87 濡れ衣と猛抗議と私
「信じられねえ あれから1時間も経っていないんだぞ」
12の時の鐘が鳴るにはまだ、半刻以上も時間がある。ジュレルの丘には、ようやく他の冒険者たちが到着し始めた頃だ。
「それになんだ? 俺の知ってるマンドゴラと違う」
「僕の知ってるマンドゴラとも違いますよ」
「だよなぁ ほら、こう、枯れ枝のようになった老人みたいな……」
「ダメですよ ルーカスさん まずは、鑑定」
先ほどよりも素直だ。最初は、疑って噛み付いてくるようなタイプだったのに、私のいない間に反省をしたのかな? ジャビルの指摘にも素直に頷いている。
『いやん』
マンドゴラが怪しく鳴くたびに、ぎゅっと唇を固く結び、眉を寄せるルーカス。鑑定具に表示された査定内容を見て、細めの瞳がみるみる大きくなった。
「マジか? 信じられねえ」
ルーカスの呟きを聞いて、ジャビルが鑑定具を覗き込む。
「おっひょ! 特Sなんて初めて見た 超高品質じゃないですか!」
「アルさん 取り敢えず、追加で評価に加えさせてもらう」
「どうも …………えっとね」
「ダメだ」
何も言っていないにもかかわらず、ルーカスがピシャリと拒絶された。
「まあ、まあ、まあ ルーカスさん アルさんの話、ちゃんと聞いてあげましょうよ」
「はあん? 聞かなくてもわかるだろ 絶対にまだ時間があるからって話に違いねえよ!」
「おお! ルーカスさん 正解です」
でしょうねとジャビルも苦笑いをする。
「アルさん 次の課題に備えて、ゆっくり休憩しましょう」
「まだまだ時間が余ってるのに?」
「頼む 大人しくしといて欲しい これ以上は勘弁してくれ」
悲壮感溢れる表情で、ルーカスに断られてしまった。私としては、まだまだ十分余力が有るんだけどね。
『わふっ』
私の腕の隙間から、ボフッと真っ黒な毛並みの毛むくじゃらが、突然顔を出してきた。そして、背後に立つ人影が私の頭をグリグリと撫でる。
「ちょっと、髪の毛ぐちゃぐちゃになる」
「ちょうどいい、丸い頭があったし、ついな」
「ア、アリオスさん!?」
毛むくじゃらがいるってことは、アリオスもワンセットでいるってことだけど、ジャビルとルーカスは、あまり面識がないのか、声をひっくり返して驚いている。
「ウチの嬢ちゃんが、何かやらかしたか?」
「ウチの?」
「師匠! 相変わらずヒドイ! ちゃんと真面目に課題クリアしましたよね」
「師匠?」
ん?私とアリオスが、師弟関係ってギルド職員にも知らない人が、まだいたの?
「えっと、私の師匠の アリオス師匠です?」
「何で疑問系なんだ 何でだ?」
額を指先で弾かれ、地味に痛い。私たちのやり取りを見て、ルーカスとジャビルは、まるまるとした目で見ている。
『いやん』『いやん』
『わふっ?』
マンドゴラを太い前脚で突いて、首を傾げる毛むくじゃら。そして、マンドゴラの声を聞いて、視線を向けたアリオスのお口が大きく開いていく。
「おい、その素材は、何だ?」
「はい、全てアルさんが採取した素材です」
アリオスの質問に、元気よくハキハキと答えるジャビル。私も、ふふんと胸を張る。
「ジェシカ! ジェシカ! ちょっと来い」
少し離れた場所で、馬車を降りようとしているジェシカがいた。バートは、意外と紳士らしくジェシカが馬車を降りるのに手を出してエスコートしている。アリオスは、ジェシカをほったらかしにして、こっちにやって来たのね。
「ない! まったくない!」
大きな声を上げて、レンとモナリィが慌てて仮設テントに走って来た。
「遅かったか」
アリオスが、手のひらで額を覆いながら天を仰ぐ。
「どうしたんですか? 何かあったんですか?」
「違う、違うのよ 何もないの ないから困ってんの」
「何もないって?」
「リストの素材だけ 何処にもないのよ!」
「って、どうして そこに大量にあるの?」
レンとモナリィに捲し立てられ、両手を振りながらどうにか二人を落ち着かせたいジャビルとルーカス。
「アリオス 大きな声を出して 何があったの?」
「え? アリオスさん?」
「うぉっ! ほ、本物のアリオスさんだ」
アリオスの存在に気がつかないほど、慌てるなんて、何があったんだ?
「ジェシカ アレを見ろ アレを」
「あれ? ………… あら まあ」
アリオスが、顎をしゃくりながら、仮設テントの脇に置いている素材を差す。全部私の採取した素材の山だ。
「嬢ちゃんがやらかしたのは、全部ギルドがどうにかするんだよな?」
「し、師匠! 私、何もやらかしてない 真面目に課題クリアしたよ」
完全なる濡れ衣だ。アリオスの発言に唇を尖らせ、猛抗議だ。
「やらかしまくりだ! 課題の素材を全部取り尽くしやがって」
「はあ?」
「あ!」
レンとモナリィが、大きな驚きの声をあげる。アリオスに言われ、私は、ポンッと両手を合わせた。
「暇だったんで つい 全部取っちゃったかも?」
「ほら ジェシカ 仕事だぞ このままじゃ 嬢ちゃん以外全員不合格だ 後はギルドが面倒見ろ」
私は、アリオスに襟首を掴まれて、子猫のように連れ去られる。
「やらかすとは思っていたがな」
クククと悪い笑みを浮かべて笑うアリオス。強制的に私は休憩をさせられることになった。
何事もほどほどが、一番ってことかな?




