南陽改革 大作戦!! ――改革狂想曲 午前中――
はいどうも、今回は多少早めの更新が出来た堕落論です。
今回は南陽改革ドタバタ編の午前中でございます。何事も無ければドタバタ編午後の話が2~3日後には更新の予定でございます。
では拙文、駄文ですが楽しんで頂ければ幸いです。
――――荊州滞在十二日目 南陽城内 「国家戦略情報室 南陽支部 改革推進庁」――――
南陽城内の南側の部屋四つ程を貸し切りとした場所が我々「国家戦略情報室 南陽支部 改革推進課」の執務室です。なんか県庁や市役所の中の一つの課みたいな名前ですねえ。
組織構成ですが、元々臨時的に置かれた部署であるので不肖私、司馬仲達が改革推進庁長官、副官には洛陽の本初さんの所から強引に引き抜いてきた田豊さんと孫家からお借りした周瑜さんを配置しました。取り敢えず華炎さん達を副官に添えなかったのは私の仕事のやり方や考え方を他の方達にも知っておいて欲しかったので、副官は田豊さんと周瑜さんにお願い致しました。
更に、税制絡みで現代で言う所の財務省の役割を臨時的に行う部署の責任者は陸孫さんで、副官が華炎さん。此処南陽城を中心とした新たな区割りの作成、及び、商人達が組んでいる座の様な組織との取り次ぎ役や農地の整理や改善、流民として無職状態になっている者達への仕事の斡旋、そして此処に住み暮らしている民達の戸籍の整理等の責任者に優希さんと春日さんを任じました。
又、春日さんが入念に調査した汚職官吏達や袁家の名前を使用して暴利を貪っていた袁家の縁者達は、昨日付けで臨時的に都尉に任命した伯符さんが、公路さんの所の兵卒を使っての警察権を行使しており、その副官には高覧さんや黄蓋さんを配して強制的な捜査も行って頂いております。
今回の御話は、そんな我々のドタバタとした一日を皆様に除いて頂きましょうね…………
――――早朝 新官吏登用の為の面接――――
ここは我々に貸し与えて貰っている部屋の一つで新規官吏の登用の際の面接に使用している部屋です。本日は早朝から一人の武官の方を部局移動の為に招いています。
「どうも初めて御目に掛かります。私は司馬仲達と申しまして、只今この南陽での改革全般を司らせて頂いております。本日は早朝より御足労をお掛けして申し訳ありませんねえ」
「は、はぁぁ……」
「ああ、そんなに緊張する様な事はありませんよ。肩の力を抜いて下さいね。紀霊さん」
「はあ……? ありがとうございます。しかし、司馬様、何故私は此処に呼ばれているのでしょうか? 何か私に落ち度でもございましたでしょうか?」
「いえいえ、決してその様な事はありませんよ。実は、本日より貴女には今迄のとは別の仕事をして頂く事になりましたので、その説明をと思いまして、失礼とは思いましたが早朝から貴女をお呼び立てさせて頂きました」
「ええっ!! 私、やっぱり何か大きな失敗をしたんですか……司馬様っ!! お願いします、牛馬の世話でも、飯炊きでもなんでもやりますし、これまでより、何百倍も一生懸命働きますから、この不景気で就職難の折りに、どうか、どうかクビだけは勘弁して下さい」
いやいや、別に私は貴女の事を罷免するだなどとは一言も言ってない筈なのですがねえ……
「う~ん……何か、壮絶な勘違いをされてる様ですが、これまでよりも一生懸命働いて頂けるのは、大変結構な事ですねえ」
「勘違い…………ですか?」
「はい……えぇ~と、貴女の事を此処暫く拝見させて頂いたのですが、貴女は今の部局の上司の方に正当な評価を全くされておられませんねえ……」
「あっ……いや……それ……は……」
「ああ、別に皆まで言われなくても結構ですよ。貴女が現在の上司に当たる方に賄賂を出さなかったが為に、貴女の実直な働きぶりが歪曲されて伝わっていた事や、実は貴女はかなり優秀な三尖刀の使い手であるという事などの調べはこちらの方でついておりますからね……」
「な、なんでそんな事迄……」
