91 雄叫びと沈黙と私
合同演習二日目、集合時間に集まってきた冒険者は、私たちを含め、十一人だ。
「あれ、昨日より、人数がかなり減ってない?」
「誰かさんのせいじゃないか?」
モナリィの横でストレッチをしているレンが、私の疑問にポツリと答える。
「何かあったの?」
「無自覚かよ」
「ワオ アルさん 気づいてないの? 根っこしか残さなかったのに」
ジュレルの丘のスズラ草、満月草、毒消し草は、根っこしか残っていなかったと散々文句を言われたことを思い出す。
「でも、森にはニードルチップが残ってたって、言ってたじゃん」
「ニードルチップしか残ってなかったんだよ」
レンが、一番厄介な物しか残ってなかったと強調する。ん? ニードルチップって、そんなに採取方法難しくないよね?
「マジで言ってんの? こんな晴れた日に採取なんてしたら、ちょっとした刺激で爆散するじゃないか 剣士の場合、盾で防御しながらナイフでちょっとずつ削り取るしかできないじゃないか」
レンが両手を突き出して、私に見せた。ところかしこに小さな切り傷ができている。よく見れば、顔にもたくさん切り傷が刻まれている。既に瘡蓋だけど、痛痒いだろうなと思った。
「えっと、傷は戦士の勲章?」
「ちげえよ 全部ニードルチップのせいだよ ちょっとの衝撃で破片が礫みたいに飛んできて、避ける暇もないんだよ」
魔術師たちは、植物の成長促進を促す【グロウ】の魔法で根っこからなんとかスズラ草や満月草を成長させたらしいが、魔術師でない戦士系の冒険者たちは、森でニードルチップの採取に励んだらしい。
「マンドゴラとマジックマッシュまで取り尽くしやがって お陰でニードルチップしか残ってなかったんだよ」
残った戦士系の冒険者をよく見ると、全員手や足、顔まで切り傷がいっぱいできていた。
「でもマンドゴラもマジックマッシュも魔法植物だから一日でまた採取できるよ?」
「期限が昨日の15の時じゃ、間に合わねえだろう」
確かに、15の時が期限だと間に合わないね。失敗、失敗。
「ニードルチップは、レインかスコールの魔法を使うとか、ウォーターボールで木を丸ごと覆うと採取簡単だよ?」
「戦士系には、無理だ」
「アルさん、魔術師でも、そんな魔力量度外視した採取は、無理だからね」
レンとモナリィが呆れ果てた顔をして、私に突っ込んできた。
私たちのやり取りを聞いていたらしい他の冒険者たちも大きく目と口を開けて驚いた顔をしていた。
「クソッ こんなにも差があるのかよ モナリィ、気合いを入れろ これ以上離されってたまるかってんだ」
「うん 私も負けたくない!」
レンとモナリィは、決意新たに気合いを入れ直していた。
「みなさん 一日目の合同演習 お疲れ様でした ゆっくり休めた人と、まだまだ疲れが残っている人いると思います」
仮設テントの前に集まったのは、私を含め、十一人の冒険者だ。最初は、二十四人もいたのに、たった一日で半分以上も減っている。
「Cランク以上になると 疲れたからと言って逃げ出すことの依頼もあります 時には、命をかけて戦うこともあります この合同演習を通じて、まずは自分の力量を把握してください」
ジェシカが、一人、一人に問いかけるように語る。隣に立つアリオスは、興味がないのか空を見上げて雲を見ている。
「今日、弱くても、失敗しても、誰も責めたりしません 弱ければ、強い者がどうして強いのかを知っていけば良いのです 合同演習は、Cランク冒険者が、心技体を競う場です 今日この場にいるみなさんは、誰よりもBランク、次のAランクへの昇格が近い それを心に刻んでください」
えっと、ジェシカさん? 私は、昇格する気なんてさらさらありませんけど?
「そうだ! 俺たちは、ここからだ」
「昨日の無様な結果は、今日で塗り替える!」
冒険者たちは、ジェシカの話を聞いて、拳を握りしめて、気合いを入れた。どうやら、私だけが置いてけぼりの気がする。
ジェシカのにっこりと細められた瞳が、私を捕らえた。笑顔の奥に「逃さないわよ」と念を込められたような気がした。
「二日目の今日は、討伐演習です 昨日の鬱憤を晴らしてください」
「おおー!」
冒険者たちが、雄叫びを上げた。その雄叫びを聞いて、ますますアリオスが、眉をしかめて仏頂面になっていく。
「師匠! 私は、師匠の味方です」
心の中で、アリオスに声援を送ったのは、言うまでもなかった。




