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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子


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73 策士と呪印と私

 ムガルが、私の周りをウロウロしながら、時折足を止めては、私の顔を覗き込む。ニヤニヤと笑みを浮かべた表情は、唾を吐きかけてやりたいほど腹立たしい。


「まだ、諦めてないのですか? もう、誰も助けに来ませんよ」

「師匠は、来る お前が、解ってないだけだ」

「ハハハッ 無駄無駄無駄! ここは、私の結界を張り巡らせ、貴女の魔力も遮断しています 一塊の剣士如きが、追ってこれるわけがない」

「師匠は、SSSランクだ お前が、師匠を語るな」

「何がSSSですか アルデリア、貴女が知らないだけですよ ただ、元王族だったから、SSSになれただけですから」


 顔を手のひらで覆い、肩を振わせながら声を出してムガルが笑う。初めて知らされるアリオスの過去。だけど、一緒に過ごしたからこそわかっている。アリオスの実力は、ランクに関係なく本物だ。ムガルが、私の顎を掴み、顔を上へ向かせる。


「あの男は、魔物の処理で、未だに手一杯ですよ まだ、気づかないのですか?」

「な、何を?」

「アルデリアも見たでしょう 魔狼の群れを 魔狼だけではない 今頃四方八方から魔物の群れに襲われている アハハハハハハ 気づかなかったでしょう 気づかなかったでしょう?」


 言葉を発するたびに吹きかかる息が気持ち悪い。顔を背けようとしても、ムガルが顎を捉えてそれを許さない。もがけば、もがく程、ムガルを喜ばせていた。


「アルデリア 良い表情です もっと、私のために苦しみなさい あの時のように泣き叫びなさい ああ、思い出すだけで 熱り勃ちそうです」

「だ、誰が 泣くか」

「無駄です 無駄、無駄、無駄! なぜ、発生した魔物が孤児院に集まって行くのか解りませんか?」

「聞く必要は、ない!」

「ハハハ 強がりですか 魔物寄せですよ 魔物寄せ 感知能力の高い貴女を孤児院から連れ出し、孤児院の周りに魔物寄せを大量に配置したんですよ 」


 だからか!やたら匂いの強い食べ物やお土産を用意していたのは、私の感覚を鈍らせるためだったのか!


「私の作り出した魔物の大量発生(スタンピート)で、孤児院は、壊滅するまで魔物に襲われ続けるのです いくらアリオスでも敵わない どうですか? 私の計画は、完璧でしょう」


 自分自身に絶対的な自信があるのだろう、すべてが計画通りに進んでいると疑っていないことが解った。


「私の居場所は、マローだ」


 そう言った瞬間、ムガルが私の頬を打った。勢いよく床に打ちつけられ、上から後頭部を押さえつけられる。


「まだ、そんな迷いごとを言ってるんですか?」

「何度でも言ってやる 私は、マローに帰る!」


 ムガルが、私の上に馬乗りになろうが、怯むことなく、「マローに帰る」と言い放った。ローブを剥ぎ取られ、服をたくし上げられ、私の背中が露わになる。


「やはり、呪印は消えてしまっているのですね ゴーツクン程度では、維持が出来なかった アルデリアには、ここに二度と消えない呪印を焼き付けましょう」


 ピタピタと背中に手のひらを押し当ててくる。かつて、私に刻まれていた呪印と同じ場所に新しく刻みつけるとムガルが高笑いしながら言った。


「私の術式であれば、貴女には逃げるという選択肢は無くなります さあ、もっと、貴女の絶望を私に見せてください」

「呪印を刻みたければ、刻めばいい だけど、私は、マローに絶対に帰るんだから!」


 生意気だと後ろ髪を掴まれて、床に顔を打ちつけられる。額が切れて、血が流れ出ようが、「絶対に帰る」と言い続けた。


「ハァ 自らの意志で、私の元に残ると言って欲しかったんですが、まあ、良いでしょう アルデリアの望み通り、今すぐ呪印を刻んであげましょう」


 剥き出しにされた私の背中に、大きく息を吸い込むと、ムガルが両手を当て、魔力を流し始める。途端に、背中にナイフで傷を刻みつけるような痛みと、焼印を押しつけられたような熱さが同時に襲ってきた。


「ぐあぁぁ!」

「泣きなさい 叫びなさい これで、貴女は、私の物 あぁ、何という美しい調べ 永遠に貴女の声を聞いていたい」

「ぐっ あぁぁ は、反転!」


 パンと大きな音と共に、背中に刻まれた呪印が、跡形もなく綺麗に消え去る。ムガルは、衝撃で、私の上から吹き飛ばされた。


「ハァ ハァ ハァ ハァ ざ、ざまあ ハァ ハァ」


 呼吸をするごとに、大きく肩をが上下に動く。ムガルが、無言のままゆらりと立ち上がった。外で『ホッホー』とフクロウの鳴き声が聞こえた。


「な、何をした! 何をしたあ!」


 自分の術式に絶対な自信を持っていたムガルが、激昂する。顔を真っ赤にさせ、額には血管が浮き出ている。ムガルは、知らない。解っていない。私が、限界突破しているという事実を。


「もう、終わりだよ」

「な、何がだぁ!」


 策士、策に溺れる。たった一つの綻びで、全てが破綻する。ムガルが、髪の毛を振り乱し、両腕を振りながら、喚く、叫ぶ。


『ホッホー』


 小さな明かり窓のガラスが割れると共に、一羽のフクロウが部屋の中に飛び込んできた。


『あおーーーーーーん』


 今度は、遠吠えが聞こえる。そのよく知る声に、身体中の力が抜ける。心配そうに覗き込むアーくんに、ほにゃりと笑って見せた。そして、今度は、ゴゴゴと地鳴りと共に床からズズズと真っ黒な大きな扉が迫り上がってくる。


「何だ! 何が起きている!」


 状況が飲み込めずに、ムガルが大声で叫ぶ。


 完全に扉が迫り上がる。そして、ギギギと重厚感溢れる音を立てながらゆっくりと扉が開いていく。

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