80 名付けとジュークと私
今日は、19号さんが、マローで改めて冒険者登録をしたいと言うので、私とアリオスが付き添いがてら、ギルドについ来ている。
「ギルドマスターが、執務室まで来てくださいとのことです」
受付カウンターに座るお姉さんが、私たちを見てにっこり微笑む。
「ハァ わかった」
アリオスが、一つ大きく息を吐いて、返事をした。エルビスもジェシカも【白銀の翼】やヘルミナの動向について、気にかけてくれてたしね。それに、マローの街の外れにあるとはいえ、孤児院が魔物に襲われた事実は隠せない。私たちは、エルビスの待つ執務室へと向かった。
「アルちゃん 災難だったわね」
「ジェシカさん ただいま」
執務室には、副ギルドマスターのジェシカも当然いて、優しく微笑むジェシカに私は抱きついた。そんな私たちを見て、エルビスもポンポンと頭を撫でてくる。エルビスとジェシカは、私にとって父親や母親のような存在なのだと思う。
「それで、この男が、元ヘルミナのお供の一人ってか?」
「この度は、アル殿に解放していただき、更にマローで冒険者として受け入れていただきありがとうございます」
呪印から解放された19号さんは、とても礼儀正しい。孤児院の子どもたちにも「です」「ます」と丁寧な口調で話をする。もっと、砕けた感じで話せば良いのにと伝えたところ、唇がむにゅむにゅとなって、何も喋れなくなった。
「長年、この話し方なので、他の話し方だと、言葉が出てきません ご勘弁願います」
眉尻を下げられ、泣きそうな表情で訴えられてしまった。もう、「です」「ます」は、口癖の一つだと思うことにした。
「それで、名前はどうすんだ? 19号ってわけにゃいかんだろ」
「私も、奴隷として生活してきたため、名前という名前を持ち合わせておりません」
そう言うと19号さんは、私の顔をじっと見つめる。
「え? なに?」
「私は、アル殿、あなたに名付けていただきたい」
真っ直ぐに19号さんが、私を見つめてくる。
「マジか? 言っちゃあなんだが、嬢ちゃんのネーミングセンスは、壊滅的だぞ」
「師匠 それは、酷い」
ジェシカは、口元を押さえて、くすくす笑う。エルビスもうんうんと頷いている。そんなにですか?
「アル殿からいただいたというのが、大事なのです」
「んー、本人が良いって言うんだ 名付けてやれば良い」
「ギルマス さっき師匠の言葉に頷いてたよね」
「なんのことだ? 知らんな」
出た。すっとぼけ。まあいい、ジュジュが舌を巻くような名前を考えてやろうじゃないの。19号さんをじっと見ると、期待に満ち溢れた表情をしている。ちょっと眩しいです。
「19号さん、今日からあなたは、ジュークでどうかな?」
「ジューク!」
「ジュークだぁ?」
「あら、まあ」
何よ、その反応は。保護者組みが、私をとても残念な表情で見つめてる。名付けられた19号さんは、「ジューク、ジューク」と何度も反芻している。
「アル殿、素敵です 私は、今日からジュークを名乗ります」
「ま、まじか? ジュークだぞ 犬にイヌ、猫にネコって名付けるレベルだぞ? やり直すなら今しかないぞ」
19号さんは、アリオスの言葉に対して、左右に首を振った。
「ジューク 素敵な名前です 私の故郷の言葉で、前を向いて歩くという意味があります これから、新たな人生を歩く私にとって、これ以上ない名前です」
「あ、そうなんだ」
19号さん改めて、ジュークは、嬉しそうにエルビスやジェシカと握手を交わしていく。
「私は、ジュークです よろしくお願いします」
「ふふん ジュジュ並みのネーミングセンスだったでしょ」
「はいはい 良かったね」
くぅ、アリオスに軽くあしらわれてしまう。でも、偶然だとは言え、新たな一日を迎えるジュークに喜んでもらえて良かった。
「ジューク それじゃあ、これがタグプレートだ 身分証明書にもなるからな」
「はい、ありがとうございます」
「それで、ジュークも【白雪】の一員ってことで良いんだな?」
「ああ、下手なことしやがったら俺が責任を取る」
なら良いと、エルビスもジュークの加入に納得してくれた。チーム【白雪】に新メンバー加入だ。
「もともとムガルが、護衛としてそばに置いていたくらいだ、戦力としては申し分ないはずだ」
「エルフ族だし そうだろうな」
「ご期待に添えるよう 精進します」
否定しないってことは、それなりに自信のある証拠だろうね。
ジュークの加入が決まり、エルビスが改めて神妙な表情になる。
「良い報告と悪い報告、どちらから聞きたいか?」
アリオスが、組んでいた足を左右入れ替える。私もジュークも背筋を伸ばした。
「良い報告からで」
「状況証拠から【白銀の翼】の不正が明らかになった 即日ギルドの認可が取り消された 実質、消滅したってことだ」
「消滅?」
「アルちゃんに対して、【白銀の翼】についての脅威がなくなったってことだ」
【白銀の翼】が消滅した?
「それで、悪い方の報告は?」
「ゴーツクンとムガルが消された」
アリオスの眉が寄せられ、厳しい表情になる。ジュークも言葉の意味を正しく受け止めたようで、ゴクリと唾を飲んだ音が聞こえた。




