元カレの誘い
家に帰ってゴロゴロしていると、またあいつからラインが来た。
『なぁ、なんで未読無視してんの?今度遊ぼうぜって言ってるだけじゃん』
あーうざ。
てか、未読無視してる時点でもう遊びたくないってことを悟れよ。
もういいや。どうせ、他校だしブロック削除したところで問題ないっしょ。
ただの元カレの1人だし。
そうして、スワイプして削除した。
◇翌日の放課後
放課後の校舎は、6月の柔らかな日差しでオレンジ色に染まっていた。
付き合い始めて2週間が経過していた。
いつもならとっくにやって、下手したら別れててもおかしくないくらいの期間だった。
けど、こうくんとは未だに健全な関係だった。
あー、そろそろ一回したいなー。
でも、したらいつもみたいに冷めちゃったりするのかな?
って、今結構熱いみたいな言い方じゃん。
いや、実際どうなのだろう。
少なくても今までの彼氏とこうくんは全然違うタイプだとは思う。
そんなことを考えながら、私はこうくんの腕に自分の腕を絡めて、わざと体を密着させながら歩いていた。
スカートが少し揺れて、ピンクの髪が彼の肩に触れる。
「こうくん、もっとくっついてよ〜。今日はいっぱいイチャイチャしよ?」
「う、うわ……ちょっと人目が……!//」
こうくんの顔が一瞬で真っ赤になる。
耳まで赤くて、目が泳いでる。
不器用に私の手を握り返してくる指が、少し震えてるのが可愛くてたまらない。
そうして、下駄箱で靴を履き替えていると、校門のところに見覚えのある男が1人…。
あいつ…まさか…。
他校の超イケメンで試しで付き合ってみたけど、なんかうざいし、しつこいからソッコーで別れたわけだけど…。
あれからもちょこちょこ連絡が来て、返しはしていたが、別れてから遊ぶことはなかった。
特にこうくんと付き合ってからは全部無視して、昨日ついにブロック&削除したわけだけど…。
まさか出待ち?
はぁ…だからプライド高いやつって嫌いなんだよなー。
後々こういうことになるのが…本当にめんどい。
だから私は決めた。
こうくんと堂々とイチャイチャしながら校門を出て、坂下にもう終わりだという見せつけてやろうと。
なので、学校を出てからも必要以上にベタベタする。
「ほらほら、もっと腕組んで。彼女なんだからいいでしょ?」
「う、うん…//」
こうくんが恥ずかしそうに俯く姿を見ていると、胸の奥がじんわり温かくなった。
てか、卒アルで見たあの地味な子(金倉梨央奈)のことがまだ少しモヤモヤしてた。
色々調べたけど、うちの高校には居ないみたいだし、特にこうくんとも接点はないみたいだし…大丈夫…だよね?
そして、校門が見えてきた瞬間――
「唯!」
低い声が響いた。
坂下蓮が、校門の外の壁にもたれかかって立っていた。
他校の制服を着崩し、髪を派手に染めて、相変わらずのイケメン面。
でもその顔が、明らかに苛立っていた。
こうくんの腕を私はさらに強く抱きしめた。
「お前、なんで無視するんだよ」
「えー、だってもう別れたわけだしー?別によくない?」
「いやだから…俺はもう一回お前と…って、そいつ誰?」
「あはは…」と、ちょっと気まずそうに笑うこうくん。
「今カレ。そういうことだから」と、その脇を通り抜けようとするとこうくんを上から下まで舐め回すように見て、鼻で笑った。
「なんでそんな地味なやつとイチャイチャしてんの? お前ら絶対合わねーだろ」
すると、こうくんがビクッと体を硬くした。
…は?こいつなんなの?と、怒りのボルテージが込み上げる。
私は笑顔のまま、はっきり言った。
「私は今カレに夢中だから〜?てか、待ち伏せとか普通にめっちゃキモいからやめてくんない?」
すると、坂下の眉がピクッと動く。
「は? そんな地味なやつのどこがいいんだよ。勉強しか取り柄なさそうなブサイクじゃんw」
その瞬間…私の頭の中で、何かがプツンと切れた。
「…は?」
私はこうくんの腕を離して、一歩前に出た。声が自然と低くなる。
「坂下くん、前々から思ってたんだけどさ。あんたマジでナルシストすぎてウザいんだよね。鏡ばっか見て、自分の顔ばっか自慢して、女の扱いも下手くそなくせに『俺が一番だろ?』みたいな顔して誘ってくるの、ほんとキモい。セックスも下手なくせに自信だけは異常で、何度も『もっと感じろよ』とか言ってくるのウザすぎ。しかも別れた後も何度も何度も連絡してくるし、ゲキ痛ナルシストは自分の顔とでも付き合ってろよばーか。二度と私の前に現れるな、ゴミ!」
言葉が止まらなかった。
溜まっていた毒が全部噴き出した。
坂下の顔がみるみる青ざめていく。
目が泳いで、唇が震え始めて――
「…な、なんでそんなにいうんだよ…」
最後には、目尻に涙が浮かんでいた。
情けなく唇を噛んで、肩を落としてる。
うーわ、キモ。本当ないわ。顔しか取り柄がないゴミ。
「行こ、こうくん」
そして、こうくんの手を引いて、その場を後にした。
後ろで坂下が何か言ってる声が聞こえたけど、無視した。
胸がスッキリしていた。
やっと、はっきり言えた。
「…えっと…なんかすごかったね。すごいイケメンだったし…」と、こうくんが心配そうに呟く。
私は笑って彼の腕に再び絡みついた。
「むしろスッキリした。ごめんね?心配させちゃったよね。大丈夫!こうくんと付き合ってから男とは連絡とってないから!」
「あはは…いいんだよ、別に?ほら、浮気してもいいからって…付き合ってもらってるわけで…」
…え?何それ?私が影で他の男と未だにやってるとか思ってるってこと?
何それ…何それ…そんなんしてないから。
してないって…!
一気に気持ちが込み上げてきた。
「す、スマホ見る!?ほ、本当に連絡とってないから!ね!」
「だ、大丈夫だよ?」
あー信用されてない。
そりゃそうだよね。浮気してもいいならとかキモいこと言ってんだから…。
やだな…信用されないって。
「…ね?今日も家で遊べる?」
「え、う、うん……いいけど…」
そうして、こうくんの家までの道中、ずっとイチャイチャしながら歩いた。
こうくんはまだ顔が赤いままで、でも嬉しそうに私の手を握り返してくれる。
家が見えてきたとき――
康太くんの家の前に、一人の女の子が立っていた。
他校の制服。
地味めな黒髪を肩まで伸ばして、眼鏡をかけた、真面目そうな子。
手に小さな紙袋を持ってる。
私は一瞬でわかった。
……金倉梨央奈。
康太くんの、初恋の子。
彼女はこちらに気づくと、少し緊張した顔で小さく頭を下げた。
「あ、佐藤くん……あの、突然ごめんなさい。ちょっと、話がしたくて……」




