88 裏切りとグーパンチと私
12の鐘が響き渡る。合同演習に参加しているCランクの冒険者たちが、バラバラとジュレルの丘に集まって来た。
「けっこうゆっくりと来るもんなんだね」
「クククッ 嬢ちゃんからすれば、そう見えるんだろうな Cランクだとアレが一般的だ」
マジですか? 他の冒険者と交流がほとんどない私には、どの程度が普通の基準なのかいまいちわからない。そうすると、私の次に到着したレンやモナリィは、かなり早かったってこと?
「マローからジュレルの丘まで、徒歩だと通常半日くらいかかるんだ それを半分の時間で来いって言ってるんだ それなりに工夫する必要があるわな」
「なるほど?」
「何で疑問系何だ?」
「うん? 初めてジュレルの丘に来た時、てくてく歩いて来たけど半日もかからなかった記憶して……」
「てくてくって……どんな速さのてくてくだよ」
疑わしい目で見るアリオスに、【冒険者のススメ】を懐から取り出して広げて見せる。近隣のマップが記載されているページを見せて、指先で自分が辿ったルートをアリオスに伝える。
「ぶはっ!」
「ぶはっ?」
へんな声を出すアリオスを見ると、顔を真っ赤にして体を震わせながら、笑いを堪えていた。人が真剣に説明しているのに。
「ギャハハハ もう無理だ 堪えきれねえ 嬢ちゃんが、真剣に説明すればするほど、腹が捩れそうだ」
「し、師匠! ヒドイ」
「別に酷くない 酷いのはお前だ いいか? 普通人は、こうやって このルートで、ここまで来るんだ」
人は? 人はって、私だって人なのに、アリオスの方が酷いじゃないか。むむむむむむ。眉を寄せて、唇が尖っていく。
「おい! バート バート ちょっと来い」
「何すか? ………アリオスさん アルがえらく面白い顔になってるんすけど?」
不機嫌そのものの私の顔を見て、バートが警戒する。
「なあ、バート マローからジュレルの丘まで、お前なら普通どう歩く?」
「はあ? 何言ってるんすか」
アリオスが、私の【冒険者のススメ】をバートに見せる。マップのページをじっと覗き込見ながら、人差し指をすすすっとS字に動かした。
「マローからでしょ? 普通この街道に沿って、ここまで来るんじゃないっすか? 今日の馬車もこの道通ってたし?」
「ほら、わかったか?」
アリオスが【冒険者のススメ】を閉じて、ポンとその本で私の頭を軽く叩いた。
「アル なんでそんなに頬っぺたを膨らませてるんだ?」
ますます頬を膨らませた私にバートが尋ねてきた。何でと言われても、腑に落ちないからだよ。もう一度、【冒険者のススメ】を開いてバートに見せる。
「バート このルートは、どう思う?」
私は、マローからジュレルの丘までまっすぐに指を滑らせる。
「はあ? 道じゃないじゃん 空でも飛ぶのか?」
「ぶはっ」
「アリオスさん?」
堪えられなくて、アリオスが再び噴き出した。目尻に涙まで浮かべているじゃん。
「嬢ちゃんは、以前、そのルートをてくてく歩いたんだと」
「はあ? 歩くって ほぼ森じゃん 獣道だってあるかわからんし 途中大きな川もあんのに?」
バートは、あり得ねえっと呆れた顔をして私を見た。
「川は、ピョーンって飛んだ」
「ブハハハハハ ダメだ 嬢ちゃんに殺される」
「ア、アリオスさーん 俺だけでは、アルを制御できません」
バートまで、悪ノリし始めた。あちらこちらから視線を感じ、周りを見渡すと、未だに課題をクリアしていない冒険者たちが、もの凄い形相で私たちを見ている。
「なんか、睨まれてる」
「お前のせいで、素材が見つからずイライラしてんじゃねえの?」
「アルが、取り尽くしたからな」
私のせい? まだまだ素材はいっぱい残ってるけどなぁ? 仮設テントを見ると、両手を上げてぴょんぴょん飛び跳ねている冒険者がいる。あれは、モナリィかな?ツインテールが上下に弾んでいる。隣のレンは、疲れきった顔をして、膝に手を置いてぐったりしていた。
「ふうん あの状態で課題クリアか アイツら優秀だな」
モナリィが、私の姿を見つけ、両手をぶんぶん降っている。私が、手を振り返すと隣のレンに声をかけて、こっちに歩いて来た。モナリィの傍にスピーダーパンサーもいる。
「はいはーい アルさーん お待たせ」
「はあ、酷い目に合った」
さっき、アリオスから私のせいだと言われてしまったばかりだ。ここで突っ込んだらまた笑われるのが目に見えてしまう。
「わお SSSランクのアリオスさまだ」
「お、俺 レンって言います 展覧会行きました!」
「ぶはっ」
やられた。今度は、私の腹筋が崩壊してしまう。レンもアリオス展覧会に行ったんだ。そして、展覧会と聞いて苦い表情をするアリオス。私が笑いを堪えていると、ジロリと睨まれた。
「えー あー そうだ 酷い目って何だ?」
あ、バートが裏切った。私が敢えてスルーしたのに、掘り起こしちゃった。今度は、私が、バートをジロリと睨む。
「そうそう アルさん スズラ草の採取大変だったんだからね 根っこしか残ってなかったんだから」
「根っこ?」
「そうなんですよ 私、ヒーラーだったから 植物成長のグロウって魔法で何とかなったけどね」
「おかげで、俺は、森まで走ってニードルチップの採取しか出来なかった」
レンが、疲れたと遠い目をして呟いた。
「ほら、取り尽くしてなかったでしょ?」
「でしょじゃない!」
レンとモナリィに突っ込まれた。仕方がないので、バートのお腹にグーパンチする。
「ぐほっ」
「裏切り者め」
「ぶはっ」
レンとモナリィが、私たちのやり取りををキョトンとした表情で見ていた。




