81 モテ男と八つ当たりと私
【白銀の翼】のギルドマスターだったゴーツクン、そしてそのギルドの筆頭魔術師として活動していたムガル。その二人が、消された?
「朝方、二人が倒れているのを見回りの騎士が発見 見つけた時には既に息はしていなかったらしい」
「自殺の可能性は?」
エルビスが、静かに左右に首を振った。
「二人とも牢で拘束していたらしいが、武器の所持はしていなかった 同じ刃物で喉を掻き切られていたらしい」
「………トカゲの尻尾切りか」
「だろうよ 状況証拠から二人とも極刑は免れなかった にもかかわらず消された 知られちゃ都合が悪い輩がいるってことだろうよ」
エルビスとアリオスの会話を側で聞いているだけで、心臓がバクバクしてくる。【白銀の翼】について、私は上部だけしか知らない。隣に座るジュークも同様に大きく目を開いて驚きを隠せないでいた。
「後、ヘルミナとコーザが姿を消した」
「コーザって、あのコーザか?」
「ああ、ヘルミナの尻に喰らいついたあのバカだ」
コーザ……。万年Eランクだった冒険者。【娼館狂い】なんて恥ずかしい二つ名を付けられていた。ヘルミナの誘惑に負けて、マローから【白銀の翼】に鞍替えしたけど、結局一緒に騎士団へしょっ引かれてしまった。
「どうでもいいけど、気味が悪いな」
「最後の最後までしょうもない奴だ」
むむむと眉を寄せて考え込んでいたら、大きなアリオスの手のひらが、ぽんっと頭の上に乗せられた。そして、ぐちゃぐちゃに髪の毛を乱される。
「ちょっ 師匠! 何すんの」
「変な顔だったから、ついな 今、考えても仕方ないだろう?」
「そうだと思うけどさ」
「ギルマス 情報源は、モーティスか?」
そうだとエルビスが、肯定する。ぐちゃぐちゃにされた髪の毛を手櫛で整えてると、今度は、頬を摘んできた。
「なら、新しい情報があれば連絡が来るだろう ギルマス引き続き頼むよ」
「わかった」
よし、帰るかと両膝をぽんと叩いて、アリオスが立ち上がる。アリオスが言う通り、今思い悩んでも仕方がないんだと思う。だけど、ゴーツクンとムガルが消されたてしまったこと、そして、ヘルミナとコーザが行方を眩ましたことは、私の中でしこりとなって残ってしまった。
話は終わりだと帰ろうとすると、ジェシカからちょいちょいと呼び止められる。
「アルちゃん 今後、冒険者として、ランクアップは、考えてるの?」
「ランクアップ……」
【白銀の翼】では、Sランクとして登録していたけど、ずっとお気楽に過ごしたいと思っていたから、低ランクの冒険者で過ごすつもりだった。面倒見の良い、ジェシカやエルビス、アリオスに甘えていたから深く考えることはなかったけど、【白銀の翼】は、消滅してしまったんだ。
「嬢ちゃん 急ぐ必要はないぞ やりたいこと、まだまだやってみたいことあるんじゃないのか?」
アリオスの言葉に、目をぱちくりしてしまう。良いの?
「というか、俺たちは、ランクアップを目指しているわけじゃないからな」
「そっか、そうだよね」
「ジュークだって、今日登録したんだから、Fランクだしな 今さらってことさ」
アリオスの言葉に、ジュークもこくりと頷いた。
「私も初心者の冒険者として精進してまいります」
「ジューク そうだね 私たちはまだまだ新人のはず!」
私たちのやり取りを聞いて、ジェシカが一枚のチラシを取り出した。
「私も急ぐ必要はないと思ってるわ ただ、一度世間一般の冒険者というものを知っておくべきじゃないかと思ってるの」
「どういう意味だ?」
ジェシカの含んだような言い回しに、アリオスが片眉を上げて、尋ねる。
「アルちゃんは、SSSランクのアリオスの弟子として良い意味でも悪い意味でも注目されているの」
「はん 言わせたいヤツには、言わせとけ しょうもない」
ジェシカの言葉の奥に含む意味を理解したアリオスが、ハナを鳴らす。
「ジェシカさん、悪い意味って何?」
「やっかみよ どうして、あの子ばかりって感じでね」
「私、別にどう思われても平気だけど?」
本当にどうでも良い。元々、お一人様を満喫したかったのだし?
「だからこそ、これ 一度参加してみない?」
アリオスが、ジェシカの差し出したチラシを奪い、読み込んでいく。
「へえ、面白いな だけど、嬢ちゃん参加したら、とんでもない結果になるけど問題ないのか?」
なに? 何気にその言い方ひどい。アリオスの手に持つチラシを横から覗き込む。
「良いのよ 少しくらい実力差わかったら良いんじゃない?」
「えっと、Cランク限定 合同演習?」
ジュークも興味を持ったのか、私の横から顔を出してチラシを覗く。
「心技体を極めろ 新人王決定戦?」
ジュークも、チラシを読んで首を傾げる。
「毎年、その年Cランクになった冒険者限定で合同演習を開催してるの そして、これは、冒険者たちの査定の一つでもあるのよね その演習で最も優秀な成績の冒険者が、今年に新人王ってわけよ Cランクになると、調子に乗ってくる子たちもいるからね 自分の力量を知ってもらうのにちょうどいいのよね」
困っちゃうわと頬に手を添えて、ジェシカが首を傾げる。
「早くランクを上げてくれとか、アリオスを紹介しろとか、【白雪】に入りたいとか、バートと結婚したいとか、アリオスに手紙を渡してくれとか、アルちゃんだけがアリオスの弟子なんてずるいとか…………」
言葉を発すれば発するほど、だんだんジェシカの目が据わってきているんですけど? うん、深くは考えないでおこう。アリオスもバートもモテモテだったんだね。
「だからね アルちゃん お願い 蹴散らして」
ね?っと可愛らしく言われても、目の奥が笑ってませんよ、ジェシカさん。