「まあ、諸々の事をかなり迅速且つ、力技で片付けなければいけないので、それ相応に優秀な方々の事前調査は以前から行っているのですよ。で、紀霊さん、突然ではありますが貴女、明日から公路さんの親衛隊の長になって頂けますか?」
「はいっ? 今何と仰いました?」
紀霊さんは驚愕に目を見開いたままで私の方を見ます。
「聞こえませんでしたか? 貴女を本日只今より、袁公路さんの親衛隊隊長に任命しますと言ったのですよ。はい、これが任命書です。この任命書を持って隣室の田元皓さんの所へ行き、今後の御給金や、待遇改善、貴女の下に付く部下の事等の詳細を聞いたうえで再度、此方に御戻り下さいね」
「い、いや、私……そんな、公路御嬢様の親衛隊……それもいきなり親衛隊長なんて、とてもじゃあないですけど無理ですよ……」
今にも泣き出しそうな顔で紀霊さんが私の顔を見て来ますが、私は敢て無視をして。
「泣き言は一切聞きませんよ。紀霊さん、私は総合的に見て数多有る役職と限られた人材の中で、貴女がこの任に一番適任であると断を下したのです。それを無理と言われるのならば……」
「言うのならば…………」
紀霊さんがゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえ、私は態と一拍置く様にして多少の演技を含めて重々しく答えます。
「貴女が働く場所は、この袁家の何処にも無いという事になりますねえ……」
「今すぐ、隣室で説明を受けて参りますっ!!」
「んっ……賢明な判断ですね」
素早く任命書を掴んだ紀霊さんが、脱兎の如く隣室へと駆けだして行く後ろ姿を見送りながら、やれやれと言った表情で首をコキコキと鳴らしながら自分の肩を叩いていると
「全く……御見事なものだな。綿密な下調べに有無を言わせぬ遣り取り……素晴らしい駆け引きだ」
「どうしたんですか? そんなに褒めたって何も出ないですよ……公瑾さん」
「いや……別に誉めている訳では無いのだが……しかし、司馬殿が放っている細作は余程に優秀なのだな、先程の紀霊と言う者は、細作が調べていても気付かないほど鈍い者では無く、寧ろ己の身の回りで怪しい動きをする者がいれば直ぐに気付く武人と見えたのだがな……」
「まあ、それ相応に家の細作達は優秀ですからねえ。宜しければ我々が洛陽に戻った後に孫家の方で彼等を利用されますか?」
「……本気で言っておられるのか?」
「本気ですが? ああ、彼等を手元に置いた後に、彼等が孫家の内情を此方に流す事を御懸念ですか。それは全く御心配には及びませんよ。彼等は飽くまでも契約で主従関係が成り立っている一流中の一流です、彼等の信頼さえ損なわなければ、仕事は仕事として一切の私情を挿まずに完遂させます。契約が終了し、次の雇用者の下に行けば以前の事は関係なく雇用者の為に骨身を惜しみませんよ」
「貴殿はそれを信じているのか……?」
「そりゃあ信じますよ。彼等を長年にわたってその様に教育したのは私自身なのですから」
「なっ!!」
「私の下で活動している細作達には長い者で十年以上、私の下に仕えています。その間に諸々の事を想定して、お互いに情に流されない関係を構築した上で、何時如何なる時でも生き延びていける様な教育を施しました」
まあ、それもこれも転生時からの記憶を保有している事と、知識が今現在のモノだけでは無く二千年後の知識まで保有しているからこそ出来る芸当ですが……
「普通に聞けば狂人が言っている戯言としか思えんのだがな……だが、貴殿が其処まで言い切る所を見ると信じたく無くとも信じねばならぬのだろうな…………」
「まあ、其処まで言われる程の事では無いのですが……公瑾さんの方で興味が有るのならば一度、周幼平さんと共に此方に御出で下さい」
「仲達殿っ!! 何故、幼平の事まで……? いくらなんでも此処南陽にいない者の事まで……」
驚愕……と、言うよりは猜疑心で凝り固まった様な表情で公瑾さんは私を睨みます。
「幼平さんの事だけでは無く、孫仲謀様や、貴女方孫家が極力表に出さぬ様にしている孫尚香様等の動向も、寸分洩らさずに我々の下に情報として入って来ていますよ」
