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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子


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67 法的手段と命令書と私

 ムガルは、「実績がいる」と宣言した通り、毎日孤児院に通ってくる。そして、断られることがわかっていながら、必ずジュジュとリズを引き取りたいとマザーに交渉してくるのだった。


「アンタも懲りないね」

「これも私の仕事の一つですので、お気になさらないでください」


 マザーに笑顔で応えてはいるが、目の奥は冷めている。私たちを常に物色しているようで、気味悪さが一際感じさせる。


「そうだ アルデリア 私の元に戻ってくる気はありませんか?」

「ない」

「残念ですね 以前と違って私の直属でも構いませんよ 一考の価値があるかと?」

「ない」


 明け透けに私を「アルデリア」と呼ばれるのも気に入らない。昔の名前で呼ばれるたびに、自分の居場所を奪われるような気がしてしまうから。


「悪いな、アルは【白雪】の大事なメンバーだ 引き抜きは勘弁してもらおうか それと正式に名前はアルとして登録されている 今更、抹消された過去(アルデリア)の名前で呼ばないでもらおうか」

「そうですか それも残念ですね」


 たわいもない会話をするだけして帰っていくムガルに、不気味さだけが残ってしまう。私たちだけでなく、ジュジュやリズも警戒しているが、何度も足を運ばれると理由を知らされていない子どもたちは、警戒心が薄れてしまう。現に中にはお菓子を貰って喜ぶ子どもたち、もちらほらと現れ始めた。


 そんな日々を繰り返し、いつもの様に孤児院の執務室へ行くと厳しい表情をしたマザーとグッと不安を堪えるようにジュジュに抱きつくリズがいた。


「何があった?」

「ムガルの狙いは、コレだったよ」


 マザーから手渡された一通の封筒。既に蝋封が開封され、中の書類ごと渡された。物々しい蝋封の痕が、只事ではないと私にも理解できる。アリオスは、黙って書類に目を通していく。


「それは、ゼブディアの法務局からの正式な書簡だよ やけに大人しいと思えば、正攻法で攻めてきたってことさ」

「正攻法?」

「奴は、実績が欲しいと言ってたろ? それは、私たちにとっての実績ではなく、対外的な印象操作の実績だったんだよ」

「最初から、俺らがいくら反対しても構わなかったんだ 断られても、リズを迎え入れたいという強い熱意とその熱意を汲んでも良いのではないかという判断材料が欲しかったんだよ」

「アタシは、どこにも行きたくない アタシの気持ちは?」


 幼いリズの気持ちは、届かない。涙で潤む黒目がちの瞳のリズをぎゅっと抱きしめる。


「やっぱり、私アイツをぶっ飛ばしてくる」

「待て待て待て! それこそムガルの思う壺じゃないか!」

「どうしてよ!」

「冷静に考えろ! 法的手段を使ってまで、権利を行使しようとしてんだぞ そこで、お前が暴力で訴えたら、法務局は直ぐにでもリズの受け渡しの手続きの許可を出すぞ」


 暴力じゃなくて、魔術だもん。小さく呟くと、どっちでも一緒だとアリオスが、嗜めてくる。


「あくまで、今回の手続きは、リズにとって本当に将来の支えとなる里親かどうか、見定めるための試験期間を設けろという通達だ」

「リズちゃんを 直ぐに引き渡す必要は ないってこと?」

「アタシ、まだ、ココにいてもいいの?」

「当たり前じゃないか」


 マザーもリズをぎゅっと抱きしめる。


「血は繋がっていなくても リズも私の子どもなんだよ」

「マザー!」


 今回、ムガルが取った法的手段とは、リズの里親候補として適正かどうかを見極めるための、試験期間の運用適用であることだ。


「ただし、正当な手続きを取って命令書を発行している以上、リズはムガルと会って過ごす必要がある」

「あのおじちゃんと一緒にいるの アタシ、イヤ」


 プイッとそっぽを向くリズ。私だって、リズをムガルと二人で過ごさせたくない。


「別に一人で会う必要はない 命令書のココを読んで見ろ」


 アリオスが、命令書の一文に指を差す。


「えっと 試験期間中は、本人の意思を尊重するものとし、本人の希望が有れば付き添いを許可するものとする……… ってことは?」

「そうだ、一人で会わなきゃいいんだ 付き添いが認められてるんだ 利用しない手はないだろ」


 リズとムガルを二人きりにさせないのであれば、何かあった時に対処が出来る。私が付き添いに名乗りを上げると、アリオスにすぐさま却下した。


「どうしてよ!」

「それだそれ 嬢ちゃん 直ぐに熱くなるだろ さっきもぶっ飛ばすとか言ってたしな」

「しないよ! ちゃんと黙ってる 我慢できる」


 言う側から熱くなってるだろとアリオスに嗜められる。相手は、法的手段を絡めてくるのだ、私では太刀打ち出来るわけがないと言われれば、ぐうの音も出ない。


「なあ、一つ意見しても良いか?」

「どうした バート」


 私たちのやり取りを黙って聞いていたバートが、書類に目を通しながら口を挟んできた。


「ムガルの狙いは、リズちゃんじゃなくて、アルなんじゃねえの?」


 ムガルの狙いは、リズではなく、私? だけど、毎日、同じようにリズを引き取りたいと申し出して来て、マザーに断られているけど? リズが欲しいから、通い続けているんじゃないの?


「いやね、この書類の最後に、最終決定は、里親ではなく里子の意思を尊重する って書いてんじゃん と言うことは、試験期間があろうがなかろうが、リズちゃんの希望に沿うってことだろ?」


 アリオスが、顎を撫でながら、バートの言葉を反芻する。


「リズではなく、嬢ちゃんが狙いか?」

「ああ、アルではなくアルデリアが欲しいんじゃないか?」

「私もバートの意見は、信憑性が高いと思うね」


 バートの意見にマザーも同意する。ムガルは、拒否しても私を過去(アルデリア)の名で呼び掛けていた。全ての点が繋がった気がした。


 私は、【白銀の翼】に戻る意思は、全くない。明確にそう伝えたはずだ。アリオスが、私をじっと見据える。私は、もう過去から逃げたくない。


「師匠 やっぱり 私が付き添いをするよ」



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主人公が脳筋の考え無し過ぎて辛い…
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