ループ
短編です
さっきまで、手元に有った数万円が、手元から消えた。正確には、飲み込まれたんだ。音の大きなジャラジャラと銀の玉を出す機械に。
「返せよ俺の金!!」
機械にそう叫んでみても、ただ決まった音を垂れ流すだけ。機械を蹴ろうもんなら、すぐにスタッフが駆け付けてきて、俺はパチンコ店から追い出された。
「二度と来るかこんな店!」
と叫んでみても、もうどうしようもない。俺は文無しになったんだ。そして家族も失った。
あの金は、息子を売った金だった。パチンコで金を失って、隣に座ってたどう見ても堅気じゃない男に金を借りたのが始まりだった。そいつはいつも俺に金を貸してくれた。俺だって最初は、ちゃんと返すつもりだったんだ。でも、何度パチンコ店に足を運んでも、機械が俺の金を吸い込んでいく。帰ってきても、すぐ吸い込まれる。俺は呪われているのかもしれない。
安アパートに帰って、布団に寝転んでも、あの時の息子の顔がちらついて、不安になる。俺、こんなに小心者だったかな。
どうしよう、あの金が最期の頼みの綱だったのに。貸してくれたあの男はやっぱり堅気の仕事をしている人間じゃなかった。
息子をあの男に渡した時から、俺は落ちるところまで落ちたような気がしていたけど、間違っていなかった。俺はなんてことを・・・・。
今からでも息子を助けてもらいに行こうか。いや、俺はあんな奴と戦っても勝てない。金もないし、武力もない。そんな人間が、金も武力もある人間に勝てるわけがないんだ。そうだ、俺に息子はいなかった。いない。そう、いないんだ。
やめろ、そんな目で見るな。
目を開けると、外はもう暗くなっていた。いつの間にか、寝てしまっていたようだ。息子のあの目が、夢の中でも俺を追い詰める。仕方なかったんだよ。俺は、あーするしか・・・、なかったんだよ。悪いとは思ってる。本当にそう思ってるか?思ってるさ。俺はどうしようもない男だってことはわかってる。
腹がグウと鳴った。こんな状況でも、腹は減る。人間のカラダってのは正直にできてるな。妻はどこへ行ったんだ。あぁ、俺と息子を置いて出ていったんだっけ?そうか、じゃぁいないのは仕方ないな。それにしても腹が減った。冷蔵庫に何かあったかな。
何もない。あるのは野菜の切れ端の腐ったやつと、何故か空き缶が入ってる。俺をバカにしやがって。息子が居れば、酒を買ってこさせたのに。あぁ、俺が売ったんだった。
今どうしているだろう。
いまさらそんなことを考えたって、息子は帰ってこない。俺が売っちまったんだから。俺はどうしてそんなことをしてしまったんだろう。バカなことをした。
腹が鳴る、何か、食べよう。重たい足を引きずりながら家を出て、近所を歩く。数年前に流行した病気のせいで、試食をする店が減った。昔はよかったよなぁ、スーパーに行けば試食を貰えた。今は感染対策だなんだって言って、試食を出す店自体が減った。
俺への当てつけのように感じる。むかつくなぁ、なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ。イライラすると、余計に腹が減る。
俺は、なんでこんなにイライラしてるんだろう。そんなことより何か食べ物を、いやその前に金だ、金がないと何もできない。この際小銭でも良いから落ちていないだろうか。自販機の下の小銭を取りたいけど・・・・こんな時息子がいてくれれば・・・。
——どうして俺は息子を売ってしまったんだろう——
どうしてあんなことを・・・俺は・・・俺は・・・。




