで飯店が丸ごと買い取れるわけ無いじゃないか。まあ良くいっても君の給金の二回分相当だね」
「あのお……今何とは無く不穏な言葉が聞こえたのですが? 私への罰金と言うのは……」
「ああそうだよ。もう理解出来ているとは思うけれども、今回、件の飯店へ支払った賠償金は高額だったので一時的に『国家戦略情報室』が立て替えた様な形を取ったけれども、次回の君の給金から無理のない額を分割して僕の方で差っ引かせて貰うので宜しくね」
「い、いや、宜しくねって……」
「ヨ・ロ・シ・ク・ネ」
「はっ、はいっ。了解いたしましたぁ……」
怖ぇえ……怖ぇえっすよ。流石は曹孟徳さんの従姉妹です。笑顔が孟徳さんと瓜二つですし背負う威圧感がマジパネエッス。とにかくこれ以上私がこの件について文句を言い続けると、言葉に出して言うのも憚られる様な結末しか、脳内に思い浮かびませんね。ですからここは早々と白旗を揚げた方が賢明ですねえ。んっ? ヘタレ解消……やれば出来る子? 何言ってるんですか私だって自分の命は惜しいのです。自分で言って悲しくなりますがね……
「どうやら快く了解してくれたみたいで嬉しいよ。ところで全く話は変わるけれども、ここ数日の間に洛陽を始めとして各地に散っている細作から、幾つか君の判断を要する書状が届いているのだけれど……」
「書状……? そういえば最近報告があまり上がって来なくなったとは思っていたのですが……」
「ここ数日でかなり頻繁に書状は各地の鷹によって送られて来てはいたんだがね。改革と同時進行で収集と分析を行っていたので、君に伝えるのが遅れてしまった。これについては僕の不手際だ、全く申し訳ない」
「いやいや、ここ数日の忙しさは半端じゃ無かったんで気にする事は全くありませんよ。ところで細作は各地に放っていますがどの地域からの情報ですか……そして内容は……?」
先程迄とは違った緊張感が、私と華炎さんの間に走ります。
「取り敢えず最重要だと思える案件が三件ほどあって、洛陽からが二件と、陳留からが一件」
「洛陽と陳留ですか……大凡察しは付きますが、まずは洛陽の件から御聞きしましょう」
私がそう言うと華炎さんは御自分の前に置かれている、明らかに他の竹簡とは区別された竹簡を私の方に寄越します。しかし、華炎さん……私は今の様なシリアス展開でも正座のままなんですね。
「まずは以前から君が行方を追い、可能であるならば身柄の確保を指示していた、各地で歌芸を披露して回っている張三姉妹だが。洛陽の都へ入ったのを確認後、直ちに身柄を確保しようとしたらしいが、またもや既の所で姿を見失い、その後の足取りが全く掴めないそうだよ……一体これで彼女達に撒かれたのは何度目だい? 我々の細作の中でもそれ相応に優秀な細作達が彼女達を追跡している筈なんだがね」
憤懣遣る方無いといった表情で華炎さんは嘆きますが、細作からの報告書に一通り目を通し非常に嫌な予感を感じた私は考え付いた事を華炎さんに話してみます。
「華炎さん……此処まで我々の細作が裏をかかれ出し抜かれると言うのは、恐らく三姉妹に我々の細作をも上回る程の手だれの者が陰ながら協力しているのではないでしょうか?」
「君が自ら訓練した細作達をも手玉に取れる者達なんて……」
「私の知る限り我々の細作達と実力が伯仲し、剩、それを凌駕する者達と言えば……帝付きの細作達と言う事が考えられます」
「帝付きの細作達だって? 仮にそいつ等が手を貸していたとしても、何故帝付きの細作が……?」
「さあ、ただあくまでも想像の範疇を越えませんが、帝付きの兵だからと言って必ずしも帝が直接指示を出すとは限りませんからね」
「それってどういう事だい……?」
「例えば帝の極めて近くに仕える者達が、自分達の都合の良い様に勅令を偽って禁軍を動かす事などは、今迄の歴史の中で何度も行われている行為ですよね」
