85 暇つぶしとノルマと私
ジュレルの丘、到着宣言をする私に、目の前のギルド職員の大きく目を開いて私を見る。これは、もう一度、到着宣言をするべきなのかな?
「えっと、Cランク冒険者のアルです ゴールは、ここで合ってますよね?」
「ああ、確かにゴールは、ここだ 間違っていない」
「ルーカスさん、ルーカスさーん 今すぐ、待機って彼女のことなんじゃ」
「あ、ありえねえ たった今、始まったばかりなんだぞ」
あり得ないと言われても、到着してしまったのは、事実ですけど?
「ぼ、僕 もう一度確認して来ます」
「さ、参加者リストを確認する そこで待ってろ」
ちゃんと手続きしてくれるんなら、いくらでも待ちますよ。取り敢えず、待っている間、スズラ草でも採取しておこう。あ、満月草もみっけ!おっとついでに薬草類もゲット、ゲット!
「おーい アルさーん」
黙々とスズラ草とかもろもろを採取していたら、準備が終わったのだろう、ギルド職員が大きな声で私を呼んだ。むくりと立ち上がると、私の姿を見つけ、ヒラヒラと両手を振った。
「アルさん お待たせしました 合同演習 参加者リスト、受講受付済み 確認できました」
ぺこりとお辞儀をする職員に、私も併せてお辞儀をする。
「ハイ これで、一次課題 合格です あ、それと僕の名前は、ジャビル 自己紹介が遅れて申し訳ありません」
人懐っこい笑みを浮かべるジャビル。それと相反しているのが懐疑的な表情を浮かべるルーカスだ。
「何度聞いても信じられん 今さっきだぞ 今さっき」
「ルーカスさん 一緒にギルマスに確認したじゃないですか 直ぐに到着できる冒険者がいるって」
「そうだとしてもだな はい、そうですかってなるか普通」
じっと二人のやり取りを黙って見ている私に気づいたのか、ジャビルが「ルーカスさんが、疑い深くてごめんね」と謝罪をして来た。
「ほらよ 到着確認、完了だ」
「アルさん 次の課題は、素材採取だよ 本日中に採取した新鮮な物を提出してくれる 課題のリストは、コレね 15の時までに指定した数以上を納品してね」
ジャビルが、一枚のメモを渡してくれた。課題となる素材がリストアップされている。
「スズラ草、満月草、毒消し草、マジックマッシュ、ニードルチップ、マンドゴラ ジュレルの丘や、近隣の森で採取できるの知ってるよね」
「鮮度だけじゃなく、品質も評価対象だからな ズルするんじゃねえぞ」
むむむ!今、ズルって言いましたか?ジャビルは、いい人そうだけど、ルーカスについては、私の中で敵認定確定だ。
『ホッホー』
「だよね アーくん」
私は、ルーカスをじっと見つめた後、にっこり笑った。
「本日中に採取した、高品質な素材なら良いんだよね」
「ああん さっきそう言っただろう 聞いていなかったのか? 面倒くさいな」
「ほい、ほい、ほい スズラ草、満月草、毒消し草だよ ほら、早く査定して」
アイテムボックスから、指定された素材を取り出して、ドンドンドンと並べて置いた。
「うへ?」
「はあ? どういうことだ 意味がわからん」
「けっこうな時間、待たされたからね」
「だから、今日採取した素材に限るって言っただろ」
どうやら、ルーカスは、私が以前からストックしていた素材を出してきたと思っているらしい。
「そこに鑑定具があるでしょ 調べればいつ採取したかぐらいわかるんじゃないの?」
「そうだ! 調べれば、一発でわかるんだ 合同演習で、不正が発覚すれば、あんたの評価が、下がるだけだぞ」
「いいよ 早く調べて その間、もう一回採取してくるから」
私の言い分に、奥歯をぎりぎりと鳴らすルーカスは、鑑定具を使って調べれ始める。私は、再びジュレルの丘で、スズラ草、満月草、毒消し草の採取を始めた。
「ど、どうなってんだ!?」
「ルーカスさん 落ち着いてください」
私が集めてきた素材の鑑定結果が出たのだろう。背後から、二人の大きな声が聞こえてきた。
「どうだった?」
「ア、アルさん 鑑定の結果 全て本日採取された素材だと確認が出来ました」
「信じられん まだ、半刻も経ってないんだぞ」
「それで、課題は?」
「チッ 合格だ、合格」
しかし、時間は、11の時になったばかり。15の時までまだまだ時間がある。ハッキリ言って、ヒマ、暇、ひま。文字を変えても、時間が早く過ぎるわけではなく、暇過ぎる。
「ジャビルさん、ルーカスさん 課題終了の時間まで、まだまだ、時間あるよね」
「ありますよ? どうしましたか?」
「それなら、他の素材も取ってきて良い? どうせ暇だし」
私の相談に、ジャビルとルーカスが、顔を見合わせる。
「別に、良いんじゃないですか? 注意事項には、採取量の制限なんて書かれてなかったし」
「ああ、規定には、不可とはない」
査定表にポンッと印鑑を押され、手渡された。
「合同演習が終わった後、報酬が支払われるから無くすなよ」
「演習といっても、依頼と一緒なんだ」
「当たり前じゃないか 誰がタダ働きさせるかよ」
なんだかんだ文句を言ったりするが、ルーカスは根が真面目らしい。
「ありがと!」
お礼を言うと、ルーカスが少し大きく目を開いた。悪態ばかりだったから、お礼を言われるとは、思わなかったらしい。少し、バツが悪そうな表情で、私を見る。
「俺の方も、最初から疑って悪かった」
ポソリと小さな声で、ルーカスが詫びの言葉を呟く。唇が尖っているが、疑ってしまったのは悪かったと思っているらしい。
「ルーカスさん そこは、もっと素直に謝りましょうよ」
「いいよ、いいよ そのかわり はい、どうぞ もう一回査定よろしくね」
どどんと採取したスズラ草、満月草、毒消し草を積み上げた。その大量の素材を見て、ルーカスの頬が引き攣ったのだった。




