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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子


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6 魔物を売ろうと思います

 案内された買い取り専用の部屋は、地下にある事もあり窓が一つもない広い空間の部屋だった。


「大きな魔物も持ち込まれる事もあるからなぁ これでも手狭になる事もあるんだ」


 今までは、直接解体作業部屋に持ち込んでいたからなぁ。【白銀の翼】にも査定部屋なんてあったんだろうか?


「さてと アルちゃん 売りたい物を出してくれるかしら?」

「ジェシカは、査定官の資格も持っているから安心していいぞ 立会人は俺だしな遠慮せず売ってくれ」


 そろそろ路銀も心許なくなってきたし、三日月亭の宿代が一泊30ダリルで、矢尻や常備薬などの消耗品も少し補充しておきたい。水筒や下着も新しく新調したい、1000ダリルくらい補充しておきたいところだ。


 アイテムボックスを開いて、徐に魔物を一体掴み引っ張り出して……っと。


「きゃぁ!」

「うおっ!」


 短い悲鳴をあげた二人を見ると、立ち上がってアイテムボックスから顔を覗かせている魔物を凝視している。どうやら、この魔物は失敗だったらしい。別の魔物に交換するためゆるゆると取り出した魔物の頭を再びアイテムボックスに押し込んだ。


「おいおいおい!ちょいと待て 何も無かったことにすんじゃねえ」

「サイクロプス サイクロプスだったわよね」

「えっと ワタシ何イッテルカ ワカリマセン」

「おいこら 誤魔化すな!」


 エルビスの大きな手のひらでガシリと頭を掴まれた。少し指が食い込んで痛い。どうしても、見なかったことにしないぞという意思がメリメリとめり込む指先から伝わってくる。


「いや、その たまたまというか、偶然入ってたじゃないのかなぁ」

「サイクロプスが、たまたまであってたまるか!」


 どうしても見逃しては、くれない様子にため息を吐きながら押し込み直そうとした魔物を引っ張り出した。3メートルはあると思われる大きな体躯。特徴的な一眼の瞳。上向きに突き出している二本の太い牙。私がストックしていた魔物の一体であるサイクロプスだ。


「こんな魔物が軽々と入るアイテムボックスたぁ 久々にたまげた」

「ひょっとしてアルちゃんが持ってる魔物って……コレ一体だけじゃ……ないのよねぇ」


 ゴクリと唾を飲み込みながら私を見るジェシカ。さっきのやり直しをしようとした事で、私が魔物を複数体ストックしている事に気がついたらしい。


「こりゃアレだな ジェシカ!お前、アルちゃんの専属担当になれ」

「もちろんよ わかってるわ!」

「ったく こんなもんひょいっと出されちゃ、秘匿性なんてあったもんじゃねえ 最初が他の職員じゃなかっただけ助かった」


 ジロリとエルビスに睨まれ、ようやく解放してもらえた私の頭。両手で頭を摩りながらぐちゃぐちゃにされた髪を手櫛で整えた。


「さてと ある程度強者であることは気付いていたが、アルちゃん…… お前さん何者だ?」


 鋭い眼光が突き刺さる。ジェシカが私の隣に沿った座り、優しく頭を抱き寄せて包み込んだ。緊張していた空気が霧散していく。


「アルちゃん 私たちあなたを守ろうって決めているの」

「私を守る?」

「そうだ 冒険者たる者 脛に傷持つ輩は五万といる 過去を無かったことにしたくてマローの街まで来たんだろう?」

「………」


 無言は、肯定を意味してしまうのは解っている。自分自身にやましい気持ちは、全くないけれど、逃げた事実は、自分の弱さを見せてしまうようで、言葉にする事ができない。ぎゅっと膝の上で拳を握り締めた。


「アルちゃん あなたはこれからどうしたい?」


 私の頭を緩く撫でながら、優しい声で尋ねられる。


「じ、自分の力で生きて……生きたい」

「それから?」

「まだまだ知らないことがいっぱいあった もっといろんなものを見て それからいろんなことを覚えて、それで世界中を見て歩きたい!」

「うんうん、とっても素敵な夢だわ」


 ほこほこと身体の奥が熱くなる。嬉しい気持ちがいっぱいに溢れそうになってくる。


「他にもやりたいことある?」

「私もジェシカさんみたいに 優しくありたい」

「あらまぁ 嬉しいわ」

「ジェ ジェジガざーん」


 涙腺が崩壊して、涙が止まらなくなった。ジェシカの柔らかな胸に縋りつき、泣きべそな私を「いい子 いい子」とずっと頭を撫でてくれる。エルビスも私が落ち着くまで、黙って見守ってくれていた。


「アルちゃん お前はとっても運が良い」

「運?」


 ズビズビと鼻水を啜り、泣き腫らした瞼をした私にエルビスが語りかける。


「ここはパルデイン王国 王都ゼブディアに次ぐ第二の都市マローだ 国内最大級の冒険者ギルドがこのマロー支部であり、俺はそこのギルドマスター ジェシカは、その副ギルドマスターでもある」

「え?ジェシカさんって?」

「黙っててごめんなさいね」


 人差し指を唇に押し当てて、右目で軽くウィンクを飛ばす仕草が、とても綺麗で、荒くれ者を束ねる副ギルドマスターには到底見えなかった。


「俺たちが、お前の後ろ盾になってやる 最強のカードの一つだと思うが、信じちゃくれないか?」

「無理に昔の事を話してくれなくて良いのよ?これから先、困ったことがあれば、何でも相談に乗るわよ」

「し、信じる!お二人のこと信じるぅ」


 最初から二人とも優しくて、いろいろ教えてくれて、困った時には、何も言わず手を差し伸べてくれる。今まで誰もそんな事をしてくれた人はいなかった。


「取り敢えず、手始めにコレの査定だな」 


真横にどしんと横たわるサイクロプスのことだ。


「しかしまぁ、傷一つついてない固体なんて初めてだなぁ」


 ジェシカが魔道具を使って調べている横で、エルビスは顎を摩りながら査定の様子を見ていた。私は、椅子に座ったまま黙って査定が終わるのを待つだけだ。ジェシカが、時折「まあ」とか「凄いわね」とか感心しながら部位の状態を書類に書き加えていく。ペンが走る音が、完全に止まるまでジェシカの呟きは止まらなかった。










モチベーションにつながりますので、

楽しんで頂けた方、続きが気になる方おられましたら、

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