「仲達殿っ!!」
「落ち着いて下さい、公瑾さん。言い訳がましくなりますが、これらの情報は孫家の情報だけでは無くて、例えば洛陽の中常侍達の事、遠くは幽州の公孫家の事、近くは貴女方が孫文台様の敵として狙っている荊州劉家の内情等の諸々の情報が、我々「国家戦略情報室」には集まって来る様になっているのです」
私の言葉で、公瑾さんの顔が怒りから、何か得体の知れないモノを見る様な表情に変化していきます。
「貴殿は一体何を考えているのだっ!!」
「私は以前に貴女方孫家にお伝えした通り、私が目指すこの国の理想形を目指して行く為に、私なりの考えで行動しているだけですよ……ただ一言申し上げれば、私の目指す国は今迄の王朝の様に力を持った個人が創り上げた後に世襲して行く国では無く、多くの力を持った諸侯達が共同で創り上げて行く国家を目指しますがね」
「共同で創り上げて行く国家だと……その様な夢物語が実現できる訳無いであろうっ!」
「さて、一概に夢物語とは言えませんよ……私と致しましては、今後孫家の方々には、もっと広い意味でのこの国の行く末を考えて頂きたいのですよ。この広大な土地を、たった一握りの人間だけで治めて行く事を考えるなど愚の骨頂に等しいのです。国は民がいなければ国ではありません。そしてその民を蔑にする為政者に為政者たる資格はありません。どうかこの事を夢々忘れないでください。程無く孫家は独立を果たすでしょう、貴女方がその独立を果たした時から、当主であらせられる伯符様や貴女達に芽生える心が孫家による大陸統一などでは無く、出来る事ならば、この国に生きる民達の笑顔と希望を護る事を第一と考える我々と共に歩んで貰えればと私は願っていますよ」
私はそう言うと、呆然となった公瑾さんを部屋に残して次の仕事に掛かりました。
――――同日 昼前 新規に行われる税の徴収についての会議――――
新規官吏の登用面接の部屋を後にした私は陸伯言さんが議長を務める、南陽の文官達を集めての税制会議に顔を出します。
「えぇ~とぉ、次にぃ~、新規税の徴収に伴い、此処南陽での文官の総数を半分に減らす案件の審議についてですがぁ~」
相変わらず、語尾にポヨォ~ンと付きそうな伯言さんのマッタリ口調で場の雰囲気が中々締まらないのですが……
「その件ですが、ただでさえ城内の仕事はお嬢様の朝令暮改によって混乱が生じる為に文官の総数を減らす事については別駕従事達より強固な反対意見が出ておりまして、中々案件通りに進みそうもないですなあ」
如何にも御役人といった風情の老人が面倒臭そうに答えます。
「ええぇ~っ、そうなんですかぁ~。それは困りましたねえ」
「後、税を徴収した後の配分についてなのですが、新規に調達予定である新式鎧の整備に使用したいとの旨、軍部の張勲様より承っております」
此方は文官……と、いうよりは文武官とでも言うのですかねえ、まあ一言で言って脳筋野郎よりは幾分マシみたいなオヤジですねえ……
「でもお、今回の新規に徴収される税は全て南陽の民達が飢饉になっても多少は時間が稼げるよう備蓄に廻す事が決定済みだったのではないですかあ」
「いやいや、万が一と言う事で有れば食糧備蓄などよりも武器や防具を新しくした方が間違い無く我々の為になります。それ故、新規税を徴収の後には軍備の充実を図るべきであると進言させて頂きます」
「それは、承諾しかねますねえ。そもそも今回の税を徴収する目的はあくまでも南陽の民の事を第一に考えるのであって軍部の方の為ではありませんよお」
伯言さんが、そのノホホンとした口調とは裏腹に、怒気を含んだ目で件のオヤジとやり合っています。
「はっ!! 高々客将の分在であって袁一門の身でもない下賤の孫家の者が何を分かった様な口を利くか。つべこべ言わずに我々袁家一門の言う通りにすれば良いのだっ!」
遂にオヤジが、出自を嵩にきて伯言さんを罵り出します。ああ、これはいけませんねえ……仮にこれで伯言さんが口を開いても閉じてもお互いに禍根が残ります。それは私が望むところでは無いですねえ。
