89 勘違いとお弁当と私
13 の鐘が鳴り響く。その鐘の音を聞いた冒険者たちの表情が、より焦りを感じたのか忙しなく動き始めた。
「ようやく最初の課題のタイムリミットだね」
にっこりと微笑んでモナリィが、仮設テントに視線を向ける。はあ、はあ、と肩で息をしながら、走って仮設テントに向かう数人の冒険者たち。どう見てもスタミナ切れのバテバテだ。
「あ、泣き崩れた」
「ルーカスさんに縋りついている人もいるね」
レンとモナリィが、頼んでもいないのに、わざわざ実況をしてくれる。
「アルさーん アイツら開会式で、私たちに絡んで来た人たちだよ」
「ケッ タイムリミットまでに ここまで辿りつけないレベルの実力じゃねえか ざまあだな」
泣き崩れ、縋りつく様子から、不合格を言い渡されたんだろうね。それでも、ぎりぎりだったからと何とかならないかとジャビルやルーカスにお願いをしているらしい。困り果てた二人が、首を横に振っているのが見えた。
「ジェシカさんが、声をかけてる」
「ジェシカさん 優しいから慰めてあげてんのかな?」
「ハハッ そんなわけあるか 嬢ちゃんよく見てみろ サポートに行ったバートが、びっくりした顔をして ジェシカを見てるじゃないか」
アリオスに言われ、側のバートを見ると、大きく目を開いて、信じられないといった驚愕の表情をしている。そして、さらに泣き喚き始めた冒険者たち。
「何言われたんだろう?」
「きっとジェシカにトドメ刺されたんだろう 所詮はその程度の冒険者ってことだ」
興味がないようで、大きなあくびをするアリオス。アリオスもサポート依頼受けてるはずなのに、ここでのんびり休憩していてもいいのかな?
「そのために バートを巻き込んだんだ」
「あ、そういうことね 頑張れバート 陰ながら応援してるよ」
バートがフラフラと疲れきった様子で、戻って来た。
「……お疲れ、バート ジェシカさん、なんて言ってたの?」
私は、どんな一幕があったのか、興味本位でバートに尋ねた。遠い目をするバートは、乾いた笑いを漏らす。
「……『実力も、運も、努力も足りない。その上、往生際まで悪いなんて、冒険者ギルドの面汚しね もう一度、Eランクから始めてみる?』……だってさ アル、笑顔で、あんな毒吐くジェシカさん 初めて見たわ……」
「うわぁ…… 普段からは、想像できない」
「クククッ、妥当な評価だな」
ジェシカは、あんなもんだと全く動じた様子を見せないアリオス。私にはいつも優しいお姉さんなんだけどね。お仕事モードのジェシカは、一味も二味も違うらしい。新鮮だ。
次のタイムリミットは、15の時。この調子だと、まだまだ脱落者が出るのかな?
「アルさんが、根っこしか残さないから」
「ぜーんぶ アルの仕業でしかないよな」
「二人とも、酷い!」
アリオスが、くうくうと寝息をかいている横で、レンとモナリィが遠慮なく私を責める。根っこは残したんだし良いじゃん?
「まだまだ、時間もあるし、一緒にお弁当食べる?」
昼寝中のアリオスは、ほっとくとして、レンとモナリィに声をかける。バートは、アリオスの代わりにジェシカにこき使われているから忙しそうだ。
「良いの?」
「俺たち一応レーションや干し肉は、持ってきてるぞ」
「レーションや干し肉は、味気ないでしょ 一緒に食べよ」
私は、アイテムボックスからレジャーシートを取り出して、ばばんと広げた。お弁当は、アーくんが早朝から作ってくれたお重だ。相変わらず、美味しい料理を作ってくれる。
「アイテムボックス持ち?」
「通りで、荷物が少ないわけだ」
「えっと 師匠もバートもアイテムボックス使えるよう?」
「二人とも 高ランクの冒険者じゃねえか」
「普通、私たちみたいなやっとCランクになった冒険者は、使えないって」
へえ、そうなんだ。アイテムボックスなんてみんな使えると思ってた。そういえば、アリオスは、私のアイテムボックスをよく利用してるけど、人によって容量も違う?
「うっわあ アルさん 美味しそう 料理もできるの?」
「い…や 違う 私が作ったんじゃない」
『ホッホー』
隣で可愛らしく鳴いているフクロウのアーくんが、作りましたとは言えない。
「え? まさか アリオスさま?」
「マジか アリオスさんのお手製か?」
「ハハハハハ…… どうでしょう?」
アリオスが、作れるのはパンケーキだけだとも言えない。勝手にお料理男子の肩書きを付けられているとは、思っていないだろうアリオスは、いまもなお、くうくうと寝息を立てて昼寝を貪っている。
『ホッホー』
わかってますよ姫とでも言うように、アーくんは可愛らしく鳴いた。
「アリオスさま いただきまーす」
「俺もアリオスさんに倣って 料理始めてみようかな?」
もう、アリオスが料理上手で良いや。黙っていれば、肯定したわけじゃないし、説明考えるのも面倒くさい。
「遠慮なく食べてね」
未だに課題をクリアできない冒険者たちが、羨むように視線を送ってくる中、私たちだけは、ピクニック気分でお弁当を食べるのだった。




