7 サイクロプスとランクと私
査定を終えたジェシカは、清書した査定表をそのままエルビスに手渡した。時折大きく目を開いたり、眉間に皺を寄せたり、首を上に向けて天を仰いだり、忙しく表情が変わっていくエルビスが、なんだか面白い。
ジェシカと二人並んで、私の目の前に座るとジェシカの作成した査定表に金額を書き記して私に差し出した。
「サイクロプスってのは、獰猛で危険度の高い魔物であるが故に、部位欠損なんて普通なんだ アルちゃんの持ってきたコレは、部位欠損どころか傷一つない状態だった それで査定額は540万ダリルってところが相場だろう」
「………540ダリル」
1000ダリル目標にしていたが、半分にも届かない。もう一体出せば、さらに540ダリルで目標額に到達する。もう一体のサイクロプスを取り出そうとすると「待て待て待て」とエルビスに慌てて止められた。
「アルちゃん 俺の話を聞いていたか?」
「540ダリル……」
「違う!万だ万 540万ダリルだ」
「うぇええ!?」
聞き間違いだと思ってました。万なんて額、見たことも聞いたことも無かったので、聞き流していました。ジェシカは、アイテムボックスから覗くもう一体のサイクロプスの頭を見て「やっぱり他にも魔物を蓄えていたわね」と遠い目をしていた。
「それで、どうする?売るか?」
査定表を指先でピンと弾き、改めて私に手渡した。サイクロプスプスの瞳は、魔眼でもあり、牙も角も血液さえも全て完全な状態で欠損が全くないことが更に査定額を上乗せしていた。
「売る………売るよ」
「そうか わかった」
ある意味大きな商談でもあった事もあり、エルビスは、ふうっと大きく息を吐いた。
タグプレートをエルビスに差し出せば、私のギルド口座に540万ダリルもの残高がその場で振り込まれた。
登録者:アル
冒険者ランク:C
レベル:1
受注依頼:0
依頼成功:0
依頼失敗:0
褒章:無し
ペナルティ:無し
報酬:5,400,000ダリル
「ん?んん?」
何だろう?表示がおかしい?目をゴシゴシ擦って見るも、見間違いではないようで、エルビスとジェシカを見るとニヤリとイタズラが成功したような笑みを浮かべた。
「おめでとう アルちゃんは、今日からCランクだ」
「当然よねぇ なんせサイクロプスを一人で討伐出来るんだもん」
あの、今日、新人講習会受けたばっかりなんですけど?
「大丈夫 大丈夫」
「そうだそうだ ランクなんて黙ってりゃ誰にも判らんさ」
そうなのかぁ?そんなことないような気がするんだけどなぁ?
「ピカピカのタグプレートがCランクなんて誰も思わないし」
そ、それだ!私は、タグプレートに術式を展開。機能を制限しないように複数の魔法陣を定着させていく。
「劣化耐性展開 時間停止展開 状態保存展開 紛失防止展開 硬質化展開」
コレで良しっと、思いつく限りのバフをタグプレートに施し、一息吐いた。私のタグプレートとは、永久にピカピカ 新品同然で間違いないだろう。
視線を上げるとなんとも言えない表情をしたエルビスとジェシカが揃って眉間に皺を寄せた。
「そこら辺の武器よりも凶悪なタグプレートだわ」
どういう意味だろう?首を傾げて見せると、エルビスは、私のタグプレートを摘み上げ、フンッと手首のスナップを効かせ壁に投げつける。そして、そのままズドンと壁に突き刺さるタグプレート。
「こういう事だ」
「私の大事なタグプレート!!」
壁一面に蜘蛛の巣のようなヒビを走らせた中心に突き刺さるタグプレートには、傷一つ付くことはなくその存在感をしっかりとアピールしていたことは言うまでもなかった。
壁に突き刺さったタグプレートを抜き取り、ピカピカで新品同然の状態であったことに安堵した私は、改めて首から下げる。胸元で、ピカピカに輝くそれは、まごう事なき新人冒険者の証。残念ながら中身は意図をせずCランクになってしまったけどね。
「それで、これからのことだが、具体的にどのように活動をしたいんだ?」
勝ってにCランクにした癖に私の主体性については、希望を聞いてくれるらしい。
「今までは、魔物や魔獣の討伐ばかりしてきた 命令だったから仕方なかったけど、仕事を選んでも良いなら 素材の採取や屋根の修理とかやってみたい」
「あらまぁ、任せて見繕ってあげるわ」
優しく微笑むジェシカにありがとうと頭を下げる。
「とういうことは ソロとしてやっていくってことだな」
「もう縛られて生きるのは…いやだ」
もう従属の呪いはない。私は、私として生きていきたい。ジェシカが、今にも花が綻ぶような柔らかい笑顔でパンと両手を合わせた。
「自分のために自由な時間を過ごす……とっても素敵じゃない お一人様を満喫するわけね」
「お一人様?」
「なぁるほど お一人様かあ 縛りなし悪くねぇな」
「そうよ だってアルちゃんは、独りぼっちがいいわけじゃないんだもの 今までできなかったことを自由に楽しみたいだけ そうよね アルちゃん」
うん、うん、ジェシカの言う通りだ。初めて知る優しさに戸惑う自分。だけど、空っぽだった自分の心が満たされて始めた。
「ジェシカさん ありがとう 私、お一人様 満喫するよ」
私は、新たなる決意を胸に、椅子から立ち上がり宣言をしたのだった。
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