卒業
卒業式の体育館に、歌声が響いていた。
「なーがれるきーせつのまんなかでー」
俺、佐藤康太は、壇上の前列で声を張り上げていた。
周りのクラスメイトたちも、涙を浮かべながら歌っている。
校長の長い話が終わり、証書授与が済み、最後に歌を歌っていた。
制服が少しきつくなり、色んな意味で3年間の成長を感じる瞬間だった。
でも、俺の視線は自然と、隣の列にいる唯に向かっていた。
黒髪のロングが優しく揺れ、彼女の横顔が少し涙で濡れている。
あれから、約2年近くが経過した。
あの事件の後、2年生の間は、噂のせいでクラスメイトから敬遠される日々が続いた。
文化祭では、俺と唯で小さな模擬店を手伝ったけど、雑用を押し付けられたり、体育祭はリレーで唯さんがアンカーを走ってくれたけど、俺以外の声援はなかった。
修学旅行では、自由行動の時間、俺たち2人で京都の寺を回った。
他のグループは賑やかだったけど、俺たちは手をつないで静かに歩いて、それがすごく楽しかった。
唯はいつも「こうくんと一緒なら、何でもいいよ」って笑ってくれた。
その間、俺はひたすら唯に勉強を教えた。
彼女の志望校は俺と同じ大学。
毎日放課後、図書室や俺の家でノートを広げて、問題を解く。
最初「わかんないー!」って投げ出しそうになったけど、俺が「一緒にやろう」って言うと、頑張ってくれた。
大変だったけど、あっという間だった。
夜遅くまで勉強して、疲れて唯が俺の肩に頭を預けて寝ちゃう日もあった。
そんな時間も俺の宝物だ。
そして、3年生のクラス替えで、また同じクラスになった。
今までと同じかと思ったけど、運が良かった。
他のクラスから唯の親友が居て、彼女は「唯ちゃんはいい子だよ、噂なんか信じないで!」って周りを巻き込んでくれた。
そして、クラスメイトは噂ではなく、自分の目で判断する人が多くて、徐々にみんなが話しかけてくるようになった。
唯は昔みたいに明るく笑うようになり、女子たちと一緒に弁当を食べたり、放課後におしゃべりしたりするようになった。
俺も、少ないながら友達ができた。
サッカー部の奴が「佐藤、勉強教えてくれよ」って声をかけてきて、そこから少しずつ輪が広がった。
3年は、楽しく過ごせた。
とはいえ、基本的に勉強漬けだった。
自分の受験勉強、唯に教えること、それでデートらしいデートもほとんどせずにこの1年を走り抜けた。
結果、無事二人とも志望校に合格。
俺と唯は同じ経済学部。
大学も同じキャンパスで、一緒に通えることとなったり
そんな思い出を、歌いながら振り返っていた。
式が終わり、教室に戻ると、クラスメイトたちがわんわん泣いていた。
女子たちは抱き合って、
「卒業したくないよー!」
「ずっと友達だよ!」
って声を上げている。
唯も、親友の女子たちに囲まれて、涙を拭きながら抱きつかれていた。
「唯ちゃん、大学でも連絡してね!」
「うん……みんな、ありがとう」
唯の黒髪が、みんなの肩に混じって揺れる。
俺は少し離れたところで、それを見守っていた。
すると、友達である岡田恭平が、肩を叩いてくる。
「佐藤、お前も泣けよ」
「いや…そういうタイプじゃないからなー」
「冷めてんな〜!今生の別なんだぞ!」
「お前、大学も学部も一緒だろ」
「そだっけ?w」
でも、心の中は少し温かかった。
最後のホームルームが終わると、担任が「みんな、卒業おめでとう」って声を詰まらせた。
それから、クラスメイト全員でカラオケに行くことになった。
駅前のカラオケボックスに30人近くがなだれ込み、部屋を2つに分けて大騒ぎ。
唯は女子たちと一緒にマイクを回し、AKBの曲を歌ったり、友達が俺を引っ張ってきてデュエットさせられたり。
「康太、結構上手いじゃん!」
そして、唯が笑って手を叩く。
俺は赤面しながら、でも楽しかった。
最後の瞬間を、みんなで共有している感じがした。
カラオケが終わり、外に出ると、夕陽が街をオレンジに染めていた。
クラスメイト達とは駅前で解散。
みんなが「じゃあね」「またね」って手を振る中、唯が俺の手を引いた。
「ね、行きたい場所があるの」
「ん? りょーかい」
唯は俺を連れて、近くの服屋に入った。
カジュアルな服のコーナーで、上下のセットを選んでくる。
俺にはシンプルなシャツとパンツ、唯さんには可愛いワンピース。
「これ買って、そのまま着替えてきて」
「え? なんで?」
「いいからいいから!」
何が何だかわからないまま、唯の言う通りにして、店内で着替えた。
制服を袋に入れて出てくると、唯がニコニコ待っている。
「かわいい!じゃあ、行こ〜」
そして連れて行かれたのは……ラブホだった。
街の端にある、派手なネオンが光る建物。
俺は足を止めた。
「ちょっ……ここって……//」
唯は俺の腕を引っ張りながら、笑った。
「そ、ラブホ。だから着替えてもらったの。約束したでしょ? 卒業まではしないって。私、もう1秒だって待てないから」
そうだ。
結局、俺たちは2年近く付き合って、未だにキスまでしかしたことがなかった。
唯が「絶対一回したらしまくっちゃうから…ちゃんと卒業してからしたい」って言い張ったためだった。
でも、今……ここで。
部屋に入ると、柔らかい照明が俺たちを包む。
唯はドアを閉め、俺の胸に飛びついてきた。
「こうくん……好き」
俺は唯を抱きしめ返した。
心臓が早鐘みたいに鳴っている。
「唯……俺も、好きだよ」
唯は俺の顔を両手で包み、目を細めた。
「もう一度、ちゃんと告白して?あの時みたいに」
俺は深呼吸して、唯の瞳を見つめた。
「あの……黒波さん。好きです。付き合ってください」
唯はくすくす笑って、涙を浮かべた。
「うん、いいよ? 今ちょうど、かれぴがいないところだし。けど、きっと浮気しちゃうけどいい?」
懐かしい、最初の言葉。
でも、今は違う。
俺は唯の手を握り、強く言った。
「浮気なんてさせないよ」
唯は頷き、俺の唇に自分の唇を重ねた。
「私も……こうくんだけ」
その夜は、本当に…すごかった。
きっと、卒業式以上に忘れられないと思う。
お互いに貪るようにお互いを求め、そして俺たちの新しく大学生が始まろうとしていた。
一緒に歩く道が、まだまだ続く。




