98 少女と汚物と私
それは、余りにも唐突すぎて、一瞬理解が出来なかった。瞬時にこの場の空気が変わったのは、間違いなくアリオスの掛け声が終わるや否や、走り去っていったアルの挙動だ。
「くそっ!」
バートは、思いっきりバチンと両手のひらで頬を叩く。たった二か月ではあるが、アルとアリオスとは、それなりに濃密な期間を過ごしてきた筈だった。Sランクになったことの奢りか? それともアルのやらかしばかり気にして、ただの引率者に成り下がっていたか? 俺だってチーム【白雪】の一人だ。
「ルーカスさん 通信機持ってますよね 早くギルドに救護班含め応援要請を」
「あ、ああ」
自分より一回りも年下の少年に、有無を言わせぬ覇気で射すくめられ、ルーカスは喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。そこには、先ほどまで「アルのやらかし」に頭を抱えていた苦労人の面影はない。
ルーカスは震える手で通信機を取り出すと、バートの放つ凍てつくような緊張感に急かされるように、ギルドへの連絡を始めた。
冷静な判断を取り戻したバートの言葉は、混乱する現場に楔を打ち込んだ。
「ジェシカ!」
アリオスが、大きな声で、ジェシカを呼ぶ。アリオスの鋭い声に呼応し、艶やかな美女から鉄の意志を持つ副ギルドマスターへと貌を変えたジェシカが、間髪入れずに指示を飛ばす。
「全員警戒体制! 動けない者は、非戦闘員の警護を それ以外の者はいつでも戦えるように臨戦体制で!」
大きな声で、残った冒険者たちに指示を飛ばす。ふと目があったアリオスと小さく頷き合った。アリオスからは、「俺たちが動く時は、アル含め全滅した時だ」事前にアリオスから告げられていた言葉が、今になって重く身体中にのしかかる。
バートは、両手の拳を痛いほどぎゅっと握りしめ、ギリリと奥歯が軋む音を上げるほど食い縛った。
「展開! ウォーターボール! アイスロック!」
私は、トップスピードのまま、ゴブリンの巣穴へ突撃した。兎に角、戦闘に費やす時間すら惜しい。目につくゴブリンたちを氷結しながら、刺激が強くなる異臭の元へと急いだ。
奥へ進むにつれ、ゴブリンの上位種のホブゴブリンが現れ出した。ゴブリン特有の腐敗臭と汚物の混じった鼻を突く異臭は、もはや暴力的なまでの重圧に上書きされていく。私刺激する臭いが、喉をヒリヒリさせ、目が染みて目尻から出る涙が風圧にさらわれ、頬を掠めて後ろへと消えていく。
視覚共有をしているアーくんから、バートやアリオスが、森の茂みから姿を現した情報が、脳内で再生される。慌てふためく冒険者の後ろで、アリオスの絶対的自信を醸し出す表情や、ジェシカが檄を飛ばす様子がわかる。
アリオスがいれば、後方は問題ない。私は、目の前のことだけに集中すれば良い!
「近い! まだ行ける!」
踏み込む軸足にさらに力を入れ地面を蹴った。ぐっと踏み込まれた軸足は、湿った土を爆ぜさせた。術式を展開している探索が示す最奥に、僅かに揺れるオーラが見えた。
「見つけた!」
ゴブリンの巣穴の最奥で、僅かに揺れる茶色く煤汚れたブラウンの髪、汚物まみれになりながら、必死で逃げようと後退りしている少女が見えた。
目の前には、ギャギャギャ下卑た笑みを浮かべ少女をとり囲むホブゴブリン3体と、さらにその後ろで、筋肉が迫り上がった二回り以上大きな体躯の鼻息を荒くしたキングゴブリン1体。その隙間から覗く涙でぐちゃぐちゃになった汚物まみれの少女顔が、しっかりと確認することができた。
「お前か! 異臭の正体は!」
アル、激おこ
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100話までのカウントダウン 2
ただいまアルとお祭り準備中♪




