75 解呪と封印と私
黒いローブのフードが脱げて、男の顔が露わになる。
「褐色の肌、尖った耳 …… お前は、エルフ族か?」
アリオスの言葉に反応して、男がコクンと頷いた。呪印が消え去り、自我が完全に戻ったようだ。今まで奴隷のように扱っていた19号に反撃されたことが、信じられないらしく、目を白黒させている。
「アルデリア嬢 我を解放してくれたことに感謝する」
「か、解放だと? 私の呪印を無効化したってことかあああああ!」
取り乱すムガルが、大声で吠える。自分に絶対的な自信を持っていたからこそ、いつも人を見下し続けていた。だから、付き従う理由が無くなれば、簡単に反旗を翻される。
「うわああああああ 出来るわけがない 解呪なんて出来るわけがない」
「唯一の縋っていたものがなくなると惨めだね」
私は、ムガルへ一歩ずつゆっくり歩を進めて近づく。もう、遠慮なんかしてやらない。ムガルは、私の溢れる魔力に気がつき、恐怖を感じたのか、ジリジリと尻をついたまま後退りをする。
「く、来るな 私に近寄るな!」
「行き止まり 残念」
私は、右手でムガルの顔面を掴み、魔力を思いっきり叩きつけた。
「術式展開 ドレイン シール ズィーゲル カシェ」
「や、やめろ やめてくれえ がはっ」
ムガルから黒いオーラが発生すると同時に、オーラがどんどん霧散していき小さくなっていく。ムガルは、泣きながら、私に助けを乞うが、許す理由がない。
「あ、アルデリア やめて、やめてください なんでもゆうこと聞きまずがらああああ」
残りカスのようになったムガルのオーラが、全て消えてなくなると、両手を床に突き、力無く頭を項垂れた状態のムガルが、嗚咽を漏らしながら、涙を流していた。
「我が姫、お見事です」
パチパチと拍手をしながらアーくんは、私を褒め称える。アリオスが、絶望に打ち拉がれるムガルを見て、自業自得だと追い討ちをかけた。
「なあ、アルは、何をしたんだ?」
「我が姫は、この小賢しい男の魔力を全て封印したのですよ」
「封印? もう二度と魔術が使えねえってことか?」
「さようでございます バート殿 我が姫が構築された術式は、……」
アーくんが、バートに私の魔術が如何に素晴らしいのかを熱く語り出した。バートも顎を撫でながら、「ほう、ほう」と頷くものだから、アーくんからの賛辞が止まらない。
「アーくん、も、もうその辺で良いんじゃない」
「いえ、我が姫、夜通し語り尽くしても構いませんが?」
「そうだな、誘拐、監禁、強襲、憲兵に突き出すためにも拘束しておくか それで、ギャアギャアうるさい女は、どこだ?」
アリオスが、ムガルを縄で縛りながらヘルミナについて尋ねた。
「奥の部屋にいるはず?」
「そうか バート取り敢えず 連れて来い」
「うぇ いやだなぁ でもしゃあないか」
アリオスに言われ、嫌そうな表情を隠さずにバートは返事をする。左手で頭を掻きながら、奥の部屋へと向かう。バートが、ドアノブを右手で回し、押し開く。そして、そのまま前を向いたまま、硬直した。
「ああん 来ちゃうの 凄いの来ちゃう」
「オラ オラ オラ 逝け 逝け」
ヘルミナの獣のような叫び声とコーザの荒ぶる大声が聞こえて来た。アリオスが、右手で顔を覆うように抑えた。
「お、お前ら この非常事態に何やっとんじゃあ!」
「あ、バートが怒鳴った」
バートが、怒鳴り声を上げながら部屋の奥へと入って行くと、ヘルミナとコーザの悲鳴と絶叫が聞こえて来た。
「きゃあああああああああ」
「うおおおおおおおお……おふっ」
「ぐあああ なんちゅうもん見せやがる 殺すぞ」
何を見せられた? アリオスを見て首を傾げると遠くを見ながら「ご愁傷様」と呟いた。アーくんを見ても、にっこりと微笑むだけで、何も言わない。
「くっそう 最悪だ」
ドンと蹴り飛ばされたコーザが、パンツ一枚の姿で、たたらを踏みながら奥の部屋から出てきた。続いて、シーツでぐるぐる巻きにされたヘルミナが、口元は猿轡をされ、お化粧が崩れて、髪の毛もボサボサに乱れた姿で現れた。
「お、終わりだ」
「オマエは、最初から終わってんだよ」
がっくり肩を落としたコーザに、バートが追い討ちをかける。アリオスが、二人の手首をロープで縛る。ほぼ裸なので、無力化されているのは間違いない。
「よし、嬢ちゃん 魔力に余裕あるか?」
一仕事終えたアリオスは、両手をパンパンと上下に打ちつけ払いながら、私に尋ねた。
「うん? 問題ないけど?」
ニヤリと笑うアリオスが、私にちょいちょいと手招きしたので近寄るとある提案をしてきた。
「えへへ やってみる」
「いっちょかましたれ」
全ては私の過去に完全なる決別を図るため。アリオス、バート、19号さん、そしてアーくんに毛むくじゃらを私の魔力で包み込む。あの時は、私の魔力を馴染ませないまま、術式を発動してしまったから、アリオスとバートは、酷い目にに合った。お陰で、カナリアとの予行練習に、役立ったよ。
「さあ、みんな 手を出して」
ロープで縛られた三人には、しっかり身体で味わってもらおう。アーくんは、フクロウの姿に戻り私の肩にちょこんと乗った。毛むくじゃらは、ピッタリと身体を寄せて来た。四人で手を繋ぎ輪を作る。19号さんは、何が起こるのか不思議そうな顔をしている。
「いっくよ〜 アクセス・ゲート」
私たちは、彼の地へ転移をする。