「はいっ! お互い其処までです……取り敢えず、袁家一門と言う言葉を連呼された貴方……此処から退出頂いて結構ですよ」
私は袁家の威光を嵩にきたオヤジに対して斬り付ける様な言葉を投げかけます。
「なっ、なんだとっ! 儂を誰だと心得ているっ! 貴様の様な何処の馬の骨とも分からぬ様な者とは違って、儂は四世三公の袁家「お黙りなさいっ!!」何っ……………!?」
「お黙りなさいと言っているのです。何が四世三公の袁家ですか……仮に貴方が袁家の関係者であるとしても、貴方如きがその様に尊大に振舞えるほどの大物であるとは到底思えませんねえ」
「き、き、貴様っ!!」
「まだ、御分かりになりませんか……仕方無いですねえ。では、愚か者の貴方にも分かり易い言葉で話を進める事に致しましょうか……」
「貴様、言うに事欠いて、袁家一門のこの儂に……」
私はギャアギャアと煩いオヤジに向かって懐から一通の書状を取り出します。
「あまり、こう言うものを持ち歩くのも、あまつさえそれを権力の行使の様に振り回すなど真っ平ごめんなのですがねえ」
「何だっ!! それは……」
「貴方が先程から馬鹿の一つ覚えの様に口にする袁家一門と言う言葉。その袁家一門の総帥である袁周陽様からの書状ですよ」
私が突き付けた、此処南陽に関しての袁逢様の代理委任状を奪い取る様にして読み出したオヤジの、酒を呑んだような赤い顔が見る見るうちに真っ青に変わって行くのに大した時間は掛かりませんでした。
「こ、こ、これは……貴方様は……一体」
先程と違って可哀相なぐらいの卑屈さで、オヤジが私を上目遣いで見て来ます。それはそうでしょう書状には、南陽における官吏の罷免権は言うに及ばず、場合によっては公路さんや張勲さん迄も拘束できるほどの権利を私に一時とは言え譲渡すると言う事が書き込まれている上に袁周陽様の印まで押されてあるのですからねえ。
「はい、取り敢えず、貴方が虎の尾を踏んだという事は御理解いただけましたか?」
私の言葉に、ただ黙って首だけをコクコクと頷いたオヤジに、私は今一度声のトーンを落として話しかけます。
「とにかく、貴方はこの場から退出して自宅で謹慎される事をお勧めしますよ。私の部下である張春華さんが調べていた袁家の名を使用して甘い蜜を吸っていた者達の中に、確か貴方の名も有った筈です……程無くして都尉である孫伯符さん、先程貴方が馬鹿にした孫家の方が貴方を拘束しに行くでしょう」
私の言葉に観念したのか悄然として俯き、力無く座っているオヤジを城内の警備の者に連行する様に言い付け、会議を再開します。
「さて……取り敢えず議事進行を邪魔する輩には御退出願った訳ではありますが……」
「ほえぇ~……凄いですねえ、司馬さん」
「いえいえ、伯言さん。いまの馬鹿者に対する貴女の毅然とした態度の方が余程凄いですよ。さて、それでは……」
会議室を見回すと先程迄、伯言さんに対して反抗的な意見を述べていた人達が、私の視線から目を逸らす様に俯いてしまいます。
「丁度良い機会ですから、私の考えを皆さんに御話しておきましょうか……良いですか、皆さん。今迄がどうであれ、新規の税を徴収する事で南陽の民に痛みを負わせるのならば、我々公僕たる者は一般の民が受ける以上の痛みを我々自身が背負わなければいけないのですよ。その我々が仕事を効率的に行う努力もせず、徒に人員ばかり増やして無駄金を使う事は南陽の民への裏切りに他なりません。まずは南陽城に於ける文官、武官の人員を削減し、城内の公費の無駄を省いた上で民達に新規の税制のお願いをする。これが肝要です」
私が喋っている間、伯言さんは、何処か艶っぽい目で私の事を見ていますが、あらら……? あれは確か劇中にもあった発情シーンですが……私何か伯言さんがそう言う風になるようなアカデミックな事なんて言いましたっけ? しかし何となくこのまま会議を続けるのは危険な感じがしますねえ。冗談抜きで喘ぎ声が出ない内に、本日の会議は解散した方が良さそうですね。