「君は帝の側の者が、その様な行為をしていると言うのかい……例えば帝の側近と言われれば、まずは十常侍達の事になるのだが……」
「今言った考えはあくまで一つの可能性と言った所ですよ、十常侍達が直接に関わっていると決まった訳ではありません……が、起こり得るであろう最悪な事態を想定して対応策をいくつも用意しておくことが我々にとって肝要な事ですよ」
華炎さんの手前、十常侍の関与を確定的には言えませんが、十中八九彼等の関与は間違い無いでしょう……今の時代に、極めて公的機関に近い我々の情報網から逃げ果せるのは公的機関の方々のみですから
「まあ、月並みな答えですが張三姉妹については行方を追う事は継続して下さい。そして無駄足に終わるかもしれませんが豫州、潁川の波才と言う人物を探し出して徹底的に監視する様に豫州の細作頭に伝令して下さい」
「了解だ。しかし波才なる人物とは一体誰なんだい? 僕が処理している情報の中には一度も名前が出た事が無いと記憶しているけれども」
「すいませんねえ……これも訳あって御教えする事が出来ないんですよ……しかし、今現在抱えてる種々の問題が片付いたら全て貴女方に御話しますから、今は私の事を信じて頂きたいのですが……」
「またそれか……ふっ、まあしょうがないね。(これも惚れた弱みかな……)」
「ありがとうございます。で、もう一件の方は?」
「ああ、それなんだけれども、君が任官を働きかけていた河東太守の董仲穎様が上洛されて、司徒袁次陽様と司空袁周陽様、両名のお引き回しによって北中郎将にお就きになられたらしいよ」
「そうですか、やっと表舞台に出て来られましたかあの方は……」
「君は随分前から袁次陽様に董太守の事を推薦していたけれども……以前に会った事でもあるのかい?」
「いや一度もお会いした事は無いですよ……ただ以前董太守が、涼州で馬騰様と共に胡族を撃退した事を聞いた折りに書簡を通じて何度か遣り取りを致しましたし、私の懇意な羌族の顔役を通じてもお互いの近況等を通じあってはいましたよ」
「ほ~う、君は僕達の知らない所で色々とお盛んな様だねえ……」
へっ? なんで華炎さんの目付きが一瞬で絶対零度の冷気を湛えた目付きになるのでしょうか? 私はただ、董卓さんは素晴らしい君主になれる素質をお持ちの方なので、色々誼を通じているだけなのですがねえ……
「え~と……華炎さんの仰っているお盛んの意味が今一掴めませんが、まあそれはそれとして、此処だけの話として聞いて頂ければ幸いですが、私は今後我々が否応なく乱世と言うものに巻き込まれて袁家以外の陣営に降るとしたら、私は董太守の所を第一候補に考えています」
「薄々分かっていた事ではあるけれども、やはり君はどうあっても華琳の所には来てくれないのだね」
「ええ、申し訳ありません、華炎さん。孟徳さんと私の考えはあまりにも相違が有り過ぎます……」
「僕が華琳と愛将の仲立ちをする……と、言っても無理なのかい?」
「恐らく始めの頃はそれでも上手く行くのかもしれませんが、孟徳さんの考える覇道と言うのが進めば進むほどに私の考えとの乖離が激しくなるでしょうし、そうなれば華炎さん、仲立ちをしている貴女の自国に於ける立場が非常に微妙なものになりますからね……私は自分の事はともかくとして、巻き込まれる貴女を見るのは嫌ですからね」
「ふっ……そうか、あ~あ、君達が華琳の下に来てくれれば、何一つ出来ない事は無いだろうと、ずっと考えていたのだけれど……」
「すいませんねえ。華炎さん」
「まあ、こんな時代だから、それもしょうがない事なのかもしれないね……ところで、洛陽からの報告は以上だよ、董太守に関する書状は優希が連れ帰って来た【流星】で洛陽に飛ばしてくれたまえ」
「了解しました。明後日までには何らかの回答を洛陽の袁次陽様に飛ばしましょう。最後は陳留の件ですね」
私がそう言うと華炎さんは急に難しい顔になり考え込んでしまいます。
