66 懐刀とチームと私
当たり前のように、ジュジュとリズを引き渡せと言ってくるヘルミナに、殴りかかりたくなる。アリオスが、私の肩をグッと押さえていなければ、飛びかかっていたかもしれない。
「はんっ 話にならないね その耳は飾りかい? 私は、とっとと帰れって言ったんだがね アンタらにくれてやる子どもは、誰一人いないよ」
「ああん もう だからオバさんは、嫌いですわ」
マザーに帰れと言われたヘルミナは、顔を真っ赤にさせて怒りを露わにする。リズが、ジュジュの後ろから顔を覗かせ、ベッと舌を出した。それを見て、さらにヘルミナの怒りが募る。
「このガキッ ……て嫌だわ 私、今日は帰りますけど 諦めておりませんの」
「ああ 帰るんなら、外のあのクズも連れて帰ってくれや あの男なら、マローから引き取ってもらってかまわんぞ」
フンッと鼻を鳴らして勢いよく立ち上がるヘルミナ。後ろに従えるお供の一人が、私の顔を覗き込んできた。
「……アルデリア」
「えっ?」
不意な呼びかけに思わず反応をしてしまった。私の反応を見て、ニヤリと笑うお供の男。もう一人のお供は、ただ無表情に前を向いている。
「また、会うのを楽しみにしてるよ」
ぞわぞわと走る背中の悪寒に、奥歯を噛み締めて平静を装った。
「私には、会う理由がない」
「つれないね まあいい ヘルミナさま一旦引きましょう」
キーキー文句を言い続けるヘルミナの手を取って、執務室を出ていこうとする彼らに、テーブルの上に置いたままの札束を掴み突き返す。
「忘れ物!」
「おや、本当に不用なんですか? 後悔なさいませんように」
「とっとと持って帰んな」
お供の男が、私たちを一瞥して、軽く頭を下げて退出していった。
「あの男は、【白銀の翼】の筆頭魔術でムガルというらしい ギルドマスターの懐刀だとあの娘が紹介していたよ」
マザーが、私の肩をポンと叩き、男のことを教えてくれた。いつもゴーツクンの背後でフードの奥から覗いて見えたニヤつく口元が、私の記憶と重なる。泣き叫ぶ幼い私の背中に、声高らかに笑いながら呪印を施した男だ。あの時の恐怖心がフラッシュバックして、体が小刻みに震えていた。
「嬢ちゃん、なんちゅう顔をしてんだ 笑え、とにかく笑え」
「でも、師匠 アイツは」
私のことに気がついた。そう言いかけ、奥歯をグッと噛み締める。ジュジュやリズにあんな思いをさせたくない。ただでさえ、ヘルミナがやって来て不安に駆られているというのに。
「ハァ 相変わらず 一人で何でも抱えようとすんな 俺たちは、チームじゃないのか? それとも、まだ、信頼できないか?」
「ううん 信頼してないわけない でも、私の過去が、師匠たちに迷惑をかける」
「何言ってんだ、今だって迷惑かけまくりの癖に 生意気な口を聞くな 良いんだよ 俺たちを巻き込んで」
馬鹿馬鹿しいと笑うアリオス。バートもうんうんと頷いて同意している。リズが、私の腰に抱きついて、見上げる。
「お姉ちゃん 一人で我慢しなくていいんだよ アタシも一緒に頑張るよ」
ポロリと涙が出てきてしまった。私がリズに言ったことをそのまま私に返してくれる。
「カッコつかねえな先生よ」
「僕もぉ リズばかりには 任せませんよぉ」
ジュジュも私の手をとって、強く握りしめる。私は、一人で生きて行こうと決めて、マローの街にやって来た。だけど、いつの間にか、一人じゃなくなっていたんだ。人との絆が、こんなにも愛おしいなんて、気づくことができて、本当によかった。
「もう一度聞くぞ お前は、どうしたいんだ?」
「私、ずっとここにいたい マローが大好きだから」
「よし オマエら聞いたな 敵は【白銀の翼】だ 全員で追い払うぞ」
翌日、子どもたちを渡す気はないと明確に伝えていたにもかかわらず、孤児院にムガル一人が、訪ねて来た。
「ヘルミナさまがいると、纏まる話も纏まりませんので、本日は、私一人で参りました」
ヘルミナが一緒だろうが、ムガル一人であろうが、答えが変わることはない。【白銀の翼】の懐刀と言うだけあって、行動が早い。断られること前提で、孤児院に足を運んでいるのだろう。
「何度来ても 答えは変わんないからね」
「ええ、それでも構わないのです 私は、通い続けたという実績が有れば、十分ですので」
訪ねて来た者に、茶の一つも出さないというわけにもいかず、ジュジュがカップに注いだ紅茶をテーブルに置く。
「取り敢えず、それ飲んだら 帰んな」
「連れないですねぇ ああ、そうだ アルデリア 久方ぶりですね お元気でしたか?」
あたかも昔からの知人だとでも言いたいのか、さらりと私に問いかける。私は、ムガルには、アルデリアと名乗っていないにも拘らず、「アルデリア」と敢えて捨てた名前で呼びかけて来た。
「お陰様で、元気に過ごしてますよ」
私の動揺を誘いたかったのかもしれないが、その手には乗りません。もう、既に皆には、私が【白銀の翼】にいたという過去と「アルデリア」という名を捨て、現在は、「アル」として過ごしていることを伝えている。
思惑が外れ、私が動じないことが面白くなかったのだろう。ムガルは、「そういうことですか」と小さく呟いた。
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