78 豆鉄砲と繋ぐ手と私
鳩が豆鉄砲を食ったような顔というのは、こういう顔を言うんだろうな。
「ぶっ ぶはははは がははははははは こりゃ傑作だ」
「嬢ちゃん………そりゃないわ」
モーティスは、ヒーヒーと腹を抱えて笑い始め、アリオスが残念な顔をして私を見る。
「あ、あと、ダンジョンでの仲間との連携の仕方とかも教わった……」
「先にそれを言え、それを もう遅いけどな」
「はははははは いや殿下、もう十分ですぞ 良い関係を築いてらっしゃるのがよく分かりましたぞ」
目尻に涙を浮かべながら、大いに笑ったモーティスが、19号さんに向かって言った。
「よろしいでしょう 私が、解呪に立ち合いますので、アル嬢は、子どもたちを解放してあげると良いでしょう 殿下、解呪のあと、子どもたちは如何なされるか、決まっておるのですかな?」
「ああ、マローの孤児院で引き受けるつもりだ マザーには了承を受けている」
「ありがとうございます ありがとうございます」
「乗りかかった船だ 構わん」
19号さんの顔から、緊張が解け表情が綻ぶ。そして、一筋の涙を流して、頭を下げ礼を言った。
背中に呪印を刻まれた子どもたち。解呪を見届けてもらうため、全員背中が見えるよう上着を脱がせて、一列に並んでもらう。私の背後にモーティスが黙って、解呪の様子を見ている。
私は、大きく息を吸い込み、両手を伸ばす。
「術式展開 解呪!」
子どもたちは、赤い光に包まれる。そして、背中に刻まれた呪印が、上から徐々に薄くなり、赤い光が薄まっていくと共に、完全に消えてなくなった。
下を俯いていた子どもたちが、それぞれ顔を上げ、辺りを見回し始める。その表情は、瞳に色がついたように先ほどとは変わって見えた。
「お見事!」
モーティスが、パンパンと両手を合わせて拍手する。私も嬉しくなって、振り向いて、笑顔を見せた。
「アルデリア殿 感謝の言葉だけでは、言い表せません 今後、私は、すべてにおいて、あなたに付き従うことをここに誓います」
19号さんが、私の前に跪き、右手を取って額をつけて礼を取る。
「お、お礼は、許可をしてくれた騎士団長さまと交渉してくれた師匠にしてください 私は、ただ、解呪をしただけだから」
「それでも、そうだとしても、アルデリア殿がいなければ、私たちは解放されることはなかった」
私を見上げて、19号さんが、柔らかく微笑んだ。そんな瞳で見つめられても、これ以上何もしてあげられないんだけど? 取り敢えず、名前は、アルデリアではなく、アルだよと教えた。
「懐かれたな」
「今更っしょ」
アリオスとバートが、そう呟いていたのが聞こえた。
王都ゼブディアは、私が育った街でもある。
「さすが王都 マローとは違う感じに賑やかな街ですね」
「久しぶりに来て、懐かしいか?」
初めて来た王都ゼブディアに興味惹かれるのか、バートはキョロキョロと周りを見渡す。アリオスは、逆に私に気遣っているらしい。
「ううん 何とも 懐かしく思わない」
確かに私は、ゼブディアで過ごした年数は、長いかもしれない。だけど、ずっと奴隷として扱われ、闇雲に魔物の討伐に明け暮れる日々を過ごしていた。この街に思い出という思い出がない。
「早く帰えろう」
「そうだな 帰ろうか」
アリオス、バートと頷き合う。19号さんもこれからは、マローでいっぱい思い出ができるだろう。
「モーティス 俺たちは、マローに帰る」
「殿下…… お引き止めしても無駄のようですな」
「ああ、何かあれば、エルビスに連絡してくれ」
私たちは、騎士団に見送られながらゼブディアを後にする。
「全員、アリオス殿下と御一行に敬礼!」
団長モーティスの声が響き渡る。踵を踏み鳴らし、バシッと右手をあげ手のひらを左下方に向ける。人さし指を被っている兜の右斜め前部にあてる。相変わらず、一糸乱れぬ動きだ。
「だから、そんなのいらねえってば」
「みなさん、さよなら」
唇を尖らすアリオスだが、そんなことは構わず、私は手を振った。ゼブディアには、思い出はなかったけど、今日初めて一つ思い出ができた。
「ふふふ いつかゼブディアに来ることがあれば、今日のことが懐かしく思うのかもね」
「そっか」
そして、私たちはマローへ向けて歩き始めるが、向かった先は、人目につかない私たち以外誰もいない、人っこ一人いない森の中。
「ここらでいいんじゃないっすか?」
「そうだな 嬢ちゃん いけるか?」
「うん、大丈夫だよ」
きょとんとするのは、19号さん。子どもたちも、森の中で何が始まるのか理解はしていない。
「夜営するには、狭いと思いますが?」
「夜営? 違う違う」
「さあ、みんなで輪になって」
子どもたち、19号さんも含めて、私たちは手を繋ぐ。毛むくじゃらは、輪の中に入り私に身体をピタリと寄せた。アーくんも私の肩で準備万端だ。
右手から左手へ、全員の身体に私の魔力を循環させていく。今回は、小さな子どもたちもいるから、より丁寧に魔力を流していく。アリオスも、バートも慣れてきたのか瞳を閉じて、私の魔力を受け止めている。
「大丈夫 私に身を委ねて」
少し不安そうな表情をする子どもたちに、私は微笑んだ。こくりと頷き、子どもたちもぎゅっと瞼を閉じる。
「さあ、帰ろう マローへ」
私は、大きく肺まで息を吸い込む。そして、術式を構築させ、魔術を発動させた。
「アクセス・ゲート」
深い森の中から、私たちの姿が消える。




