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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子


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69 高級弁当とアリオス展と私

 警戒しているのが、馬鹿らしくなるくらい、ムガルは何もして来なかった。


「それで、子どもたちのお土産にと 大量のケーキまで買ってくれたってわけか?」

「うん リズにショーケースから好きなだけ選んで良いよってさ」


 帰ってきて早々に、リズはお土産をジュジュに渡して他の子どもたちと一緒に食堂へ行った。今頃、みんなとケーキを食べているだろう。


「それで、嬢ちゃんは、口説かれたか?」

「ううん 別に何も言われてない 本当にリズとの距離を縮めたいって思うくらい、何も言ってこなかった」

「うわぁ 胡散クセェ」


 バートが、顔を顰めている。アリオスも腕を組んだまま顎を撫でてバートに同意する様に頷いた。


教科書(マニュアル)通り過ぎるだろ 気持ち悪い」

「世間知らずな嬢ちゃんに五歳児のリズに対して効果的面だしな」

「えっ? どう言うこと?」

「ほらな」


 全くもってその通りだと、アリオスとバートが私に指摘してくる。私は、今だってムガルについて信用しているわけじゃない。


「お前は、ムガルは、良い人かもって思ってんじゃねえか?」

「そ、そんなこと……ない……」

「とは、言い切れないんだろ?」


 アリオスに言われて、コクリと頷く。私だけじゃなく、リズだって警戒心が薄れていた。エスコートされ、馬車から降りる姿が、そう物語っていた。


「印象操作ってほんと怖い」

「それが、解ってりゃまだ大丈夫だ 最後まで気を抜くなよ」


 アリオスの大きな手のひらが、頭の上にポンと乗せられた。


 二日目、ムガルは昨日と同様に私たちを馬車で迎えに来た。今日は、劇場で観劇する予定だとマザーに告げる。


「昨日、リズさんが歌が好きだと聞きましたので、劇場に行ってみないかと誘ったのですよ」


 挨拶だけは、紳士同然のムガルに、マザーが私たち二人をよろしく頼むと伝えた。ムガルの瞳が細められる。


「行ってきます」


 リズの手を握り、私たちは昨日と同様に馬車に乗り込んだ。私たちが着座すると、御者が馬車の扉をゆっくりと閉める。そして馬が嘶きを一声上げると目的地へ向かって馬車が動き出した。


「お伝えしている通り、本日は劇場に向かいます 到着までゆっくりなさってください」


 ムガルは、私たちを気遣うように目的地を告げると、そのまま身体を背もたれに委ねた。リズは、昨日と同じように流れゆく景色を楽しそうに眺めている。どうして、ムガルは何も言って来ないのだろう。思わず探るような視線を向けてしまい、ムガルと目が合う。


「アルデリア、気になることがあるようでしたら、何なりとお尋ねください」

「ヘルミナは、放って置いて問題無いの? 貴方はお供なんでしょ」

「共は私一人ではありませんので、構いませんよ 私の心配をしていただけるんですか? お優しいですね」

「そ、そんなんじゃない」


 フフッと含み笑いをするムガルに、苦手意識だけが募っていく気がする。冷静に対処するようにと言われているのに、既に気持ちが負けている。


「ヘルミナ様には、冒険者の勧誘と品評会で発表したアイテムの実演販売をお願いしております」

「あぁ、あの背中に背負っていた翼とシャボン玉が出るステッキね」

「子どもたちが買ってくれると喜んでいましたよ」


 確かにあの場にいた子どもたちは、買って欲しいとおねだりをしていた記憶がある。注目を浴びることを嬉々として喜ぶタイプみたいなので、ムガル的には問題無いのだろう。ただ、あの性格で、冒険者の勧誘は、成功しないと思うんだけどね。


「アレは、アレで良いんですよ」


 笑顔を絶やさないムガルだけど、どうにも冷めた口調なのが少しばかり気になった。ただ、会話が膨らむほど親密度は、高くないためそれ以上の言葉を交わすことはなかった。


 三日目、食事に誘われた。連れて行かれたお店は、マローでも高級食材を取り扱っている老舗の料亭だ。私とリズのドレスコードが気になったが、個室を手配しているので、気にする必要はないと言われた。お土産は、料亭ご自慢の旬の魚の香草焼き弁当だった。


「馬車の中、お弁当の匂いでいっぱいだね」


 リズの感想に、私も同意だ。しばらく、身体中に香草焼きの匂いが染みついた。


 四日目、ムガルから面白い催し物があると言われ、美術館に連れて行かれた。


「お姉ちゃん、おじちゃんがいっぱい」

「マローの至宝 SSSランク アリオス展だって」


 やられた!今日は、アリオスにやられた!付き添いに徹しようと思っているのに、あり得ない甘い表情のアリオスの肖像画や絶対にそんなポーズはしないアリオスの彫刻、デフォルメされた可愛らしいアリオスグッズの数々を見せられて、耐えきる根性は、私にはなかった。


「お土産にグッズを買いましょうか?」

「いえ、全部自分で買います」


 リズにも飽きられながらもアリオスグッズを買いまくってしまった。アリオスグッズをみて、「ふざけんな あの、クソ野郎」とアリオスが青筋を立てていたのは言うまでもない。没収されそうになったため、直ぐにアイテムボックスに隠した。


「ちなみにアリオスさん アルの展覧会だったらどうする?」


 興味本位だろうが、バートがアリオスに逆の立場だったらと尋ねる。「ああん」とドスの効いた相槌を打った後、アリオスは、しばらく上のほうに視線を移して黙り込んだ。


「腹抱えて死ぬほど笑う」

「グッズが売ってたら?」

「全部買って、爆笑する」

「ひどい」

「この師匠にして、この弟子ありっしょ」


 私も、アリオスも、同じ穴の狢であることが判明した。

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