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1話ー③:第一使い魔の条件

 放課後。

 リリアナは図書館へ向かう渡り廊下で、またルシアンとセリスを見かけた。


 少し先に見える二人は、あまりにも親しげで。


 セリスは嬉しそうにルシアンの腕にぎゅっと捕まり、耳元で何かを囁いている。

 ――その姿はまるで恋人同士のようだった。


(もう嫌……こんなの見てられない……)


 二人はリリアナに気付き、頭を下げるが、リリアナは、二人を見ないようにして急いで横切る。


 だが、通り過ぎてすぐに、背中からセリスの声が聞こえ、リリアナはつい立ち止まる。


「ほんと、ルシアンはすごいよ!

 なんでこんなに分かっちゃうの!?」


「しっ、セリス!声が大きいよ!」


 ルシアンの語気が強く、驚いてリリアナは振り返る。


「え?」


 リリアナは二人と目が合う。


 やはり気になって、ゆっくりとリリアナは二人の元まで戻った。


「あ、あの……」


 リリアナが二人に声をかけた、その瞬間――

 セリスが、ぴたりと動きを止めた。



「……リリアナ、様……?」


 次の瞬間、セリスの表情が一変した。

 一歩踏み出し、勢いよく距離を詰める。


 肩が小刻みに震え、笑っているのか泣いているのか、判別のつかない表情のまま――


「わ、わわわ……!

 リリアナ様が、初めて私に話しかけてくださったぁぁぁーー!!

 なんたる光栄!!!!」


 ――何かが、完全に決壊した。


 あまりの急変に、リリアナは完全に固まっていた。



「あ、あの、セリス……?」


 ルシアンは慌てて声をかけるが、セリスは止まらない。



「近くで見るとますますお美しい!!

 光り輝いています!!」


「セリス、落ち着こうか」


「本物が、こんな間近に……!」


 セリスは完全に我を忘れていた。


 その目は、リリアナしか映していない。

 憧れと興奮が、制御不能になって溢れている。


 セリスは――リリアナの”限界オタク”だったのだ。



「セリス!」


 ルシアンは腕を掴み、強引に割って入った。


「リリアナ様が困ってるだろ? もうやめなよ」


「なんで!?

 せっかくリリアナ様が、

 初めて私に話しかけてくれたのに!!」


 ぐっと身を乗り出し、勢いのまま続ける。


「ですよね!! リリアナ様!!」


 セリスに気圧されたリリアナは、反射的にコクコクとうなづいてしまった。



「むしろ、ルシアンが変なんだよ!

 何でそこまで隠すの!?」


 セリスは、興奮したまま声を荒げた。


「隠す……?」


 その言葉の意味が分からず、リリアナは思わずルシアンを見た。


「クールぶっちゃってさ。

 何でもない顔して、変だよ!

 リリアナ様の前だと、特に!」


「別に隠してなんかないよ。

 セリスとは表現方法が違うってだけで」


 ルシアンの反論に、セリスは、どこか納得のいかない表情で唇を尖らせる。


 そしてリリアナのに近づき、にやりと笑いながら、こっそりと耳打ちするように言った。


「……こんな気取ってますけどね。

 ルシアンは、特殊能力を持ってますから」

 

「特殊能力……?」


 リリアナは意味がわからず、ただその言葉を繰り返した。


「セリス、余計なことは言わないって約束だよね?」


 ルシアンは珍しくきつい表情で釘を刺す。

 だがセリスはそれを気にも留めず、大きく息を吸い込み、誇らしげに声を張り上げた。


「ルシアンはね! 

 リリアナ様が来るのが、なぜか必ず分かるんですよ!」


「へ?」


「”ここで待ってれば、来る気がする”

 って言われて待ってるといつも本当に来るんです!!!」


「何それ?」


「おかげで、私もたまにリリアナ様を遠くから拝められて!

 ルシアンには本当に感謝してて……ぐっ」


「セリス、帰ろうか」


 咄嗟に、ルシアンはセリスの口を塞ぎ、リリアナから引き剥がす。


 得意げな笑顔を浮かべるセリスとは対照的に、ルシアンは頭を抱え、深く息を吐いた。



 リリアナは休暇中のことを思い出す。


 確かに屋敷で会う時はいつも、先に二人がいた。

 何やら楽しそうに話すセリスと、それに付き合うように、気まずそうな顔をしたルシアン。


 ただ、混乱する頭の中で、一つの疑問が湧き上がった。


 考えに耽るリリアナを現実に引き戻すように、セリスの声が響く。


「小さい頃から、すごかったんですけど!

 学院で一緒にいるようになってから、さらに技に磨きがかかって!

 もう気配だけで、数百メートル前からでも……!」


 リリアナは、

 キラキラとした視線を送るセリスと、

 ぐったりと項垂れるルシアンの様子を交互に目にしながら、

 頭の中で湧き上がった疑問を、そっと口にした。



「……もしかして、ルシアンは……」



「私のことが――”好き”なの?」



 その言葉を聞き、二人は、ハッと顔をリリアナに向けて同時に答えた。


「まさか!? そんな烏滸がましいこと!」

「もちろん、そうです!」


 言った後、二人は同時に顔を見合わせる。


「セリス、ちょっと黙っててもらえる?」

「なんでだよ? ちゃんと分かってもらった方がいいじゃない?」


 セリスはまたリリアナに一歩近づき、声高に叫ぶ。


「だって、ルシアンは”第一使い魔”なんですよ! 当然ですよ!」


「”第一使い魔”だから……?」


「第一使い魔に選ばれる条件には、忠誠心も含まれます!

 ルシアンは魔法の能力だけでなく、忠誠心もずば抜けて高かったのです!」


「忠誠心が高かったから、第一使い魔に選ばれた、ということ……?」


「そうです!!

 でもね、忠誠心って、ただ命令を聞くって意味じゃありませんよ!」


 セリスは胸に手を当て、誇らしげに言い切った。


「忠誠――それは、その相手を誰よりも大切に強く想うことです!

 リリアナ様への”愛”が一番強い使い魔――

 それが、ルシアンなのです!!!」


 突然のセリスの発言に、頭では言葉を追おうとするのに、感情が追いつかず、リリアナはただ絶句するしかなかった。



 ルシアンは、興奮するセリスを押さえ、二人の間に割って入る。


「セリス、変な言い方をしないで」


 静かにたしなめると、今度はまっすぐリリアナを見る。


「確かに第一使い魔に選ばれる条件には、”忠誠心”が高く評価されます。」


「ですが、あくまで“忠誠心”です。

 セリスが言うような変な感情など、一切抱いていません。

 どうか、誤解なさらないでください」


「え、そ、そうなの……」


 セリスの言葉と、ルシアンの言葉、そしてこれまで見てきた彼の態度が、どうしても噛み合わない。


 まるで別の人の話をしているようだった。


「ルシアンだけ、”リリアナ様クイズ大会”で全問正解で……うぐっ」

「セリス、もう行くよ……」


 まだまだ話し足りないセリスの口を押さえ、引きずるようにして、ルシアンは去っていった。


(こ、これって、どういうことなのかしら……)


 リリアナは答えの出ない困惑を胸に抱いたまま、二人の背中を見送った。

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