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越路秋葉短編集

近所に住む清楚な美人人妻が過去にAVに出ていたと聞いて悶々とする男子大学生の話

作者: 越路 秋葉
掲載日:2026/05/19

全年齢でAVネタ…

 大学二年の春だった。

 アパートの隣に住む女性――宮坂千春は、いわゆる「理想の人妻」だった。

 朝はきちんと挨拶をするし、回覧板を持ってくれば「ありがとうございます」と微笑む。

例えるなら清原果耶のような派手さはないが清潔感があって、買い物袋を提げて歩く姿は妙に絵になった。

 近所の小学生にも人気があり、野良猫にまで懐かれている。

 そんな人だった。

 だからこそ、その噂は衝撃だった。

「宮坂さんって、昔AV出てたらしいぞ」

 大学の友人・田辺が、深夜のコンビニ前で缶コーヒーを飲みながら言った。

「は?」

「いや、マジで。商店街のクリーニング屋の息子が言ってた」

「いやいやいや…あの宮坂さんが?まさかぁ〜!」

「いやぁ…案外ああ言う清楚なひとだから売れたんじゃねぇ?」

「いやいや…ないでしょ。」

 思わず笑った。

 だが、その日を境に、妙な意識をしてしまう。

 ゴミ出しで会うたび、

「昔AVに……?」

 と頭をよぎる。

 スーパー帰りに会えば、

「どんな作品だったんだ……?」

 と勝手な妄想が暴走する。

 しかも千春は、こちらが挙動不審になっても相変わらず優しい。

「大学、大変ですか?」

「は、はい」

「ちゃんとご飯食べてます?」

「た、食べてます」

 余計に気になる。

 気になって気になって、講義にも集中できなくなった。

 そして数日後。

 俺はついに、アパートの廊下で千春本人に聞いてしまった。

「あ、あの!」

「はい?」

「突然なんですが、変なこと聞いていいですか!?」

 千春はきょとんとした。

「昔……AVに出てたって、本当ですか?」

 沈黙。

 終わった。

 人生終わった。

 大学生が近所の人妻に何を聞いているんだ。

 穴があったら入りたい。

 だが、千春は怒るでもなく、

「あぁ〜」

 と、あっけらかんと言った。

「出てましたねぇ」

「えっ」

 肯定!?

 脳が止まる。

「え、えええ!? ほ、本当に!?」

「はい」

 あまりにも自然な返答だった。

 俺の心臓が一気に跳ね上がる。

「じゃ、じゃあ旦那さんは……!?」

「知ってますよ?」

「ええっ!?」

「むしろ主人、当時すごく応援してくれてました」

 情報量が多い。

 俺の頭の中では、勝手に昼ドラみたいな修羅場が展開されていたのに、本人は麦茶でも勧めるみたいなテンションで話している。

「い、いやでも、その……抵抗とか……」

「楽しかったですよ。動物いっぱい触れましたし」

「……動物?」

「はい?」

 千春は不思議そうに首を傾げた。

「AVって、“アニマルビデオ”の略ですよね?」

「…………は?」

「ケーブルテレビの動物番組で、レポーターやってたんです。『アニマル・ビジョン』って番組」

「…………」

「アルパカ牧場とか行きましたねぇ。あとカワウソ特集とか。あ…あと近所の地域ネコ特集とかも可愛かったですねぇ…。」

 俺は数秒、完全停止した。

 そして理解した。

 全部、俺の勘違いだった。

「あっ」

 千春もようやく気づいたらしい。

「あーっ、もしかして“そっちの方面”のAVだと思ってました?」

「い、いや、あの、それは、その……!」

 顔から火が出そうになる。

 千春は

「ふふっ」

 と吹き出した。

「やだもう、大学生って面白いですねぇ」

「すみませんでした……」

「いいですよ。でも主人に話したら笑うだろうなぁ」

「やめてください本当に」

 その日の夜。

 俺は布団の中で枕に顔を埋めながら、自分の浅はかさを全力で反省した。

 そして翌日。

 千春の旦那さんとアパート前で鉢合わせした瞬間、

「君かぁ! “AVの件”聞いたの!」

 と満面の笑みで肩を叩かれ、俺は苦笑するしかなった。

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