97 木漏れ日と異臭と私
「みなさん これでゴブリンの巣 二つ目も討伐完了です 後残り一つ 最後までよろしくお願いします」
ルーカスは、合同演習に参加している冒険者たちに声をかけた。二つ目の討伐を完了し、冒険者たちの実力差が随分と明確にわかるようになった。
既に、精も根も尽き果てた冒険者は5人、かなり疲れは見せているが戦えると判断できる冒険者が2人、Cランクよりもっと上にランクアップしても問題ないと判断できる冒険者が、2人。そして、何もかもが想定外なのが1人………。
「はあっ ジェシカさん 彼女は一体なんなんですか?」
今回、査定員として同行することになった副ギルドマスターのジェシカにため息を吐きながら尋ねた。
「あら? ただのCランクの冒険者よ アルちゃん 良い子でしょう」
「普通って……そんな……」
ルーカスは、ジェシカの言葉に思わずグッとその先の言葉を飲み込んでしまう。普通で片付けて良いレベルじゃない。
例年、合同演習は、三つの討伐のうち、二つ目までをCランク冒険者たちだけで対応をする。それが、Cランクの冒険者としての実力だからだ。そして、最後の一つを付き添いの高ランク冒険者が一掃する、それがSSSであるアリオスの役割だった……筈だったのに、今年は、何もかもが違う。
合同演習に参加している冒険者たちの後方で、問題の少女と愉しげに笑みを浮かべながら肩を並べて歩くアリオスが、合同演習の打ち合わせの際に言った一言を思い出す。
「俺ら出るまでもなく、終わるんじゃね?」
いくらSSSのトップランクのアリオスだって、一人の人間だ。自分の弟子可愛さに、過剰評価でもしてるんじゃないかと思っていたが、今はその言葉の重みがよくわかる。
これから何が起きるのだろう。予測不能な事態に背筋がぞくぞくと身震いした。
「うふふ ルーカスさん 素敵な報告書を待ってるわ」
大きくそしてとてつもなく長いため息を吐いたルーカスと、柔らかいそしてそこ知れぬ笑みを浮かべるジェシカを見て、バートは、心の中で何度も「すみません」と誤り倒していた。
森の木々の隙間から溢れる陽だまりが、キラキラと光、足元を柔らかく照らし心地よい。二つ目のゴブリンの巣も撃破し、残りは後一つ。一緒に参加している冒険者たちは、けっこうくたびれている感じがするけど、モナリィとレンは、まだ足取りも軽く戦えそうだ。
「まもなく、本日最後の目的地です みなさん、警戒を怠らないようにお願いします」
後方から届く、ルーカスからの注意喚起に振り返ると、じっと私を見たのち、ふいっと視線を逸らされた。非戦闘員という割には、足取りも軽そうなので、まだまだバフのかけ直しは必要なさそうだ。
「うぅっ!」
「近いな」
穏やかな木漏れ日の中なのに、突如鼻の穴の中を刺激してくる異臭に小さく呻き声を上げると同時に、呟いたアリオスの言葉で、直ぐそこにゴブリンの巣穴がある事を確信する。
先を歩くモナリィとレンを見るも、さっきまでの雰囲気と変わった様子がない。まだ、二人とも気がついていない?
「術式展開 探索 聴覚強化 視覚強化」
枝っぽい杖を振り上げて、自分自身の五感を強化する。二枚の葉っぱが繰り出す白い魔力が私を包み込んだ。
「ゴブリンだけじゃない! ダメ! 間に合わな……… ううん 間に合わせる!」
「行け アル!」
力強くアリオスが、行けと言った。私は、アリオスが言い終わる前に、走り出す。一気に先頭を歩いていたレンとモナリィが、一瞬だけ視界に入ったが、止まるわけにはいかない。私は、スピードを落とさず、走り抜けていった。
「術式展開 脚力強化 腕力強化 物理攻撃無効 魔術攻撃無効 視覚共有」
握りしめた手に力が入る。枝っぽい杖が、ミシミシと手のひらの中で音を立てた。
「アーくん」
『ホッホー』
視覚共有をしたアーくんが、空高く飛び上がる。
「あそこ!」
茂みの向こうにポッカリと空いた洞窟が見えた。
「ジェシカ!」
アリオスのジェシカを呼ぶ怒声が、遠くで聞こえた。
洞窟の前には、4体のゴブリンが、見張りとして立っていた。私は、足を止めることなく、枝っぽい杖を振るった。
「展開! ウォーターボール アイスロック」
「ギャッ!!」
ゴブリンたちは、突如現れた私に威嚇する様に吼えたが、私はそれを許さない。ウォーターボールで包み込んだ瞬間に、一気に氷結させた。そして、そのまま、ゴブリンが棲む洞窟の奥へと突き進む。
「大丈夫 絶対に大丈夫! 間に合わせる!」
ミシミシと鳴り止まない枝を握り締め、大丈夫と自分に何度も言い聞かせながら、私は闇の奥から漂う、一番強烈な異臭の元へと飛び込んだ。
アル、走る!
100話までのカウントダウン 3!
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