「まあ、取り敢えず此処にお集まりの皆様には、今一度、各部署で諸々の御話合いをして頂き、各々の解答を持って明後日に再度お集まり頂きたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
会議室の皆が私の意見に頷いた後、各々目礼をして退出していきます。暫くすると会議室には私と伯言さんの二人だけが残りました。今一度良く伯言さんを見てみれば……よしよしアレな雰囲気は落ち着いてますね……では私の方から……
「お疲れ様でした、伯言さん。次回の会合も、今日の様な仕切りをお願い致しますね」
「はぁ~いっ、分かりましたぁ~、でもぉ、今更ですが、わたしなんかよりも議長には司馬さんや子孝様の方が適任だと思いますけれどお……それに、税制絡みの役人の大半が我々孫家の者達が新規で徴用されていますが、それも本当に良いのですかぁ~」」
「ふむ、非常に良い質問ですねえ……もし、仮に我々が此の南陽の地に残るのであれば、大切な税制絡みの件については、余人を交えずに我々のみで、それを行うでしょうね。しかし、我々が改革を行う事によって南陽は現在より劇的に変貌して行く事でしょうが、残念ながら我々はその最終状況を見ない内に洛陽に帰らなければなりません」
「ほえぇ~っ……確かに、そうですねえ」
「しかし私は我々が洛陽に帰還した後に、南陽の民達を統治し導いて行くのは、伯言さん、貴女達孫家の方々であると、私は確信していますよ」
「ふえぇっ!!」
伯言さんは、私の言葉にかなり驚かれたのか、目を白黒させて私を見ています。
「先程、私が話した様に、改革を行うと言う行為自体は民に負担を生じさせます……その様な時に為政者自らが、己にかかる負担のみを軽減して民にのみ負担をかけると言うのであれば、その改革は間違いなく頓挫します。この原理は理解されていますね」
「はぁ~い~~」
「良い返事ですね……ではどのようにして円滑に民衆を味方につけつつ改革を軌道に乗せて行くか? 私なら最善とは言えませんが、一つの策として民と痛みを共に分かち合う方法をとります。まあ、「痛み」と一口に言っても多々ありますが、今は貴女方孫家を例にとりましょうか……」
「私達をですかあぁ~」
「ええ、その方が理解し易いと思いますので……まあ、孫家を……と、言うよりは伯言さんの今の立位置である税制の長としての立場での痛みの共有と言う事ですがね……」
そう言って私は、伯言さんに今の南陽が、公路さん(厳密に言えば張勲さんですね……)の失策の所為で民が様々な面で苦労している為、民達がある程度納得する様な政策を施せば民意は黙っていても新興勢力である孫家に流れて来るであろう事や、政策実行の折には袁家の者達を極力使わずに、孫家の者達が身を粉にして民達と一緒の目線で物事に当たる事。そしてこの改革が最終段階へと移る2~3年後には間違いなく此処の統治者は袁家では無くて孫家である事。そして改革中によほど大きい失策さえ無ければ、此処南陽が有る荊州の一部だけでは無く揚州迄も孫家が手に出来るで有ろう事を懇々と説きました。
「……と、言う訳で伯言さん。諸々の説明は御理解していただけましたか……? 伯言さん? どうしました?」
「ふほおぉぉぉぉぉうっ!?」
不意に伯言さんが私に向って雄叫びの様な声を出します。
「い、今、何処から声を出しましたかっ?」
「…………じゅるっ」
「じゅるっ……?」
「仲達さぁ~~~ん、はっ、あ……んっ、貴女の御考えは斬新で聞いていても、はああっ……素晴らしいですぅ~、その御考えを聞いてる間、私、わぁ~たぁ~しぃ~、体仲が熱くてぇ~…………」
いやいやいや、伯言さん、貴女マジで発情スイッチが入ってませんか? 確か貴女の設定上での厄介な性癖は『孫子』等の知的な本が引き金だったんじゃあないですかぁ~っ!! 何で私の話しぐらいで目がトロォ~ンなんてなっちゃってるんですかっ??