「どうされましたか?」
「いやあ……これは君に報告する様な内容かどうかが未だに判別出来ないのだけれど……」
一体、華炎さんはどうされたのでしょうか? 考えが纏まらずに何度も言おうとしては又黙るという、普段非常に快活な華炎さんに全く似つかわしく無い行為を繰り返しています。暫くその姿を眺めていた私ですが、今の時期の陳留からの報告と言う事で、何とは無く事情が呑み込めた所で華炎さんに質問してみます。
「華炎さん、ひょっとして陳留から報告が有ったと言うのは、孟徳さんの所に『天の御遣い』と呼ばれる者が保護されたと言う報告ではないですか?」
「なっ、なんでそれを……」
「ふむ……やはりそうでしたか」
「いや、陳留から報告してきた書状を読んだ時点で僕達でさえも、あまりに荒唐無稽な与太話としか思えなかったのでどうしようかと考えたぐらいだけれども、確か此処最近、巷で噂になっている菅輅の占いの内容に関する情報は全て、愛将の元に上げる様に通達が出ていた筈だから……」
華炎さんはそう言うとまた困惑の表情で黙ってしまいます。まあ普通に考えれば御自分でも一目置く様な立派な従姉妹の下に『天の御遣い』を名乗る、どうみても怪しさ満点の男が現れて、殺されない処か興味を持たれて側近として侍っているのを報告したくはありませんよね。
「まあ、華炎さんが口籠ってしまうのも充分理解は出来ますがね……で、その御遣いさんとやらは占い師さんの言った通りに流れ星にでも乗って来たのでしょうか?」
「い、いや、細作からの報告によれば、どうやら五胡の妖術使いの様な事を華琳の眼前でやったらしい……そしてそれを妖術では無いと考えた華琳が、余計な誤解を生まぬ様にその男を『天の御遣い』と命名したらしいが……」
ほ~う、大体この流れは真恋姫の魏ルートに沿った流れの様ですね。しかし非常に不思議なのですが、確かあのシーンって一刀君が連行されて行ったのは陳流の街の何処かだとは思うのですけれども、うちの細作達はどうやって今華炎さんが言った様な事を調べれたのでしょうか? まさに細作恐るべしって所ですよねえ。
「まあそれはそれとして、孟徳さんの所に『天の御遣い』が降ったと言う事は今後の趨勢においても非常に大事な事と理解してくださいね。これは『天の御遣い』が偽物であろうと本物であろうとも大した事ではありません。何故なら今現在重要な事は、将来的に非常に大きな力を持ち大陸の覇権すら握れそうな者が、人知を越えた『天』と呼ばれる存在を手に入れたのです。これは後々、孟徳さんの立場の正当性や神秘性を強固にする可能性が充分にあります」
「しかし、『天』と呼称する事は帝に対しての不敬に当たるんじゃないのかい、華琳がその様な事をするとはとても思えないのだがね」
「恐らくは、その様な些細な事は全て織り込み済みで孟徳さんは行動してますよ。まあ差し当たって今は派手に動かないとは思いますがね……」
「何故、そう思えるんだい?」
「う~ん……何故と言われてもねえ。まあ一言で言えば、今はまだその時では無い……と、言う所でしょうかねえ」
「その時では無い……?」
「ええ、切り札を使う場所はまだまだ先……と、言う事ですよ。お互いにね……」
そう言って黙り込む私の顔を、華炎さんは何とも言えない不安気な表情で覗き込みます。その時、私は私自身が今後進んで行かなければならない道と、それによって取らなければいけない行動とが徐々に形作られて行く事をハッキリと感じていました。
駄文、拙文をお読み頂いてありがとうございます&お疲れ様でした。
残り二話程で南陽編終了致しまして、やっと第二章の黄巾編に入れそうです。だらだらと続いて行っていますが、これもひとえに作者の文才の無さで申し訳ございません。
今後も頑張って続けて行きますので宜しかったら末永く御付き合いの程をお願い致します。
それでは次回の講釈で…… 堕落論でした。