92 二日目の朝と木の枝と私
「あー、あー、あー、どうも、合同演習、査定員のルーカスです」
ジェシカの挨拶が終わり、続いてルーカスが冒険者たちの前に立つ。二日目の討伐演習について、彼が説明をするのだろう。一点を見つめたまま話し始めたルーカスは、大人数の前で説明をするのが苦手らしい。
「えー、今日は、ジュレルの丘から出発して、ぜ、全員で三カ所のポイントを目指す このポイントは、でー、ゴブリンの巣が発見された場所だ」
うぇ、ゴブリンかぁ。臭いから嫌いなんだよね。思わず苦虫を潰したような顔になると、モナリィが意外そうな表情で声をかけてきた。
「ふうん アルさんも女の子なんだ ゴブリン怖い?」
「怖い? どうして?」
「えっと、違うの? ゴブリンって、女性を攫ってさあ、ほら………」
ほらって、言い淀まれてもわかんないんだけど? 首を傾げると、「もう!」と言ってモナリィが頬を膨らます。
「ゴブリンって、人間の女性を攫って襲うでしょう」
「あー、襲って来るね 全部ちょん切っちゃうよね」
「はあ? そんなことしてたの?」
「えっ? しないの?」
ゴブリンは、女性の天敵だ。女性だとわかれば、鼻息を荒くして飛びかかって来る。種の生存本能だとはわかっているけど、はい、そうですかと身体を差し出す冒険者はいない。
だからこそ、討伐対象であり、巣が発見されれば、早急に対処されるんだけど。
「ゴブリンが、怖いんじゃないの?」
「アイツら 臭いから嫌い」
「そっち?」
なんだか、残念な表情で見られてるんだけど、どうして?
「今日の演習では、我々、ギルド職員も付き添う 我々は、非戦闘員だ 最悪の事態を備え、SSSランクのアリオスさんとSランクに昇格されたバートさんに付き添っていただきましゅ」
あ、ルーカスが、噛んだ。アリオス唇がむにゅむにゅになって、肩が微妙に揺れている。笑いを必死に噛み殺しているのを私は見逃さなかった。
「アリオスさん ひ、一言お願いしま…す」
真っ赤な顔をして俯きながら、アリオスにバトンを渡すルーカス。言葉の最後が消えてしまいそうなほどに声が小さくなってしまった。アリオスは、横を向いて何度か咳払いをしているけど、ルーカスにとってその態度は、トドメと一緒だと思うよ。
「おはようさん わかっちゃいるとは思うが、魔物の討伐は、お前らで対処しろよ 俺たちが動かざる得なくなった時は、おまえらが全滅した時だ 以上!」
うわぁ、面倒臭さ全面に出しちゃった。
「ハア、やっぱりアリオスさまだわ」
「モナリィ やっぱり痺れるよな!」
「えっ? 痺れる? お腹でも痛いの?」
アリオスは、本来ならこんな仕事は受けないことを知っている。
「どうして、師匠はこの仕事受けたんだろう?」
正面にいるアリオスを見て首を傾げると、いつの間にか横に来ていたジェシカが耳元で囁いた。
「アルちゃんに、悪い虫がついても知らないわよって誘ったのよ」
「虫?」
「そう、悪い虫」
ジェシカが、目を細めて笑う。そんな言葉で、なぜアリオスがついて来る?
「虫なんて、ペイって指で払えるじゃん?」
「そっか、アルちゃんは、指で払っちゃうか」
何故か、ウフフとジェシカが笑う。今時、虫ごときで大騒ぎする様な生き方してないんだけどな。
「多分、アルさんが考えてる虫と違うと思うよ?」
「えっと、ダンゴ虫だった?」
「違う! あーあ、アリオスさまに心配してもらって羨ましいな」
羨ましいというモナリィには悪いけど、口うるさいだけですからと心の中で返事をした。
いざ出発。ジュレルの丘にさわさわと優しい風が吹く。肩に乗ったアーくんの羽毛が頬を優しくくすぐってくる。
他の冒険者たちや、レンやモナリィは、自分の所持している武器や防具の確認をしている。モナリィは弓を背負い、レンはロングソードを使う剣士の様だ。
周りの冒険者を見回すと、魔術師タイプは、杖やポーションなどが入ったポーチを腰に付けてたり、剣士は、盾やロングソードを腰に下げたり背負ったり、冒険者にも色々なタイプがあるものだと改めて思った。
「アルさん、アルさん ぼうっと立ったままで、何してんの? 杖とか弓とか準備しなくていいの? まさか、手ぶらで出発するつもりなの?」
弓を背負ったモナリィが、首を傾げ尋ねてきた。
「手ぶら? 両手塞がったら 不便じゃん」
「えっと アルさんって魔術師だよね 杖持たないの」
「杖?」
モナリィは、魔術師の私が手ぶらのままでいるのが不思議らしい。魔術師なら杖を持つべきだと言ってきた。
「杖ねえ ……… これで良いかな?」
「いやいやいや、それ、ただの木のじゃん」
足元に転がっていた枝を拾って構えたら、それは杖じゃないと突っ込まれる。先っぽに葉っぱが二枚ついていて、手頃なサイズ感の枝は、私の手にちょうど馴染む。
「私、アイテムボックス持っているからね」
「モナリィ アルに俺たちの常識を伝えても無駄だ こっちが混乱するからやめてくれ」
「レン…… アルさんだもんね うん、もう木の枝でいいんじゃない」
剣を腰の鞘に納め、盾を背中に背負うレンが、諦めたようにモナリィを諭す。
杖を持てって言われたから、木の枝拾って見たけど、お気に召さなかった様だった。
葉っぱが二枚




