77 騎士団長と師匠と私
「おい、あの団長さん アリオスさんのこと、殿下って言ったぞ 殿下って」
目をぱちくりさせながら、私に耳打ちをしてくるバート。私も、こくこくと頷く。ムガルが、元王族とは口走っていたけど、真相は何も知らない。
「師匠、王子さま?」
「ブハッ」
私の王子さま発言がツボだったのか、バートが噴き出した。アリオスが、ジロリとバートを睨む。団長さんは、コホンと咳払いをした。
「これは、これは 殿下のお仲間ですか? 私は、ゼブディア騎士団、団長のモーティスと申します」
「だから、モーティス 殿下呼びはやめろと言っている」
モーティスが、顔を綻ばせ笑顔で私たちに挨拶をしてくれる。雰囲気からしてアリオスとは、近しい関係なのがわかる。
「バートです アリオスさんとは【白雪】というチームを組んでいます」
「同じくアルです アリオス殿下の弟子です」
「嬢ちゃん 殿下呼びすんな」
悪ノリが過ぎたらしい、ぽこんとアリオスから手の甲で、頭を小突かれてしまった。
「良いお仲間を得られたのですね 殿下」
「ああ 俺の信頼できる仲間だ モーティスには、感謝している」
モーティスは、アリオスの言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた。殿下呼びは、一生続きそうだね。
「団長! 宜しいでしょうか!」
「どうした」
「ハッ かの者が、アリオス殿とお会いする約束があると申しております」
「殿下、お通ししても宜しいですか?」
モーティスが、丁寧な口調で、アリオスに確認をする。
「モーティスにも会ってもらいたかったんだ 入室を許可して欲しい」
「畏まりました 入室を許可する 連れて参れ」
「ハッ!」
予想していた通り、団員に連れられて、執務室に入って来たのは、19号さんだ。連れて来られたのは、十歳未満の三人の子どもたちだ。皆が皆、虚な目をして、下を向いている。
「アリオス殿 彼らは皆、私と同様に背中に呪印を背負う者です どうか、私同様に解放していただけませんか?」
懇願する19号さんに頭を上げるようにとモーティスが言う。19号さんの表情が歪む。悪いようにはしないとモーティスが伝えると、ほっとしたのか、幾分肩の力が抜けたようだ。
「殿下、会って欲しいと言うのは、この子どもたちのことですかな? 訳を聞いても?」
「ゴーツクンらが、呪印を使って奴隷として買った子どもたちだ」
「何と、人身売買は、我が国では禁止されておりますが?」
アリオスの言葉に、厳しい表情をしたモーティス。人間としての尊厳を失う、奴隷売買。ゼブディアでは、人身売買は違法行為だ。だけど、私も19号さんだって、奴隷として【白銀の翼】で所有されていた。
「奴らは、経営の苦しい孤児院に、里親希望として、名乗り出るんだ 目当ての子どもがいれば、寄付金として孤児院に金を渡す 引き取られた子どもたちは、この子たちのように 呪印を背負わされるんだ」
アリオスが、一人の子どもの服をたくし上げる。背中にはかつて私も背負っていた呪印が刻まれていた。
「ふむ 動かぬ証拠ですな それで、解放とは?」
「ああ、嬢ちゃんが、解呪の術式を使えるんだ それで、俺たちに解放して欲しいと頼んできたんだ」
「ほほう」
モーティスが、綺麗に揃えられた口髭を指先で摘むように撫でる。そして、19号さんが、モーティスに向かって、深々と頭を下げ懇願する。
「勝手な言い分だと承知している どうか、子どもたちを解放してもらえないだろうか?」
「殿下、一つ確認しても?」
「なんだ?」
「なぜ、殿下は、現場を抑えることが、出来たのですかな?」
それは、私がと言いかけそうになったが、バートがグッと肩を押さえ、首を左右に振った。すべて、アリオスに任せろと言うのはわかる。
「ムガルって野郎は、あろうことか、マザーの孤児院に手を出しやがったんだよ」
「マザーとは、もしや、あの女傑カリーナのことですかな?」
「そうだ」
「何と命知らずな」
モーティスが、大きく目を見開いている。マザーが、すごい人だとは、聞いていたけど、ゼブディア騎士団にまで、名前を轟かせているなんて、びっくりだ。
「嬢ちゃんは、マザーの孫に魔術を教えていたんだ そこでムガルに目をつけられた」
「カリーナの孫、さぞかし大きくなられたんでしょうな」
「おう、14歳だそうだ 将来は、ヒーラーになりたいと夢を語っていた」
「そうですか」
モーティスもジュジュの生い立ちを知っているのかもしれない。懐かしそうで、何処か切ない表情をしている。
「魔術師として、才がある嬢ちゃんをどうしても手に入れたかったんだろうな 里親制度を利用して、誘拐されたんだ」
「アルデリア嬢、さぞかし怖い思いをなされたのでしょうな 心中お察ししますぞ」
「だから、師匠として、俺は、嬢ちゃんをここまで助けに来たって訳だ」
えっと、間違ってないよ。事実だよ。だけど、めちゃくちゃ端折られてるよ。バートもうんうんと頷いて見せるため、モーティスも納得しちゃってるけど、良いのかな?
「アルデリア嬢、殿下は、どんな風に師匠をしてますか?」
「えっと、えっと、えっと……… いろいろ教えてもらってます」
「そうですか、そうですか、どんなことを教えたりするのですかな?」
まさか、そんなことを尋ねられるとは、思いもしなかった。アリオスに教えてもらったこと………
「パ、パンケーキ! 美味しいパンケーキの作り方!」
「……………………… 」
モーティスの目が、点になった。ごめん、私には、アドリブは無理です。
パンケーキ師匠 再び