「いや、ちょっと落ち着きましょうよっ! 伯言さんっ!!」
「怒っちゃったんですかぁ? 仲達さぁ~ん」
そう言いつつ伯言さんは、私との距離をどんどん縮めて来ます。伯言さんが距離を詰めれば、私がそれだけ逃げる……この行為を二回ほど繰り返すと狭い部屋の事です私の逃げ場は直ぐに無くなりました。そしてじわじわとにじり寄って来た伯言さんとの距離がほぼ0となった瞬間、私は伯言さんに馬乗りになられて顔を覗き込まれます…………冷静に考えてみるとこれって私、貞操の危機なんじゃあ無いでしょうか?
「うふっ……もぉ~う、逃がしませんよぉ~……れろっ」
うわぁ~~っ!! 今、耳舐められましたよ……耳をっ!! どうしますぅっ!! このままじゃあ私的には二回目……この時代では初めての童貞喪失になっちゃうじゃあないですかぁ……取り敢えず伯言さんを振り払おうとはするのですが、流石は軍師兼武将の伯言さんですね、非力な私ぐらいではビクともしませんねえ……
「伯言さん、伯言さん、落ち着いて下さい。こういう事はもうちょっと手順を踏まえた上で双方合意で行うべき行為ではないでしょうかっ!! そりゃあ、確かに両方とも合意に近い状態ではありますが……いや、決して今の状況が嫌なのではなくて、寧ろ嬉しい……」
何か私も冷静じゃあ居られない状態で変な事を口走っている感が多々ありますが……とにかく一度離れなければと抗っている時に、非常に不機嫌な声と共に春日さんが入口の扉を開け放ちました。
「全く騒がしいわねえっ!! 愛将っ!! 事務作業が全然捗らないじゃないのよっ……………って、愛将、アンタッ!! 一体こんな場所でなに淫らな事をやってんのよっ!!」
私と伯言さんしかいない部屋、私に馬乗りになって、興奮している伯言さん……マズイですね、状況証拠が揃っちまってやがりますねえ。恐らく春日さんは、伯言さんが知的好奇心で興奮するなんて事など絶対に知らないですよねえ……と、なれば春日さんの思考の行きつく先は、悲しい事に大体理解出来ますねえ。
「愛将……最後に言い残す事は無いかしら?」
案の定、春日さんが非常時の為に持ち歩いている鉄扇を懐から取り出して、それはそれは惚れ惚れするような笑顔で私に聞いてきます。恐らく今、私が何を言っても春日さんのこの笑みは消える事は無く、間違いなく鉄扇は私の腹部にめり込む事になるのでしょうね……
「ああ、理不尽だ……」
何とは無く自分の今、置かれている状況を思いつつ、口を突いて出てきた言葉は、南陽の青い空に吸い込まれる様に消えて行きました……
取り敢えず、第一章の終りが見えて来ました……感想の御指摘にもあったのですが「話の展開が遅い」…………(泣)はい、まったくその通りでございます。私の才能の無さによる亀更新や、話の迷走等、読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしておりますm(__)m
以上の事が今後少しでもマシになる様に頑張って行く所存でありますので、どうか、励ましの言葉や、至らない所を叱咤して頂ける様な意見をお待ちしております。
それでは次回の講釈で……堕落論でした。