2話ー②:ルシアンの誓い
リリアナの部屋から自室へ戻り、ルシアンは扉を閉めるなり、深く息を吐いた。
(全く、こっちの気も知らないで……面倒なことになったな……)
遠くから憧れ、見つめていた主人は、今や自分と”恋人同士”になることを求めている。
(リリアナ様が、こんな変わった人だとは思わなかった……)
生まれてからずっと、リリアナに仕えることを目標に生きてきた。
遠くから見つめるだけの日々を経て、”第一使い魔”として学院へ同行することが許された。
そばで仕え始め、間近で見るリリアナは、遠くから見ていた頃と変わらず――
いや、それ以上に、美しく、気品にあふれていた。
けれど、実際に接してみると、その内側には、想像していなかった一面がいくつもあった。
(最初は、嫌がられているのかと思っていたけど……)
話しかけても上の空。
目を合わせることもなく、必要以上に距離を取る態度。
後になって、それが、過剰な緊張の裏返しだったと分かった。
それでも――
魔法の腕前だけは、揺るがなかった。
他に追随を許さないその実力は、遠くから憧れ、尊敬してきたリリアナそのものだった。
だからこそ、性格のちぐはぐさも、ただの欠点だとは思えなかった。
少しずつ距離が近づいていく中で、現実の男性と話すのは苦手そうなのに、恋愛小説にのめり込む、どこか夢見がちな一面も見えてきた。
世間慣れしていないところも含めて、そういう人なのだと、微笑ましく受け止めていた。
――なのに。
昨日は、態度が一変した。
(まさか好意を寄せられてるなんて、思いもしなかったな……)
今までが嘘だったかのように、告白されたかと思えば、”命令”として付き合えと言われる始末だ。
(どうして、あんな急に……
本当に、掴みどころのない人だ……)
分かったように思えば、また次の知らない面が出てくる。
目まぐるしく変わるリリアナの印象に、ルシアンは、どう受け止めるべきか分からなくなっていた。
――”忠誠心”という言葉で誤魔化してるけど、
――その中に潜む”恋心”に気づかないふりをしてるだけだと思うわ
――自分でも違和感を感じてるんじゃない?
(そう……なんだろうか……)
そうだとも、違うとも完全に言い切れない――
ルシアンは自分でも理解できない感情を持て余していた。
誰よりも大切で、誰よりも優先したい。
その気持ちは確かにある。
(ずっとこの感情は、”忠誠心”だと思ってたけど……)
まさか。
胸の奥が、わずかにざわつく。
(これが……”恋”?)
一瞬、そんな思考が頭をよぎり、ルシアンの胸に衝撃が走る。
息が、一拍遅れた。
だが次の瞬間、それを断ち切るように、頭を振った。
(いやいやいやいや……! まずいまずい!)
やはりルシアンは、それが”恋愛感情”だとは、どうしても思えなかった。
(危ないところだった……これじゃリリアナ様の思う壺だ)
さっき見た、不敵に笑うリリアナの顔を思い出す。
(リリアナ様のよく分からないペースに、巻き込まれてはいけない。
自分をしっかり持たないと……!)
ルシアンは自分を見失わないよう、心に固く誓った。




